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他の子と比べてしまう…「比べる病」やめられないのはなぜ?

この記事を書いた人

久美子 久美子

久美子

  • 公認心理師
  • 臨床心理士

5歳と7歳(小1)の息子のアラフォーママ。

公認心理師・臨床心理士の資格を持っています。

心理士の仕事をしながら、発達心理学の視点も踏まえて、日々、子育て奮闘中。

夫にも積極的に育児に参加してもらい、親子でハッピーになれる時間を模索しています。

保護者の方のお悩みのひとつに、「子どもを他人の子と比べてしまい、落ち込んでしまう」という話をよく耳にします。

「自分の子は自分の子」と思いたい気持ちは山々ですが、なかなかそう考えるのも簡単ではないですよね。

今回から、「前半」と「後半」の2部に分けて、5歳の娘を育てる「TA」さんの「他の子と我が子を比べてしまい辛い」というお悩みにお答えしていきます。

お悩みの回答者は、公認心理師ライターの久美子ママです。

心理学や社会学など、さまざまな視点を交えながら分かりやすく、お悩みを解説します。

前半では、「比べてしまうのはなぜ?」をテーマに、子どもを比較してしまう親の心理についてお話しします。

(CONOBAS 編集部)

 

 

我が子を他の子と比べてしまい、辛いです……

❚ 5歳女の子のママ「TA」さんからのご相談

こんにちは、5歳の娘の母親TAと申します。どうぞよろしくお願いします。

娘が通う幼稚園のクラスには、子どもたちがその時々に描いた可愛い絵が飾られています。先日、公園に遠足に行ったときの絵も飾られていました。年長になって急に、みんなとても絵が上手になっていました。

娘の絵はどれだろうと探してみて、ビックリ。娘の絵は、3歳児が描いたようなぐちゃぐちゃな殴り描きのような絵でした……。

もちろん、子どもひとりひとり違うと言うことは分かっています。でも、なんだか軽いショックを受けてしまいました。

そういえば、娘の友達は、もう上手にひらがなが書けて、ママに手紙を書いてくれるそうです。娘も簡単なひらがなは書けるようになってきましたが、手紙を書くなんてまだまだ考えられません。

こんな風に、他人の子と比べるのはよくないと、自分に言い聞かせているんですが、どうしても比べてしまって私自身苦しいです。

どうすれば、比べないでいられるようになるでしょうか?

TAさんのお気持ちは痛いほどわかります。

私自身も5歳になった娘がおり、他の子と我が子を比べてしまうことがよくあります。

まずは、「どうして他人と比べてしまうのか」について、考えていきましょう。

 

目次

 

1.「他の子と比べる」「比べる病」はダメな親だから?

〇5歳の娘をもつママ「TA」さん(以下、ママTA):

我が子を他の子と比べるなんて、やめたいんですけど。どうしてもしてしまって…ダメ親ですよね……。

〇公認心理師ライター「久美子」さん(以下、心理師・久美子):

ご自分を「ダメ親」だなんて責めないでください。TAさんのように、やめたいと思っていても我が子を他の子と「比べてしまう」という親御さんは、結構多いんです。

そもそも、人は本質的に周りと比べたくなる生き物です。心理学ではこのような思いを【社会的比較】と呼び、人一般の心理として研究が行われています。

TAさんが比べてしまうのは、我が子だけでしょうか? ご自身のことも誰かと比べたりしていませんか? 我が子を比べてしまう心理の前に、まずは親であるTAさん自身について考えてみましょう。

人の心理として、「自分の能力が社会でどれぐらいなのかを知りたい」という気持ちがあります。私たちは生活する上で、自分の置かれた状況を把握しておかないといけませんよね。

例えば、「私の価値観ってみんなの常識から離れていないかな」とか、「私のスキルや立場って高いの? 低いの?」など。その答え合わせに使いやすいのが「他人と自分を比べる」です。

比べるときは、自分と似ている人を選びやすいと言われています。例えば、若い頃は学校の友達、社会人になったら職場の同年代の女性、そして結婚や出産後は、ママ友など、比べる対象は自分の環境に合わせて変化していきます。

注目すべきなのは、人と比べること自体が悪いことではないということです。

< 心理学的解説まとめ 

① 人は誰しも自分で社会的な立ち位置を知りたいと思っている。

② 客観的に自分を評価できないときは、他人と比べて評価しようとする。

③ 自分が似ている人と比べる。

 

2.他人と比べてしまいやすいところは?

