「ダメ」と言わない子育てをするには?「ダメ」に代わる声掛けや対応のヒントをご紹介
この記事を書いた人
平尾しほ
- 言語聴覚士
言語聴覚士免許を所有、児童発達支援センターでの勤務経験があります。
特に遊びの中でのことばの育ちを意識して個別療育を行っていました。
現在小学校2年生の息子がいます。
個別療育でのたくさんのご家族とのかかわりと子育ての経験を合わせて、皆様に分かりやすくお伝えしていきたいです。
お子さんが出先で走り回ったり大きな声でおしゃべりしたりするたびに「ダメ」と声をかけてしまうこと、ありますよね。
もちろんしっかり注意する必要がある場面もありますが、「最近、『ダメ』ばっかり言ってるな」と思う親御さんも多いのではないでしょうか。
「『ダメ』ばかり言いすぎると、子どもの成長によくないのでは…?」と思うこともあるかもしれません。
この記事では、つい「ダメ」と言ってしまう親御さんの心理を解明し、「ダメ」と言いすぎることのデメリット、「ダメ」に代わる対応をお伝えします。
ぜひ、お子さんとのやり取りの中で意識してみてくださいね。
目次
1.「ダメ」と言ってしまう親の心理
子どもが大きくなり自分でさまざまなことを考え行動するようになると、成長を感じますよね。嬉しい半面、好ましくない行動をとられて、「ダメ」と言う場面も増えてしまうかもしれません。
ここでは、つい「ダメ」と言ってしまう親の心理に迫ります。
1-1.”恥ずかしくない”子に育てたい
「そんなことをしたら恥ずかしいよ」という言葉をかけたりかけられたりした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
日本には古来から「恥の文化」があり、他者からの批判を意識して行動を決めることが、今もなお多いです。
常に他者の視線を気にして、ルールや規則には特に厳しくなる傾向があります。
それは子育てにも当てはまり、親は子どもの行動に対して「他の人からみて恥ずかしい行動をとっていないか?」「ルールを破っていないか?」などと目を光らせています。
そして、少しでも子どもの望ましくない行動を見かけたら「ダメ」と声をかけてしまうのです。
1-2.子どもの危険や失敗を防ぎたい
子どもが失敗したりけがをしたりするのを防ぐために、「ダメ」と言ってしまうこともあると思います。
昨今「ワンオペ」という言葉があるように、親1人で長時間子どものお世話をするときには、できる限り危険や失敗は避けたいという思いが強くなりますよね。
例えば、ジュースをたくさんコップに入れて運ぼうとしているとき。こぼれてしまい、その後拭いたり着替えたりという後始末を想像できます。
「うまくいかなかった」と怒ったり落ち込んだりする子どもをなだめるのに時間がかかることもありますよね。
そのような事態を想定し、子どもが行動する前から、つい「ダメ」と言ってしまうということもあるでしょう。
1-3.背景にあるのは、親がすべてを担う現代の子育て
子どもの言動を「ダメ」と制止してしまう背景には、現代の子育てをとりまく環境も影響しているのではないでしょうか。
核家族化や地域コミュニティの機能低下、人間関係の希薄化など、子育てに関わる人が少ない現状があります。
親は「自分がしっかり育てないと」と責任を感じすぎ、子どもの言動をつい制止してしまう部分もあるでしょう。
共働き世帯の割合も増え、仕事や家事に追われ精神的にも物理的にも孤立してしまうことも多いかもしれません。
父母いずれかに子育ての負担が偏ってしまうこともあり、子どものやりたいことに付き合う余裕が十分になく、「ダメ」と言ってしまうことも考えられます。
「しつけは親の責任」などと親に多くの負担がかかる現代の子育て。
昨今、地域で子育てをしようとさまざまな取り組みが見られますが、親にかかるプレッシャーが「ダメ」という言葉につながっていることも、否定できないのではないでしょうか。
2.子どもに「ダメ」と言いすぎることのデメリット
親が子どもに「ダメ」と言ってしまう原因の一つのは、親への過度なプレッシャーであることが分かりました。
しかし「ダメ」は否定する言葉なので、子どもによくない影響を与えることもあるのではないかと心配になりますよね。ここでは、「ダメ」と言い過ぎてしまうことのデメリットをお伝えします。
2-1.逆に、その行動を助長してしまう
「ここでは、走ったらダメだよ」と声をかけると、ますます子どもが走ってしまう…そんな姿はよく見かけます。
言葉を理解するときは、名詞や動詞などの言葉にまず注目します。
そのため、「走ったらダメよ」と言葉をかけられた子どもは、「走る」という言葉を頭にイメージしてしまうのです。
つまり「○○したらダメ」の言葉は「○○」をよりイメージ付けてしまうことになるのです。
外出先などでよく口にしてしまう「押しちゃダメだよ」「触っちゃダメだよ」なども同様です。
親としては前もってその行動を防ごうとしたにも関わらず、かえってその行動をとるようにイメージ付けていたということになるのです。
2-2.親の顔色を伺い、自発性が低下する
「あれはダメ」「これはダメ」と言われ過ぎると、子どもは自分がしたいと思ったことについて「これもダメと言われちゃうかな?」と行動をためらうようになってしまいます。
「ダメ」と声をかけられることが多いと、好奇心旺盛な子どもの行動基準は「自分がやってみたい」から「ダメと言われないか?」に変わってしまい、親の顔色をうかがうようになります。
次第に「やってみよう」という意欲もわきにくくなり、自分でさまざまなことに取り組んでみたいという気持ちが起こらなくなってしまうのです。
2-3.自分に自信が持てなくなる
「ダメ!」と言われても繰り返しその行動をとると、重ねて注意されてしまいます。子どもは「また怒られちゃった」と落ち込むこともあるでしょう。
「何をしても怒られちゃう」と卑屈になってしまうこともあるかもしれません。
また、自分で「やってみよう」と思って挑戦したことも「ダメ」と言われてしまうと、挑戦しようという気持ちがなくなってしまうこともあるでしょう。
子どもは自分が意欲的に取り組んだ物事で成功体験を積むと、自分を認めることができます。
しかし、ダメと言われることを恐れて、そのような主体的な経験を積み重ねることができないと、「自分は何をやってもうまくいかない…」と自分に自信がもてなくなってしまうかもしれません。
3.「ダメ」に代わる具体的な対応 -3つのおすすめ言動-
では、「ダメ」と言わない代わりに、どのように子どもに対応すればよいのでしょうか?
