子どものワーキングメモリーとは?鍛えるための遊びやおもちゃを体験談をもとに紹介!
この記事を書いた人
ヨウコ
- 養護教諭
- 公認心理師
40代主婦、3人の子育て中です。
小学校の養護教諭として15年間勤務。
退職後は公認心理師の資格を取得し、スクールカウンセラーとして従事しました。
アドラー心理学の知識を活かし、子どもや保護者の気持ちに寄り添った関わりを大切にしています。
好きなことは人の話を聴くことと、絵本の読み聞かせです。
「お願いしたことをすぐに忘れてしまう」「先生の話をきちんと聞いていないみたい」「上手に片付けができない……」。
4~5歳の子どもとの暮らしの中で、思い当たることはありませんか?
このような悩みには、子どものワーキングメモリーが関係しているかもしれません。
ワーキングメモリーを鍛えることで、記憶力の容量が増え、苦手なことを克服できる力が養われます。
しかし、そもそも「ワーキングメモリーってなに?」「どうやって鍛えればいいの?」と疑問に思う方が多いのではないでしょうか。
この記事では、ワーキングメモリーとはどんなものなのか、そして、ワーキングメモリーを鍛えるための習慣や遊び方について紹介します。
ワーキングメモリーの向上に役立つおもちゃの紹介に加えて、養護教諭やスクールカウンセラー経験のある筆者が実際に使った感想など、実践的な内容もお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.ワーキングメモリーとは?低いとどうなる?
ワーキングメモリーとは、人が作業をするときに、さまざまな情報を「保持」したり、それらの情報を同時に「操作」したりする能力です。
ワーキングメモリーは「脳の指揮者」とも呼ばれ、脳の中に流れ込んでくる膨大な情報を整理します。
生活、会話、学習などのあらゆる場面で重要な働きを果たしているのです。
たとえば、電話をしながらメモをとる場面を想像してください。
私たちは無意識に「耳で聞く」「話を覚える」「手を動かす」「情報を整理する」「メモを書く」といった複数のタスクをこなしています。
このように、日常生活におけるさまざまな「記憶の保持」と「情報の操作」において、ワーキングメモリーが必要です。
1-1.ワーキングメモリーが低い子どもの特徴
ワーキングメモリーは日常生活を送る上で、非常に重要な能力です。
ワーキングメモリーの働きが弱いと、子どもの成長に以下のような影響があります。
● 情報の整理が苦手になる
● 覚えるのが苦手になる
● 気持ちの切り替えが苦手になる
たとえば、親や先生の話を覚えられなかったり、指示を聞きながら行動できなかったりといった様子がみられます。
また、1つ1つの行動を記憶することが苦手なため、次の行動にうつりにくい点も特徴です。
園での生活にも支障があらわれるかもしれません。
小学校入学後に、「授業に集中できない」「ひんぱんに忘れ物をする」「計算や漢字が覚えられない」といった悩みにつながるケースもあるでしょう。
日々の生活において、子どもが多くの困難を感じている場合は、発達障がいの可能性も視野に入れる必要があります。(ただし、発達には個人差があるので、様子を慎重に見極めましょう)
ワーキングメモリーの能力は、ウェクスラー式と呼ばれる知能検査で確認が可能です。
ウェクスラー式知能検査は、幼児・児童・成人用の3種類があり、世界中の医療機関や教育施設でおこなわれています。
10種類の基本検査と5種類の補助検査から構成されており、子どもの知的発達が把握できる1時間程度の検査です。
検査はパズルや絵、積み木などを使っておこなうため、小さな子どもでも楽しみながら検査を受けられます。
子どもの様子が気になる方は、まず園の先生やカウンセラー、小児科医などの専門家へ相談することをおすすめします。
1-2.4~5歳はワーキングメモリーを鍛える最適な時期
乳幼児期は脳の発達が著しく、記憶力もめざましく伸びる時期です。
そのため、ワーキングメモリーを鍛えるには最適な時期といえます。
イギリスの心理学者アラン・バドリーが提唱した概念によると、ワーキングメモリーは以下の4つの要素で構成されています。
1.音による情報を保持する「音韻ループ」
2.視覚による情報を保持する「視空間スケッチパッド」
3.2つの処理に関係する「中央実行系」
4.聴覚と視覚で保持する「エピソードバッファ」
