
体験格差の影響は?その現状と格差を解消する体験の高め方
この記事を書いた人


狩野淳
- 公認心理師
- 臨床心理士
大学、大学院にて発達心理学と臨床心理学を専攻していました。
臨床心理士と公認心理師の資格を保有しております。
子ども達とその保護者の方の支援を仕事にしており、子ども達へは主に応用行動分析を認知行動療法用いて、保護者の方にはブリーフセラピーを使ったアプローチを行っています。
もうすぐで1歳になる男の子がいて、毎日癒されています!
「家庭に余裕がなく、子どもは学校と家との往復しかしていない」
「いつもテレビやYouTubeをずっと見ていてこれでいいのかと不安になる」
そんなお悩みはありませんか?
今回は、お金をかけずに子どもに充実した体験をさせるにはどうすればよいのかについて紹介していきます。
子ども時代の経験の有無はその後の人生に大きな影響を及ぼします。
数年後に「ああすればよかったな」「もっとこうすればよかったな」と後悔しないように、貴重な子ども時代を楽しく過ごしてもらいましょう。
目次
1.体験格差の問題ってなんだろう?子どもへの影響
まずは体験格差について考えましょう。
体験格差とはどのようなことを指し、現在はどのような状況になっているのか。また、子どもにどのような影響を与えるのかについて解説していきます。
1-1.社会問題でもある「体験格差」とは?
家庭環境などの「環境の違い」から子どもの学習や体験に差が生まれてしまうことを「体験格差」と呼びます。
現在の日本は7人に1人の子どもが貧困状態にあるとされています。
経済的に余裕のない家庭では子どもの教育や習いごとにお金を掛けることができない一方で、余裕のある家庭では早い段階から塾や宿泊学習に行かせるなど、子どもの教育にお金がかけられています。
この問題は、決して親御さんの努力や能力のせいではありません。むしろ、社会の仕組みや環境によって、体験の機会に差が出てしまうことが指摘されています。
そんな中で子育てをしていくのは、本当に大変なことです。だからこそ、社会的にできることを少しずつ考え、支え合っていく必要があります。
1-2.体験格差が子どもに与える影響は?
規則や決まりのある学校生活とは異なった「自由に学ぶ経験」が乏しいと、友達と協力する力や、新しいことへの興味、学びへの好奇心が育ちにくくなり、その結果、学力に差が出てしまう可能性があります。
正解がなく、評価を気にせずに取り組める社会的な活動は、子どもに「やってみたい!」という純粋な探求心や楽しさを感じさせてくれます。
そうした体験は、「自分にはいろんなことができるんだ」という自信や、挑戦する力(=自己効力感)を育む大切なきっかけになります。
このような経験の積み重ねは、やがて進学や受験、さらには将来の仕事選びにも影響していくことがわかってきています。つまり、子どもの人生にとって、とても大きな意味を持つのです。
2.コラム:子どもの体験格差の現状を見てみよう
子どもたちの「やってみたい!」を応援したいと思うのは、どの親も同じですね。しかし実際には、家庭の経済状況によって、子どもが経験できることに大きな差があります。
・・・「体験のチャンス」の格差
世帯年収が低い家庭の子どもほど、スポーツや音楽、自然体験、旅行など、学校の外での体験活動に参加する機会が少ない傾向があります。
たとえば、年収300万円未満の家庭では、約3人に1人の子どもが1年間まったく体験活動に参加していないというデータも。これは、年収600万円以上の家庭の2.6倍にあたります。
・・・「行かせてあげたいのに…」というジレンマ
「本当はやらせてあげたいけど、時間もお金も余裕がない…」という声が多く聞かれます。
実際、保護者の経済的・時間的な余裕のなさが、子どもの体験機会を制限しているという調査結果も出ています。
また、保護者自身が子どもの頃に体験活動をしていなかった場合、「何をさせてあげたらいいのか分からない」と感じることもあるようです。つまり、体験の連鎖が生まれにくい環境があるのです。
体験活動は、子どもの好奇心や自信、社会性を育む大切な機会です。けれど、それが「一部の子だけの特権」になってしまっては、本当にもったいないことですね。
3.体験格差の本質│子どもに本当に必要な体験とは?