〇ママTA:

なるほど。人間には自分の立ち位置を知りたいという心理があるんですね。自分だけじゃなく、一般的にそうなんだって知れて少しホッとしました。

確かに、私自身、いままでの人生を振り返ると、そのときそのときで同世代や同じグループの人と自分を比べてきました。母親になってからは、ママ友達がどんな暮らしをして、どんな子育てをしているのか気になります。

娘を他の子と比べてしまうのも、私の子育てがちゃんとできているのかを確かめたいという気持ちがあるからかもしれません。

ただ、他の子はみんな優秀に見えてしまうんですよね。

娘の友人のA子ちゃんは、縄跳びもできて、絵本も一人で集中して読めるみたいで。誕生日も近いのに、どうして、うちの娘はできないの? なんてことばっかり思ってしまって。もちろんすべてを比べるわけではないのですが……。

〇心理師・久美子:

「他の子がみんな優秀に見えてしまう」というのは、よくわかります。

わたし自身も、娘のお友達がピアノやスイミングを習っているという話を聞いたり、ママのお料理のお手伝いをしていると聞くと「すごい子ばかりだなぁ」と圧倒されます、笑

比べてしまいやすい項目として、①外見、②能力、③成績などがあります。特に、服装やスタイルは目につきやすいので、無意識に比べてしまうことがあります。

また、「能力」や「成績」も、客観的に上手い下手がわかりやすいので、比べやすくなります。

ある研究では、人によく会う人ほど、比べる回数が増えることがわかっています。

例えば、赤ちゃんの頃は、家で過ごす時間が多いため、他の赤ちゃんとの違いを目にする機会は少なくて済みますが、幼稚園に通うようになると、どうしても他のお子さんを見ることになります。そうすると、比べる頻度も増えてしまいますね。

TwitterやInstagramなどのSNSを使っている人は、使っていない人よりも誰かと比べる回数が圧倒的に増えると言われています。

一般的に「凄いこと」「面白いこと」を見聞きするのは楽しいものですが、何事も見すぎ聞きすぎには注意しましょうね。

 

2-1.子どもの性格や気質を他の子と比べてしまうことも実は、あるある

〇ママTA:

確かに、成績とか、できることって目に見えて分かるので比較しがちです。

でもそれ以外にも、「あの子は明るいのにうちの子は…」なんて性格的なことでも比べてしまったりします。

もちろん、娘のことは大好きで大切なんです。「娘が他の子だったら」なんて、1ミリも思っていないんですが……。本当、ダメ母です。

〇心理師・久美子:

TAさんが娘さんを大切に思っていることはよく伝わってきます。全然「ダメ」とは思いません。「ダメ」というネガティブな感情はここで封印しましょう。エイッ、封印、笑。

性格や気質といった内面的なものも比べやすい項目です。人が自然に行ってしまうことなので、それ自体が悪いことではありません。

注意しておきたいのは、人は内面について、相手のことを全く知らなくても、あたかも知っているようにその場だけで比較しようとすることです。

例えば、一緒に遊んでいる子があまりよく知らないお子さんでも、「あの子は落ち着いていて、お行儀のいい子だなぁ。うちの子は落ち着いているというかボーッとしていて…」などと、そのとき見た姿だけで、我が子と比較してしまっていませんか?

そんなときは、いま見えているのはその子の一面に過ぎないことを思い出しましょう。

外では明るくて、自己主張ができて、博士のように物知りな子でも、家では違う面があったり、親だけが知る短所があったりします。

特に、内面は外見よりも見えにくいため推測が働きやすいです。見えている一面だけを切り取って、我が子と比べてしまうと早合点をしてしまうかもしれません。

みんな「いい面」もあれば、「あれれな面」もあります。「あの子はすごいな」の次は、一呼吸置いて、「うちの子は〇〇がよくできるから、〇〇派かな」なんて思ってみるといいかもしれません。

 

3.比べてしまう親の心理、アイデンティティや劣等感が影響?