これらの要素のうち、「エピソードバッファ」で記憶する方法は、子どものワーキングメモリーに良い刺激となります。
たとえば何かを覚えさせるときは、耳(聴覚)と目(視覚)の両方が使えるように提示してあげることが大切です。
子どもが自信をもって成長するためにも、ワーキングメモリーの鍛え方に目を向けてみてください。
2.ワーキングメモリーを鍛えることで期待できる3つのメリット
ワーキングメモリーが低いことが困りごとにつながる一方で、ワーキングメモリーを鍛えると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
主なメリットを挙げてみました。
1.日常生活がスムーズに送れる
2.忘れずに覚えられるようになる
3.集中力がアップし、2つのことを同時にできる
4〜5歳の子どもの様子を例にあげながら、順番に説明します。
2-1.日常生活がスムーズに送れる
ワーキングメモリーが鍛えられると、さまざまな作業がスムーズに進みます。
たとえば、お着替えはどうでしょうか。
園生活では、一人でお着替えをしなければなりません。制服から体操服に着替えたり、夏には水着に着替えたりする場面もあります。
ワーキングメモリーがしっかりと鍛えられていれば、「自分の服を脱ぎ、たたんで袋に入れ、ロッカーに置いておく」といった作業をスムーズにおこなうことができます。
小学校に入学してからも、朝の支度がスムーズに進み、子ども本人も親もあわてることがありません。
2-2.忘れずに覚えられるようになる
大切なことを忘れにくくなる点も、ワーキングメモリーを鍛えるメリットです。
園のような集団生活は、人の話をきちんと聞く練習の場でもあります。
先生の指示を覚えられず、次に何をするのか分からなくなりパニックになる子は少なくありません。
ワーキングメモリーは、相手の話を集中して聞き、忘れずに覚える点において非常に重要です。
就学前に身につけておけば、小学校での学習にも役立ちます。
2-3.2つのことを同時にできる
ワーキングメモリーを鍛えれば、2つの情報を同時に処理することができます。
これは自宅でのお片付けの場面でも、非常に役立つのではないでしょうか。
片づける場所を覚え、手を動かして部屋をきれいに保つことができます。
また、ピアノや水泳などの習い事でも、複数の情報処理が必要です。
たとえば、ピアノレッスンでは「音を聞く」「楽譜を読む」「音符を記憶する」「鍵盤を弾く」といった過程をくり返しながら練習を積み重ねていきます。
さらに「先生のアドバイスを記憶する」「見本を見聞きして覚える」「自分の音に反映させる」などの情報処理を脳内でおこないながら上達するのです。
このように、幼児期のさまざまな場面でワーキングメモリーを鍛えておくと、学んだことを実践する能力を発揮しやすく、小学校入学への自信もつきます。
3.ワーキングメモリーを鍛えるために家庭で実践したい3つの習慣
ワーキングメモリーを鍛えるために、特別なトレーニングは必要ありません。
日常生活の中で、子どものワーキングメモリーを十分に伸ばしてあげることができます。
今日からできる、ワーキングメモリーが鍛えられる習慣を挙げてみましょう。
1.テレビやゲームの時間を減らす
2.読み聞かせや音読をする
3.一緒に料理を作る
それぞれの習慣について、くわしく説明します。
3-1.テレビやゲームの時間を減らす
子どものワーキングメモリを伸ばすためには、テレビやゲームに費やす時間を減らしましょう。
子どもの脳は大人に比べて未熟であり、感受性が強いのが特徴です。
そのため、テレビやゲームの刺激がダイレクトに脳に伝わりやすく、ワーキングメモリーの働きを阻害してしまいます。
テレビやゲームにあてていた時間を、遊びや親子の触れあいの時間に変えてみてください。
たとえば、大人がたくさん話しかけたり、一緒に遊んだりするとワーキングメモリーの発達にどのような効果があるでしょうか。
会話では「声を聞く」「言葉を覚える」「自分でも話してみる」「使う言葉を判断する」といった過程が必要です。
ワーキングメモリーを使って複数の操作を同時におこなうことで、場面に応じた言葉を選べるようになり、同時に語彙力も伸びていきます。
また、大人と一緒に遊ぶときには「大人の行動を見る」「指示を聞く」「真似をして体を動かす」「ルールを覚える」などの能力が必要です。