体験格差が広がると子ども達に悪影響を与えることはご理解いただけたかと思います。
では、そもそも子どもに必要な体験とはどのようなものがあるのでしょうか。次に体験活動について紹介していきます。
3-1.体験活動とは?3つの活動分類
文部科学省によると、体験活動とは「体験を通じて何らかの学習が行われることを目的として,体験する者に対して意図的・計画的に提供される体験」と定義されています。
つまり、自然や人・社会と実際に関わりながら、肌で触れ感じて学ぶことで、子どもたちの心の成長をうながすような活動を指します。
この体験活動は、大きく3つの種類に分けられています。 それぞれ、どんなものがあるのか、順番にご紹介していきます。
3-2.体験活動(1)生活・文化体験活動
1つ目は「生活・文化体験活動」です。
この活動は、子どもが地域の自然や伝統、日常の暮らしに根ざした文化にふれながら学ぶ実践的な活動を指します。
地域の風習や人々との交流を通じて、生活に息づく価値や楽しさを体感できるのが特徴です。
具体的には地元のお祭りや伝統行事への参加、茶道や書道など日本の伝統的な文化を学ぶことが挙げられます。
これ以外にも地域の清掃活動や農業体験、もっと身近でいえば放課後のお手伝いなども生活・文化体験活動に含まれます。
子どもたちは、地域と自然なかたちでつながりながら、「暮らしの知恵」や「伝統を大切にする心」などを学びます。
3-3.体験活動(2)自然体験活動
2つ目は「自然体験活動」です。
これは、森や川、海などの自然の中で、実際に体を動かしながら学ぶ活動のことです。たとえば、キャンプやハイキング、動植物の観察などがこれにあたります。
いつもとは違う自然の中で過ごすことで、自分の生活を見つめ直したり、友達と協力することの大切さを感じたり、困ったときにどう行動するかを考える力や、自立心を育むことができます。
3-4.体験活動(3)社会体験活動
最後が「社会体験活動」です。
地域や社会場面に実際に関わることで、社会の仕組みや人とのつながりについて学ぶ活動です。
たとえば、地元企業や農家での職業体験、地域のイベントの運営補助、ボランティア活動などがあります。また、公園のごみ拾いや高齢者施設での交流活動など、公共性の高い場に参加することも含まれます。
この活動を通して子どもはコミュニケーション能力や協調性を身につけるとともに、親や教師といった普段関わる大人以外のひとと交流することで社会的な視野を広げ、自分の将来について考えるきっかけになります。
4.体験格差を解消するには?お金をかけず体験活動を高める視点
体験活動は、子どもの学びを豊かにします。しかし、体験に割ける金銭的な余裕がないという場合はどうすれば良いでしょう?
ここでは、できるだけお金をかけずに体験活動に参加する方法について解説していきます。
4-1.地域のイベントや施設を積極的に活用する
皆さんのお住まいの地域でも夏祭りやもちつき大会などの行事が自治会などの主催で行われているかと思います。
また、区や市、町の施設で子ども向けの体験教室や運動教室などのイベントが開催されている場合があります。それらを上手く活用することで無料、もしくは安価で体験活動を行うことができます。
大々的に告知されない場合もありますので、自治会からのお知らせや市報、公民館や街の掲示板などをまめに確認しておくといいでしょう。
4-2.星空観察や動植物観察などに連れていく
まずは、夜空を見上げたり、近くの少し大きい公園を歩いてみるだけでも十分です。近くにある自然を見つけて、親子で話してみてください。
たとえば、都市部だと星はあまり見えないかもしれませんが、「見えないけど、実はこの空にはたくさんの星があるんだよ」なんて話したら、子どもは驚いてワクワクするかもしれません。
筆者は山奥で育ちましたが、子どもの時に自然観察をしたことがありません。自然が身近すぎて改めてじっくり見て見ようという発想がありませんでした。
しかし大人になってから星々の美しさ、自然の豊かさ、動植物のリアルな生態に驚き、感動することがあります。子どものときからこれらに触れていたら今とは違った感性になっていたかもしれません…。
星空や自然を観察するのにプラネタリウムや動物園、植物園にはじめから連れていく必要はありません。
まずは、少し時間を作って親子で自然を感じてみてはいかがでしょうか。
4-3.親子でボランティア活動に参加する
ボランティア活動は、子どもたちがこれまで関わることのなかった社会や人々と出会う、貴重なきっかけになります。
たとえば、子ども食堂でのボランティアを通して、さまざまな家庭環境で育つ子どもたちの存在を知ることができ、「当たり前」だと思っていた日常が実はそうではないことに気づくことで、思いやりや社会への関心が育まれていきます。
また、地域のゴミ拾いや美化活動に参加することで、「自分たちのまちを大切にしたい」という気持ちが自然と芽生えます。こうした経験は、社会や環境について学ぶ授業とつながり、教科書の中の知識が「自分ごと」として実感できるようになります。
また、実際にボランティアで見聞きしたことを活かして、「地域の課題を考える」をテーマに夏休の自由研究をしてもいいかもしれません。
