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子どもの「自分らしさ」を伸ばす!エリクソンの発達段階と発達課題とは?

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CONOBAS編集部 古田 CONOBAS編集部 古田

CONOBAS編集部 古田

CONOBAS編集者。一児の母で心理学生。

子育てをしながら、30代で通信大学に入学。

現在は、発達心理学・神経・生理心理学・臨床心理学を主として、心理学や教育学を学んでいます。

日々、ユーモアと科学的な学びを大切にした子育てを心がけています!

「将来はこんな子に育ってほしいな」
「人に流されず自分をしっかりもってほしい」など。

お子さんには、元気で自分らしく生きていってほしいものですね。
ところで、その「自分らしく」とはなんでしょう。

今回は、発達心理学者であるエリクソンが提唱した「心理社会的発達理論」を紐解きながら、自分を形づくる「人格発達」について取り上げます。

ここでは、エリクソンが示した8つの発達段階のなかでも、「0~12歳間の4つの発達段階(乳幼児~学童期)」に注目します。

この時期のこころの発達に加えて、
こころの成長に必要な乗り越えなければいけない葛藤(発達課題)や、うまく乗り越えられずつまずいてしまった場合に抱えてしまうおそれのあるこころの問題についてわかりやすくていねいにお話しします。

子どもの発達段階について知ることは、子どもの心の理解や、子どもとの関係に悩んでしまったときなど、適切に対応するための知識として役立ちます!

ぜひ、子育てや子どもの理解に役立ててみてくださいね。

 

目次

1. エリクソンは、どんな人?

エリク・H(ホーンブルガー)・エリクソンは、今から120年ほど前の1902年にドイツで生まれた、最も有名な発達心理学者のひとりです。(後にアメリカ国籍となる)

ユダヤ系デンマーク人の母から生まれ(実父は不明)、北欧系の顔立ちをしていたエリクソンは、ユダヤのコミュニティから異色な存在として差別を受けました。

さらにユダヤ人であるという理由でドイツ人からも差別を受けており、「二重の差別」を経験して育ちました。

この体験がその後に「自分とはなんだろう」といった「アイデンティティ(自己同一性)」を生み出す源となります。

またエリクソンは精神分析家でもあり、苦しんでいる患者(クライアント)とのカウンセリングから大きな影響を受けたといいます。

 

2.アイデンティティ(自我同一性/自己同一性)とは?

エリクソンが提唱した青年期の発達課題のなかに、「自分は何者なのか」を問う「同一性」の概念があります。

これが「アイデンティティ」といわれるもので、「自分はこんな人間だろう」と自分を定義・理解する力ともいえます。

昨今では、メディアでもアイデンティティという言葉がつかわれることも多く、耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

世間ではよく、「アイデンティティをしっかり形成するのが大切だ!」といった声も聞きますが、
エリクソンの示したアイデンティティという概念は、『これが自分の個性だ!』といったように「固定化された自分」を決めるものではなく、周りの環境に左右されながら、何度もつくりなおし変化させていくものでした。

とはいっても、「自分がどのような人間なのか」といったイメージを上手く持てなかったり、ひどく混乱してしまった場合には、それが神経症や心の病につながります。

 

3.エリクソンの「心理社会的発達理論」とは?

※発達段階の区分は諸説ありますが、ここでは心理学博士で発達心理学者である守屋國光氏、著『生涯発達論』のなかで使用されているErikson, E.H.による自我発達の8段階を採用しています※

 

エリクソンは、生まれてから死ぬまで、人は生涯をかけて「自分という人格」を成長させると考え、人の人格発達を8つに分けて「個体発達分化の漸成(ぜんせい)図式」を提唱しました。

そこでは、「信頼」VS「不信」のように、達成しなければならない発達課題(前部分)と、達成できなかった場合に陥る可能性のある心理的な危機(後ろ部分)を対にして示しました。

さらに、発達課題が心理的な危機を上回ることで高められる能力(「信頼」VS「不信」の場合は、「希望」)についても示唆しています。

漸成とは、時間をかけて少しずつ形づくっていくという意味で、「自分」という人格は時間とともにゆっくりつくられていくものだということが表されています。

これがエリクソンの「心理社会的発達理論」といわれる考え方です。

次に、エリクソンのいう「心理的危機」とはどんなものなのかについてお話しします。

 