親子で一緒に遊びを楽しめば、子どものワーキングメモリーは十分に稼働し、さまざまな力が育ちます。
このように、テレビやゲームのかわりに親子の時間を増やすことで、子どものワーキングメモリーは自然と鍛えられます。
3-2.読み聞かせや音読をする
絵本の読み聞かせや音読は、ワーキングメモリーを鍛えるために最適な習慣です。
読み聞かせのお話を楽しむとき、ワーキングメモリーが重要な働きをします。
ストーリーの流れや登場人物のキャラクターを覚えなければ、話や物語を理解できないためです。
また、音読にもワーキングメモリーの働きを高める効果があります。
「文字を見て理解する」「声に出す」「自分の声を聞く」といった複数の動作を同時におこなうことが、脳を活性化させるのです。
3-3.一緒に料理を作る
手早く作れる簡単なレシピを使って、親子で料理を楽しむのもおすすめです。
「レシピを覚える」「手を動かして料理を作る」過程が、子どもの脳にとても良い刺激を与えます。
ただし、レシピは子どもに読ませるのではなく、大人が声に出して伝えましょう。
「読む」という操作が加わると、4〜5歳の子どものワーキングメモリーでは容量が足りません。
子どもは記憶の中に手順をとどめておくと同時に、大人からの指示を思い出しながら手を動かします。
これらの過程は非常に複雑な情報処理を必要とするので、小さな子どもだと飽きてしまうケースもあるのです。
子どものワーキングメモリーを鍛えるときに大切なのは、楽しむ要素を取り入れることです。
親子で会話を楽しみながら料理をすることで、ワーキングメモリーがさらに活発に稼働します。
4.ワーキングメモリーを鍛える遊び・ゲーム
子どものワーキングメモリーは、日常生活の中だけではなく、楽しく遊びながら鍛えることもできます。
幼児期はさまざまな経験をしながら、脳の神経細胞が次々とつながっていく時期です。
「見る」「聞く」「触る」といった刺激を通じて、子どものワーキングメモリーに記憶が蓄積されていきます。
子どものワーキングメモリーを活発に稼働させるためにも、五感をたっぷり使う遊びがおすすめです。
目、耳、指、口、手をバランスよく使い、想像力をかき立てる遊びを取り入れてみましょう。
4-1.ひとりで楽しむ遊び
おりがみやあやとりなど、ひとりでできる遊びでもワーキングメモリーが鍛えられます。
代表的な遊びを挙げていきましょう。
● おりがみ
折るときに繊細な指の動きが必要なおりがみは、手指の鍛錬になり、ワーキングメモリーが非常に鍛えられます。
本を見ながら折るのも良いですし、手順を覚えるのも効果的。折った作品を使ってごっこ遊びをするなど、想像力が育まれるのも魅力です。
● あやとり
あやとりは指の細かい動きが特徴で、集中力を鍛えるトレーニングにもぴったりです。
複雑な指の動きを覚え、手をなめらかに動かすといった能力を鍛えることができます。
● なわとび
全身をバランスよく動かす運動には、ワーキングメモリーを発達させる効果があります。
とくになわとびは「なわを見る」「手を動かす」「飛ぶ」「数える」など、多くの情報処理が必要なため効果的です。
4-2.ふたりで楽しむ遊び
ふたりで遊ぶには、相手の様子を観察したり、結果を予想したりといった能力が必要です。
大人や友達との関わりの中で、ワーキングメモリーが一層鍛えられていきます。
● 手遊び
「アルプスいちまんじゃく」や「じゃんけんホイホイ」など、ふたりでできる手遊びで遊んでみましょう。
協力したり、対戦したりする動作には「次の動作はなにか」「相手はさっきなにを出したか」といった記憶力が必要です。
このようなワーキングメモリーを使った遊びをすると、人間の行動をコントロールする脳の前頭前野と呼ばれる部位が発達します。
その結果、「なにを出したら勝てるのか」「相手はなにを出しそうか」などの思考力や決断力、想像力が鍛えられます。
● サイコロ暗算
サイコロをそれぞれが2回ふり、足した数が多い方が勝つゲームです。
一度に2回ふるのではなく、ふたりが交互にふるのがポイント。
最初に出た数を覚えておかなければならないので、ワーキングメモリーを稼働させるために脳が活発に動きます。
数が大きいと4〜5歳では難しいかもしれないので、3までの小さな数に限定して遊んでみてください。
4-3.大勢で楽しむ遊び
