3・4歳でほとんど喋らない、言葉が出ないって大丈夫…?【言語聴覚士に聞く】
使える語彙数が増え、スムーズな会話もできるようになる子が多い3・4歳。しかし、言葉の発達にはまだまだ個人差が大きい年齢でもあります。
そのため、「ほとんど喋らない」「なかなか言葉が出ない…」という我が子の様子が気がかりな保護者の方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、言葉によるコミュニケーションに問題を抱える方への訓練・サポートをおこなう「言語聴覚士」に、「ほとんど喋らない」「なかなか言葉が出ない」3・4歳についてのアドバイスなどをうかがいました。
(文責:CONOBAS編集部)
目次
1. 3・4歳の「ほとんど喋らない/言葉が出ない」様子について
2.子どもの「ほとんど喋らない/言葉が出ない」子どものつまずきはどう判断する?
4.子どもが「ほとんど喋らない/言葉が出ない」家庭ではどんな関わり方が大切?
1.3・4歳の「ほとんど喋らない/言葉が出ない」様子について
1-1. 相談を受ける子どもの様子とは
–−実際に「ほとんど言葉が出てこない、しゃべらない」といったお悩みを抱えている保護者の方からのご相談はありますか?
島袋 綾子先生(以下、あや先生):そうですね。お子さんの年齢が3歳くらいで、「まだしゃべりません」といったお悩みや、「言っていることは理解できているようですが、言葉があまり出ていません」という相談をされる方が多い印象です。
−−「理解はできているようでも言葉が出ない」という場合もあるんですね。
あや先生:「何となく理解できてる」というのは、言葉が理解できているのではなく、周りの状況をみて「何となくこなしてる」(状況判断)だけの場合があります。
家庭での指示は通っているのに、集団になると指示が入らなかったり、受け答えができなかったり、発語の数が少なかったりというときには、このような場合が多いです。
状況判断の力は社会性にかかわるところで、発語やお喋りをするには、単語や短文などの理解が必須です。
ですから、言葉がほとんど出てこないという背景を考えるには、「言葉ひとつひとつが本当に理解できているかどうか」を考える必要があります。
1-2. 保育園や幼稚園で「言葉が話せない」と指摘されることも
−−実際に相談に来る保護者の方は、どのようなタイミングで不安に思うのでしょうか。
田中 くみ先生(以下、くみ先生):家庭で違和感を感じたという方や、検診の結果を受けて相談に来る方もいらっしゃれば、保育園・幼稚園の先生から言葉の遅れを指摘されて相談される場合もあります。
−−家庭と園で異なることがあるんですね。
くみ先生:でもこの場合、家庭では保護者の方が「気づいていない」ということも多いんです。
特にママはお子さんが生まれたばかりの時から一緒にいるので、無意識のうちに、いち早くお子さんのことを理解して先取りしてしまう場合があると思います。
例えば、お子さんがおなかを押さえてたら「おなかすいたんだね」と声をかけてご飯を出してあげるなどです。そうすると、言葉を伝えなくても相手に伝わるとお子さんが学び、家庭で言葉を発する頻度が減ってしまう可能性があります。
一方で保育園や幼稚園では、先生は多くの子どもを見ているため、言葉で伝えなければわかってもらえない状況が多いですよね。
そのため先生たちに、「手がかかる子」「言葉がしゃべれなくて泣き出してしまう子」と認識されがちです。
家庭でできることとしては、子どもが話す意欲を引き出すために、言葉を使う機会を増やしてあげることです。
また、集団生活の中でも、言葉で伝えたことに相手が反応してくれる、という経験をたくさん積んでほしいです。まずは挨拶からでOKです。「話すことは楽しい」「伝わることはうれしい」という成功体験を重ねることが重要ですね。
2.「ほとんど喋らない/言葉が出ない」というつまずきは、どう判断する?