これからの社会を生きていく子どもたちにとって、さまざまな視点から物事を見て考える力はとても大切です。体験を通じて得た気づきや学びは、学校での学習と結びつき、子どもたちの中に「活きた知識」としてしっかり根づいていきます。
5.体験格差に焦らない!体験を高めるために親が心がけること
最後に体験活動を高めるために、親としてどのようなことを心がけていけばよいのかについて、知っていてほしい3つの視点をお話しします。
活動の基本原則は、子も親ものびのび過ごせる活動であることです。
子どもがはしゃぐような体験だけが、良い体験になるとは限りません。時には考えたり、じっくり見ることも大切だということを覚えておいてください。
5-1.体験を高める心得(1)無理強いをしない
第一に「無理強いをしない」は大切なことです。
体験活動が子どもの将来にプラスに働くとはいえ、それは子どもの気持ちが伴っていることが前提です。子どもが嫌々参加していたり、無理やり連れてこられていたのでは意味がありません。
例えば、「下水道見学」や「図書館のおはなし会」「むかし遊び教室」など、いくつか体験活動の候補をピックアップしておくといいかもしれません。まずは、「これ、やってみよう!」と声をかけるよりも、「こんなのもあるけどどう?」と軽く聞いてみましょう。
親の方が面白そうと思っても、子どもは乗り気じゃないなんてことはよくある話です。「絶対面白いよ!やってみようよ」と言うのも時には効果的ですが、しつこく言いすぎると「親との活動」そのものを嫌がるようになってしまいます。
「やりたくない」「行きたくない」と言われたら、「どういうことならやってみたい?」と一緒に考えられると良いですね。
5-2.体験を高める心得(2)子どもの好きなことを把握しておく
子どもの個性は十人十色です。日ごろから我が子の好きなこと、関心のあることについて把握しておくと、興味を持ちそうな体験を見つけやすくなります。
このとき注意してほしいのは、「子どもの視点」であることです。例えば、「和太鼓なんて珍しい!体験させたいな」とか、「山登りで体力をつけさせよう」など、親の意向で、身につけてほしいこと=体験へと繋げてしまわないことです。
我が子は、体を動かすことが好きなのか、芸術に触れることに関心があるのか、何かを観察する、もしくは作り上げることに興味があるのか?
そういった子どもの視点に注目することで、体験の質を高めることができます。
5-3.体験を高める心得(3)親も楽しく参加する
最後に、とても重要なのは「自分自身も楽しむ」ことです。いくら子どもが興味を持って楽しんで活動をしても、親側がつまらなさそう、興味がなさそうな雰囲気を出していては台無しです。
一番の理想は親子で楽しみ、互いに「もっとやりたいね」「また来たいね」と思えるような体験活動です。しかし、なかなかそうもいきませんよね…。
「子どものためだ」と重い腰をあげている親御さんも多いのではないでしょうか?親御さんの中には、「人と関わるのが苦手」「子どもと体験活動を楽しめるか不安」という方もいます。無理をして参加すると、子どもにもその違和感が伝わってしまうものです。
そういった方は、ボランティアやワークショップではなく、「親と子どもだけの体験活動」でも十分です。
また、イベントに参加する際には、主催者やスタッフに「他の人が苦手」「楽しめるか不安」と正直に打ち明けてみるのも良いかもしれません。適切な配慮があれば、人と話すのが苦手な親御さんでも、割り切って無理なく過ごすことができます。
中には、子どもの頃は人と話すのが苦手だったけど、親になって参加してみたら以外と楽しめたという方もいます。子どもと挑戦してみようかな?という気で、行ってみるのもいいかもしれませんね。しかし、親も無理は禁物ですよ。
6.体験の質で格差軽減~子どもとの時間を大切に過ごそう~
今回は体験格差と体験活動について解説してきました。
貧困の格差が広がり、子どもの経験できることに差ができてしまうのは簡単に解決できない難しい問題です。しかしお金を使わなければ体験活動ができないというのは誤解かもしれません。
私たち大人の工夫次第で子ども達の体験の幅を広げることができますし、子どもは様々な知識・経験を吸収できる力をもっています。
日々の生活をより豊かにし、将来の可能性を広げていくためにも、 多様な体験活動を通じて、子どもたちの世界を広げてあげられるといいですね。
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- 日々新聞を読むことで、自然と考える力や知識が育める
毎日の小さな学びが、未来の大きな成長につながるはずです。
親子でも子どもひとりでも楽しく読めます。
これからの未来を生き抜く力、学びの力を伸ばすために新聞をご活用してみてはいかがでしょうか。
主な参考文献
・文部科学省,子供たちの未来を育む 豊かな体験活動の充実,文部科学白書,2017
・公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン,子どもの「体験格差」実態調査最終報告書~全国の小学生保護者2,097人へのアンケート調査~,2023
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