大勢で遊ぶ体験は、子どものコミュニケーション力や観察力を養うために大切です。
集団での行動には「ルールを覚える」「相手の話を聞く」といったワーキングメモリーが鍛えられる場面も多くみられます。
● カードゲーム
トランプに代表されるカードゲーム。
ルールを覚える力と、相手のカードを予想する観察力が養われます。
「どうすれば勝てるか」といった経験をもとにした思考力も鍛えられ、ワーキングメモリーが必要な場面が盛りだくさんです。
神経衰弱や七並べなど、4〜5歳の子どもでも挑戦しやすいカードゲームを取り入れてみましょう。
● 伝統遊び
缶けりやSケン、めんこ遊びなどの伝統遊びも、大勢で体を動かしながらワーキングメモリーを鍛えられます。
自分たちで新しいルールを作るのも、記憶力のトレーニングになりおすすめです。
5.ワーキングメモリーを鍛える!おすすめおもちゃ2選
この章では、ワーキングメモリーを鍛える効果が期待できるおもちゃを2つ紹介します。
筆者が子どもたちと実際に遊んでみた経験談もありますので、ぜひ参考にしてください。
・マンカラ
・テディメモリー
それぞれのおもちゃについて、くわしく説明していきます。
5-1.マンカラ
マンカラは紀元前4000年前にアフリカで作られたといわれている遊びで、東南アジアやヨーロッパなど世界中で人気のあるゲームです。
セット内容は、穴が12個空いたボードと、ビー玉などの石。
6ヶ所ある自分の陣地と相手の陣地に4つずつ石を入れます。
自分の陣地の穴を1か所選び、入っている石を右の穴から順番に1個ずつ移動させます。
自分の陣地から先に石をなくした人が勝ちです。
「石を数える」「手を動かす」「相手の陣地を見る」「行動を予測する」など、ワーキングメモリーを鍛える要素が満載。
相手との駆け引きが必要なゲームなので、ワーキングメモリーはもちろん、観察力や想像力も鍛えられるのではないでしょうか。
実際に遊んでみました!
4〜5歳には難しく感じますが、穴や石の数を減らせば十分遊べます。
実際に、我が家の5歳の娘と一緒にマンカラで遊んでみました。
ルールを覚えるまでに少し時間がかかりましたが、それもワーキングメモリーを鍛えるステップの1つ。
穴を4個に減らしたのが良かったのか、遊び方が分かってからは「1、2、3……」と石を数えながら穴に入れていました。
家族みんなで楽しめる上に、5歳でも頑張れば大人にも勝てるので、小さい子どもの自信を育むにはぴったりです。
ただし、小さな石を使っているため、小さな子どもの誤飲などに十分注意してください。
5-2.テディメモリー
幼児向けの神経衰弱で、さまざまなテイストのクマさんが可愛らしいゲームです。
遊び方は神経衰弱と同じです。
12種類のクマさんが見えないように裏を向け、順番に1枚ずつカードをめくっていきます。
同じクマさんが出たら自分のカードになり、とったカードの数が多い方が勝ちです。
「クマさんのイラストを見る」「どの場所か覚える」「手でめくる」といったワーキングメモリーの能力が必要であり、一歩前の記憶を保持する力が試される遊びです。
対象年齢は2歳半からです。
実際に遊んでみました!
4〜5歳には簡単すぎて遊べないかと思いきや、特徴が似ているクマさんもいるので一筋縄にはいきません。
我が家の5歳の娘も何回か間違えながら、楽しく遊べました。 我が家の子どもたちはトランプの神経衰弱も好きですが、テディメモリーもやりたがります。
可愛いイラストを気に入っているのに加え、2歳頃からくり返し遊んでいたせいかもしれません。
4〜5歳も十分楽しめる、初めての神経衰弱におすすめの遊びです。
6.普段の生活の中で、子どものワーキングメモリーを鍛えよう
この記事では、ワーキングメモリーを鍛える習慣や遊び方について紹介しました。
子どものワーキングメモリーを鍛えるメリットは、記憶の容量が増え、行動の手順やまわりの指示を理解しやすくなる点です。
その結果、子どもが自信を持ってチャレンジできることが増えます。
子どもの記憶力に悩んでいる方は、ぜひワーキングメモリーに目を向けてみてください。
特別な知識がなくても、毎日の遊びの中で十分に鍛えられます。
子どもの苦手な部分を自信に変えてあげるためにも、ぜひ、ワーキングメモリーを鍛える遊びを試してみてください。
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