2-1. 単語の理解や言葉とモノの一致を確認する
−−一概に「ほとんど喋らない/言葉が出ない」といってもお子さんの状況はさまざまだと思います。子どもの”つまずき”はどのように判断するのでしょうか。
あや先生:言っていることが理解できているか、できていない場合は、単語の理解ができているかを確認します。
単語を理解してないと言葉は表出しないため、私たちはまず単語の理解を高めるためのサポートをします。
くみ先生:あや先生もおっしゃっているように、言葉を理解しているかの確認は大切です。まずは、お母さんがどのようなときに「言葉が出ない」と感じるのかを確認します。
<言葉と対象物の一致>
例えば「犬はどれ?」と聞いたときに、犬を指せなかったとしたら、言葉とその対象のモノ「犬」が一致してないということになります。
<共同注視>
遊びの中で、「あれ(対象のおもちゃ)」というふうに指をさしたとしても、そのモノを一緒に見れないこともあります。
言葉が出ないことばかりを問題視するのではなく、ママが言ったものを見ることができるか、ママと同じものに注意を向けることができるかなど、理解や注意の先にも目を向けることが大切です。
例えば、「犬って、ふわふわしていて、耳が2つあって、しっぽがあるね」など、モノの概念を一緒に考えてみましょう。
ママが代弁をして伝えてもいいですね。ぬいぐるみを使ったり、実際の犬を見に行ったり、子ども自身が興味関心を持ちながら、言葉とモノを一致させていける機会を作っていきましょう。
編集部コラム
~猫を見て「ワンワン」という?~
子どもが言葉の意味を獲得する過程には「般用」という現象があります。これは、自分が知っている言葉で他の名前の知らないものを呼ぶことを指します。
例えば、桃太郎の絵本を読み、そこに出てくる白い犬を「ワンワン」と呼んだとします。すると子どもは、その犬に似た「白くてふわふわしているもの」を「ワンワン」と呼ぶようになります。
これは、知覚的な類似点を子どもながらにとらえていることを示しています。成長するに連れて「クロワンワン」(黒い犬)と二語を複合して話すようになったり、犬と猫は耳の形が違う、といった違いを見つけて「ワンワン」「ニャンニャン」と言うなど、語彙を拡大していくのです。
3.「ほとんど喋らない/言葉が出ない」要因は?
3-1. 個人差が大きいが「言葉への興味関心」も一つの大切な要素
−−一般的な発達段階に照らして「ほとんど喋らない/言葉が出ない」という状況には、何か原因があるのでしょうか。
あや先生:他の障害が合併している時を除いて、言葉の発達だけに遅れがある場合は、性差があると言われていますね。
例えば、女の子は言葉の発達が早く、男の子は運動機能や視覚認知の発達が早い、という傾向があります。
とはいっても、性差だけではなく、そもそも言葉に興味や関心がないと言葉の発達が遅れてしまうことがあります。「言葉は遅れているけれど、身体機能はいい」といったこともありますし、発達の過程、スピードなどの個人差はとても大きい部分だと思います。
3-2. 子どもの理解にあわせた言葉かけができているか
−−性差や言葉への興味関心など子ども自身に関すること以外にも、子どもの言葉の発達に関わる要素はあるのでしょうか。
あや先生:周囲の大人が、子どもがイメージを膨らましやすい言葉かけや、理解しやすい言葉かけができてるかなという視点も大切です。
発達がゆっくりなお子さんでも、ママやパパの会話を理解でき、言葉が話せるようになる子は一定数います。
ただ、発達がゆっくりな子の場合は、大人同士が使うような言葉で話しかけても理解ができなかったり、言葉のイメージがつかないままになってしまったり、ということがあります。
インプットがされないからアウトプットができない、というケースは少なくないです。
その子が話しやすく、理解しやすい関わりができてるかどうか、そして、そういった知識を周囲の大人が持ってるかどうかも大きな要素かなと思います。
でも、ここでお伝えしたいのは「言葉が出てこない」と悩んだときに、保護者の方の関わりが悪かったとは思わないでほしいということです。
詳しい知識や工夫の仕方を知らないと、「その子に合った関わり方が分からない」というのは当然おこりうることですから。
–−関わりが良い・悪いではなく、知識や工夫の仕方を知っているかどうか、という部分も大きいのですね。
編集部コラム
~さまざまな要因が関係する言語発達~
実際に、子どもの言葉の発達に関わる遺伝的要因や親子関係である共有環境的要因、外部と子供の関わりである非共有環境要因に性差が見られたという研究があります。環境要因の中には子どもが好む遊びも関わっており、人形を使った「ごっこ遊び」が子どもの言語発達や相手の心を理解する力の発達に良い影響を与える、という研究もあります。
一方で、文章、文脈の理解に関する「非言語能力」に関しては「性差が見られなかった」と報告されている研究もあります。また、先ほど取り上げたように、言葉の発達には、性差単体ではなく、遺伝や親子関係、外部の環境要因などさまざまな要因が関係しあっています。島袋先生がおっしゃるように、個人差が大きい部分でもあるようです。
4.子どもが「ほとんど喋らない/言葉が出ない」家庭ではどんな関わり方が大切?