ここでは具体例を交えながら、「ダメ」に代わる対応をお伝えしていきます。
ダメと言いたくなる場面で、他にどのような声掛けをすればよいか参考にしてみてくださいね。
3-1.「ダメ」の代わりに質問する
つい「ダメ」と注意してしまいそうな場面では、その行動がよいか・よくないかを考えられるような質問をするのをおすすめします。
●静かな電車内で大きなおしゃべりをしてしまうとき
「しゃべっちゃダメ」
→「電車の中ではどうするのがいいかな?」
●お店の中で走ってしまうとき
「走ったらダメ!」
→「ここで走るとどうなるかな?」
子どもはその質問で「どうすればよいか」を思い出したり考えなおしたりして、行動を修正することができるかもしれません。
3-2.「ダメ」の代わりにお願いする
「ダメ」の代わりに、親からのお願いという形で伝えるのもよいでしょう。
●バスの停車ボタンを押そうとするとき
「押しちゃダメ」
→「降りる駅になったら言うから、『押して』って言ったら押してくれる?」
●片付けた直後のおもちゃをまた出そうとしているとき
「出しちゃダメ」
→「今、片付けたところだから、箱に入れたままにしておいてくれる?」
親からお願いをされると、自分は頼られているんだと思えて子どもも嬉しい気持ちになりますね。
そのことで望ましい行動やその理由も分かり、嬉しい気持ちも合わさって、次に同じような状況になったときに望ましい行動をとることができるかもしれません。
3-3.代わりにとってほしい行動を伝える
「走っちゃダメ!」のように、してほしくない行動を伝えるとその行動を助長してしまうことがあるとお伝えしました。
その反対で、してほしい行動を具体的に言葉で伝えるとよいでしょう。
●人通りが多い道路を走ってしまうとき
「ここでは走っちゃダメ!」
→「ここでは歩こうね」
●スーパーの商品を触ってしまうとき
「触っちゃダメ」
→「見るだけにしようね」
子どもの頭にはとってほしい行動の言葉がイメージ付き、好ましい行動に移すことができるかもしれません。
合わせて理由も伝えると、より子どもの納得感が増すでしょう。
4.ダメと言わない子育てをするために心がけたいこと
「ダメ」の代わりにする具体的な声掛けを見てきましたが、最後に、「ダメ」と言い過ぎず子育てするために心がけたいことをまとめたいと思います。
少し意識することで、つい「ダメ」と言ってしまう回数は減らせるかもしれません。
そして、親子ともに笑顔で過ごせる時間が増えるでしょう。
4-1.子どもの意思や意欲を充分認める
子どもがなにか行動するときには「やってみたい」「こうしたら楽しいかも」など自分の考えがあります。
その行動がそのとき時・その場では望ましくなかったとしても「前にやってみてうまくいったから」「違う場所でしたときに楽しかったから」のように、自分なりに考えた結果であることもあるでしょう。
筆者の子どもが5歳のころ、冷蔵庫を長い間開けて中を見ていたので、「ずっと開けたらダメ」と声をかけたことがありました。
その時、子どもは私の好きな飲み物を探してくれていて、「お母さんが喜んでくれるかなと思って…」と目に涙をためていた記憶があります。辛い思いをさせてしまったと反省しました。
「なにか理由があるのかな?」「こうしてみたかったんだね」と親が寄り添うことで、子どもは自分の意欲や気持ちを汲んでくれたと感じて、満たされることもあります。
まず否定するのではなく、子どもの意思や意欲を認めることを意識してみましょう。
4-2.ダメと言わないことは「叱らない」ことではない
「ダメ」と言い過ぎてしまうのはよくないとはいえ、それは「注意しない」「叱らない」ということではありません。
正しいことと・間違っていることは、適切に子どもに伝えなくてはいけないでしょう。
「ダメ」という言葉で子どもの行動を支配するのではなく、自分で考えて行動していけるように教え導くことが大切です。
そのためには前段落で述べたように、どう伝えるのかを工夫する必要があるでしょう。子どもが「次はこうしたらいいんだ」と分かるような伝え方を見つけていきましょう。
5.否定的な言葉を減らし、子どもの意欲を受け止めよう
子どもの言動の裏には「やってみよう」「こうしたらいいかも」など子どもなりの考えがあります。
頭ごなしに「ダメ」と言い過ぎず、その気持ちや意欲をまずは受け止めるようにしましょう。
「ダメ」と言わない子育ては、「一切注意しない」子育てではありません。否定する言葉をなるべく使わず、大切なことを伝えられるようになるといいですね。
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参考文献
・文部科学省 中央教育審議会 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について(中間報告)「第4節 子どもの育ちの現状と背景」
・厚生労働省委託事業「子育て世代にかかる家庭への支援に関する調査研究」委員会 子育て支援員研修資料