〇ママTA:

中には子どもが全然できなくても平気そうなママさんもいますよね。他人の子と比べてしまう人と比べない人は何が違うんでしょう。私自身が他人と比べて悩むことと関係しているんでしょうか?

〇心理師・久美子:

他人と比べやすい人の傾向に、アイデンティティという概念の低さが関係していると考えられます。

アイデンティティとは、「私は私である」という「自分らしさ」を持っていること、そして周りの人がそれを認めてくれることの2つで成り立つ概念です。

青年期の課題としてよく言われる「自分とは何か?」を発達心理学者エリクソンは、「アイデンティティを見つけ、確立すること」と述べています。

成長する過程で、子どもは親から独立し、自分の人生の方向を決める必要があります。この時、自分が社会の中でどのような役割を果たすかを理解することが大切です。

「私はこんな人です」と自分を自己紹介できる人は、自己認識がしっかりしており、アイデンティティに問題がありません。逆に、アイデンティティが低い人は、自分の存在意義を見つけられていない可能性があり、独自のアイデンティティが不明確かもしれません。

すると、自分と似たような人(特に、同年代、同性、同じ所属)と比べて、「私」を補うようになります。

「あの人がやってるから間違いない!」といった「他人軸」の価値基準から物事を考え、「似ていること」=「正しい・間違っていない」と判断し安心感を得ようとします。そのため、「他人と違う」=「間違っている・ダメ」と判断しがちにもなります。

逆に、アイデンティティが高い人は、自分自身に自信を持ち、他人との違いを受け入れることができます。

<心理学的解説まとめ>

・アイデンティティが低いと、「自分らしさ」が不安定なので、似ている誰かと比べて同じであると確認して安心したい

・アイデンティティが高いと、「自分は自分、他人は他人」と分けて考えられるので、人と違っていても気にならない

⇒💡アイデンティティを高められると、自然と人と比べて悩むことも減っていきます。

 

〇ママTA:

ん~、私も他人軸になっていそうです。「自分とは何か」言い切れる自信がありません、涙。

〇心理師・久美子:

「私は私である」ってなかなか難しいことですよね。私自身も、アイデンティティが高いとは言い切れないと感じています、汗。

「他人軸」で子どもを比較しそうなときは、「今このときをありのままに感じる」という【マインドフルネス】の視点を子どもとの関り合いに取り入れてみるといいかもしれません。

子どものぷっくりとした横顔。幼くて可愛い声。クレヨンを握っている小さな丸い手…など。その時々の今を改めて感じてみると、「あぁ、うちの子も大きくなったなぁ」と我が子に集中して目を向けられるようになります。

 

3-1.私はできていたのにな…はNG、その不安は誰のもの?

〇ママTA:

確かに、「今このときをありのままに感じる」っていいですね。娘を寝かしつけているときとか、娘に集中しているときは、他の子と比較しようなんて思わないですもん。マインドフルネスの視点を取り入れてみます!

そういえば、私が子どもの頃、母から「子どもは親の分身」と言われたことがありました。

「お母さんは昔、できていたわよ」と言われることもあって、お母さんと比べないでよ!なんて思ったことをふと思い出しました。

こういう、親が自分自身と子どもを比較するっていうのも、結構ありがちなんですかね?

〇心理師・久美子:

それもあるあるだと思います。

親が自分自身と我が子を重ねて、自分の劣等感を子どもにぶつけたり、子どもの行動や意見に一喜一憂してしまうことを「代理劣等感」といいます。

例えば、子どもの受験に自分を投影してしまう親御さんもいます。子どもが有名な学校に入れば、自分のことのように優越感を感じ、逆に受験に失敗すると自分の人生が否定されたように感じて子どもを非難したりします。

また、子ども自身は、「一人遊びが好き」で気にしていないのに「うちの子は友達がいない」と、ひどく心配される親御さんもいらっしゃいます。それも、「私がダメだから友達がいないんだ」というように、子どもと自分を重ねてしまっているからかもしれません。

親子ですから似ているところもありますが、やはり自分とはまったく別の人格を持ったひとりの人間として、お子さんの個性を尊重してあげたいですね。

親の願望を子どもに投影したり、親自身と子どもを比べることは、我が子を傷つけてしまいます。つい、思ったとしても口に出さないことが、お子さんの自尊心を守ることに繋がります。

 

3-2.劣等感を味方にしよう!