4-1. 子どもの興味関心にあわせて関わり方を考える
−−初めから発達の知識や工夫の仕方を知っている、という保護者の方は多くないのではないかと思います。家庭でお子さんと接する際に大切なポイントがあれば教えてください。
あや先生:一番大切なのは、新しく何かを提供することではなく、子どもが興味があるもの、楽しめることを知ることと、そこに対してどんな声かけをするか、だと考えています。
例えば、積み木を重ねるのが大好きな子であれば
- 同じ積み木遊びの中でもオノマトペを使ったらどうかな?
- 目を合わせて「あなたに話しかけているよ」と合図をしてから声かけたらどうかな?
- こちらを見てくれた時に、「どうした?」「楽しいね」などと声をかけるとやりとりが広がっていくかな?
など、子どもが好きな遊びの中でいろいろと試してみることが大切です。
新しいものを買うのは経済的にも負担だし、「せっかく買ってあげたのに、うまくできなかった…」という場合もありますよね。
お子さんが家庭で楽しんでること・モノを使って、どんな関わりができるかを考え、工夫してみてほしいです。
4-2. 先取りせずに子どものコミュニケーションを促す
−−くみ先生はいかがでしょうか?
くみ先生:先ほどの「お母さんが先取りしてしまう」ということに関連しますが、先取りせずに、分かっていても子どもに話すことで「伝わった!」という経験を積ませることが大切です。
例えば「スプーンが欲しい」という意図が汲み取れたときに、「これがスプーンだね」「スープを持つ時に使うモノだよ」というように「スプーン」という言葉と用途、持ってるモノを一致させます。
次にスープが出てきた時に「スプーン」と伝えたことでお母さんが持ってきてくれたとなると、子どもは、「こうやってやればいいんだ」と学んでいきます。
成功体験はコミュニケーションを促すことにつながります。
ママは忙しくて時間がないということもあり、先取りしてしまいがちだと思いますが、言葉を引き出すためには子どもに成功体験を積ませてあげることもとても大切です。
5.子どもが「ほとんど喋らない/言葉が出ない」に、言語聴覚士はどう関わっているの?
5-1. その子の興味関心を、言葉を引き出すきっかけにする
−−保護者の方が家庭で意識するポイントを教えていただきましたが、実際に言語聴覚士の方は子どもとどのように接しているのでしょうか。
くみ先生:私たち言語聴覚士は、言葉が遅れていることだけに着目するのではなく、「目線が合うのかな」「初めて会った時に、どんな反応を見せてくれるかな」「どんなものに興味関心があるかな」など、発話だけではなく、その子の様子や性格全体を見ながら関わりを始めていきます。
保護者がいないと泣いてしまうような場合は、保護者も含めた3人で環境に慣れることから始めます。
また、遊びの中でも特にウルトラマンが好き、車が好きなど、どんなおもちゃに反応するのかを観察します。
車が好きであれば、車を沢山用意して、赤、青、黄色などの色の概念・理解を測ります。
「青いブーブーは?」と聞いて、それを見ることができるか・指さしができるか・同じ色の車を探せるかなどを確認していきます。興味関心にあわせたものを使って、遊びの中で言語発達を確認していくのです。
どんなに高いおもちゃを出しても、お子さんの興味がなかったら意味がないんですよね。だから訓練室には、さまざまなおもちゃを用意しています。子どもが引っ張り出したものを訓練教材で使うこともあります。
電車のおもちゃであれば、「線路を敷いて、ここに走らせてみよう」というように遊びを広げたりもします。
初めはただ触るだけでも、次に「ダンボールに線を書いて、この上を走らせられるかな」と声をかけると、今度は鉛筆などに興味を持ち始めます。
その過程で、線路を「書く」という動詞を身につけたり、線路や電車を「つなげる」という言葉も耳に入っていくのです。
その子が好きなものを使って、関心を引き出し、言葉を育んでいきます。
言葉を話したいという意欲から、言葉が伝わったという成功体験を積み重ねて、言葉を養っていくという関わりを行っています。
−−言葉の面だけではなく、その子の発達状況の全体を確認しながら進めていくんですね。訓練の場と家庭での対応の繋がりは、どのようにされているのでしょうか。
くみ先生:「言語聴覚士に一週間に1回見てもらっていれば、その子の言葉が爆発的に伸びる」ということはありません。
私たちができることは、保護者の方に「ここまでは理解して伝えられているので、おうちではこんな関わりをしてみましょう」とアドバイスしながら、おうちでの関わり、言語聴覚士の関わりとで、ワンチームになって子どもの言葉の発達を育んでいくことです。
限られた時間や遊びの中でお子さんの言語能力を引き出すためは、信頼関係が不可欠です。
だから、保護者の方たちから「遊びのプロですね」と言われるくらい(笑)、私たちは本気で遊びます。そうすることで、お子さんはさまざまな面を見せてくれるんです。
お子さんと過ごす貴重な時間の中で、観察・評価・実践したことを、おうちでの関わりに活かしていただけるよう具体的にお伝えしています。
−−「ワンチーム」という言葉に現れているように、訓練の場での様子や家庭での関わり方も伝えて、保護者と一緒に子どもをサポートしていくんですね。
6.「ほとんど喋らない/言葉が出ない」には、保護者と言語聴覚士がタッグを組んで向き合う
<編集後記>
単語は理解できているのか、名詞や動詞が表出しているのか、など、「ほとんど喋らない/言葉が出ない」という状況には子どもによってさまざまなつまずきポイントがあるということがわかりました。
関わり方も、つまずきポイントに注目しながら、子どもの興味関心のある事象や遊びの中で行うことが大事なのですね。
また子どもと関わる上で、言葉の発達のステップや接し方についての知識をもっているかも重要だと感じました。
お話をうかがった先生方
島袋 綾子(しまぶくろ あやこ)
・たねまき協会 ことばのたねまき代表(2020年〜)
Instagram、公式LINEを中心に乳幼児期の言葉の発達
ママが発達に関する知識や関わり方を身につけるための講座や個別
・乳幼児言語発達アドバイザーの育成もしています。
・年少、年長の2児を子育て真っ最中!
・言語聴覚士
田中 くみ(たなか くみ)
・たねまき協会 吃音緩和のたねまき代表(2020年〜)
吃音のある子のママをオンラインでサポート。
Instagram、公式LINEで吃音の情報を配信しています。
・吃音緩和アドバイザー
吃音に特化した専門家。我が子の吃音に対するスキルを学べる基礎講座、資格を取れる講座を開催中。
・吃音絵本『ぼ、ぼ、ぼくのはなしかた』制作者
・言語聴覚士
たねまき協会 https://www.tanemaki.group/
あや先生、くみ先生たちが代表を務める団体。
「ママが生きやすい世界をつくる。」という目標を掲げて、言葉の発達でお悩みのママへ向けた、オンライン支援、言葉の教材開発などを実施しています。
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