〇ママTA:

親の劣等感は子どもにもよくないって聞きますが、それを子どもに重ねているなんて、なんだか怖いですね、涙。私もそうなのかな……。

〇心理師・久美子:

こんな話を聞くと、怖くなってしまいますよね。ですが、劣等感を抱くことが100%悪いかといえば、そんなことはありません。

「嫌われる勇気」という書籍で有名な心理学者のアドラーが、「劣等感は自分の成長のために使える」と言っています。

劣等感を持ってしまったら、「悩む」より「困る」が正解です。困っていれば、解決策を考えればいいからです。「私ってダメだな」と思ったときこそ、「どうやったらこの状況を乗り越えられる?」「いまできることはなに?」と見方を変えてみましょう。

この記事を読んでくださった方も、「比べてしまうのはなぜだろう?」「比べないためにはどうすればいいだろう?」と考えていますよね。それこそが、「悩む」から「困る」への変換といえます。

困りごとは、一緒に考えていきましょうね!

 

4.(エッセイ)アドラー心理学:劣等感はバネになる

劣等感と聞くと、ネガティブなイメージを持ちますよね。

ほとんどの人が、劣等感を補償しようとします。例えば、自分の弱みを隠すために、他人よりも優れているように見せたり、逆にどうせ自分には能力がないからと、”いまの自分を正当化”しようとします。

心理学者のアドラーは、劣等感を持つのは、本当は「こうなりたい」という理想が私たちの中にあるからだと気づかせてくれます。劣等感は、人と比べたときだけではなく、理想の自分とのギャップからも生じます。

人は、誰でも生まれ持って向上心を持っているため、現実の自分と理想の自分を比べて、「自分はまだ全然ダメだな」と感じてしまいます。筆者自身も、自分にはリーダーシップやプレゼン能力が低いなと感じ、上手い人を見ると劣等感を感じて落ち込みます。

理想の自分と比べ、さらに、できている誰かと比べ、二重で比べているということですね。それは落ち込みますね。ですが、アドラーは「劣等感は悪ではない」と言います。

むしろ、劣等感に悩んでいても、その劣等感をバネにして、理想に向かって頑張ろうと思えたなら、OKということです。

筆者の例で言えば、上手いと感じた人の良いところをよく観察したり、アドバイスをもらって、自分なりにチャレンジすればいいということになります。

このように、劣等感には「自分の弱みを受け入れて、それを克服しよう」とするポジティブな側面があります。「実は劣等感に応援されている!?」と考えると、気持ちが楽になりますよ。

 

5.「比べる」を伸びしろに親子でグンッと前進!

<編集後記>

ダメだとわかっていても、なぜ我が子を他の子と比べてしまうのか、親の心理について解説してもらいました。

比べることは悪いことではないけれど、「あの子はできるのに、どうしてできないの?」といった感情は、子どもを傷つけてしまうことにもつながります。

まずは、親自身の比べてしまう心理にスポットをあてて、少しずつ比べる気持ちを克服していけるといいですね。もし比べてしまったら、「我が子の伸びしろだな!」とポジティブに考えてみましょう。

次回の後半では、「比べることが与える子どもへの影響や、比較しないためのアドバイス」についてお聞きします。

 

主な参考文献
・書籍:岩井俊憲,感情を整えるアドラーの教え,大和書籍,2016
・大須賀隆子,児童期の認知発達と心理発達の特徴と支援について.帝京科学大学教職指導研究1(1)161-167
・大和美季子・吉岡和子,きょうだいに対する劣等感と養育態度の認知との関連.福岡県立大学人間社会学部紀要20(1)61-69,2011
・叶少瑜,大学生のTwitter使用、社会的比較と友人関係満足度との関係.社会情報学8(2)111-124,2019
・重村菜月・外山美樹,集団的自尊心と社会的比較志向性がネガティブな結果フィードバック後の自尊心に及ぼす影響の検討.筑波大学心理学研究第58号13-19,2020
・吉川祐子・佐藤安子,対人比較が生じる仕組みについての心理学的検討.心理社会的支援研究 創刊号 41-53,2010

 

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