3-1.成長と問題は紙一重!エリクソン「心理的危機」とは

エリクソンは、人は「身体の成長」にともなって学ぶのに適切な時期があり、その時期に合わせて広がっていく「社会」との関係が、人の心を育み、成長させると考えました。

生まれたばかりの赤ちゃんは、家族(ママやパパ)といった限られた人たちとのかかわりの中で生きていますが、1歳、2歳……と成長にともなって関わる人が増えたり、近所の公園から電車に乗って5つ先の街に遊びに、といったように行動範囲を広げていきます。

そんな変わりゆく行動範囲、周囲への関心や成長意欲が自分というアイデンティティを培っていきます。

しかし社会との関わりは思い通りにならないものですよね。
そこで立ちはだかる問題を、エリクソンは「心理的危機」と呼び、問題と向き合い乗り越えることによって困難を解決する心の力を高めたり、安定したアイデンティティにつながっていくと考えました。

 

3-2.0~12歳間(乳幼児~学童期)の発達段階理論

◆希望を生み出す、乳(幼)児期(0~2歳)

この時期の子どもはお母さん・お父さんとの関わりから心の癒し人への信頼を育んでいく時期です。

ここで、「基本的」といわれるのは、これから人が成長していき、他者と関わるときのベースになる力であると考えられているためです。

信頼は、お母さん・お父さんのあたたかい関わりや声かけ、一貫して安定した態度やお世話によって育まれます。

乳児の「信頼」経験とは、「お腹が空いたよ、寒いよ、怖いよ」といった欲求に対して、お母さん・お父さんが適切に接してくれることによって欲求が満たされ、「わたしは価値があるんだ!」という無意識の存在としての肯定感が感じられる状態です。

これが後に、無意識の自己肯定感や「自分はこういった人なんだ」というアイデンティティを感じさせる要素になります。また信頼は、人がそもそももっていると考えられている危機に直面しても「自分は大丈夫だ!」と感じられる「希望」の力を高めます。

逆に「お腹が空いたよ」「寒いよ」といった欲求が満たされなかったときや手荒く対応されたときには「不信」につながるといわれます。
「不信」とは、漠然とした怖さや怒りであり、不信の経験が大きくなると、後にひっこみ思案へとつながるといわれています。

そのため、0~2歳の時期には「おむつが濡れていないかな」「抱っこしてほしいのかな」など、子どもの反応や顔色などによく注目して、適切に関わりをもつことが大切です。

 

ポイントまとめ0歳~2歳の時期は……
・お母さんとお父さんの優しく一貫した態度が「信頼」を生み出す
・「信頼」は後に、困難に立ち向かう際の「希望」になる
・適切に接することで、子どもの自分への無条件の肯定「自己肯定感」が生まれる

 

◆意志を生み出す、幼児期(歩行期ともいう)(2~3歳)

この時期の子どもは、自分がほかの人とは違うこと、お母さん・お父さんがどんなときでも欲求を理解してくれるわけではないことが分かってきます。

自分であるということへの独自性にこだわる時期であり、「思い通りにしたい!」「自分でやってみたい」と思うようになります。これが「イヤイヤ期」と呼ばれる第一次反抗期です。

身体的に発達が進むと、手あたり次第いじくりまわしていた「自分のやりたいようにする」という思考から、生活上のことを「自分ひとりでやってみたい」という考えに変化します。

このときの「自分でできた!」という感覚が自律感を育て、自分は「自分や環境をコントロールすることができる」という自信につながります。

自律は、「恥ずかしさ」や「できないかもしれない」と感じながらも、挑戦してみるといった「意志」の力につながります。

やりたいことができなかったり、「まだできないでしょ」といって途中でやめさせてばかりいると、子どもは「わたしにはできないんだ」という感情や恥ずかしさを感じたり、「やっぱり、わたしにはできないのかな」といった自分への疑問の感情が目立つようになります。

これは、後に新しいことに挑戦することを拒み、決まったことしかやらないといった行動につながるといわれます。

そのため、2~3歳の時期には、お母さん・お父さんの「できるまでまってあげる」忍耐力とできないときのちょうどいい手助けをすることが重要です。

しかし、子どもの取り組みを100%見守るのがいいとは限りません。

適切なタイミングと関わり方で、「これはまだ難しいかもね」と指摘してあげられれば、「これはできるけど、これはまだ難しいんだな」といった現実的な自分を学ぶいい機会になります。

 

ポイントまとめ2歳~3歳の時期は……
・「自分でできた」の感覚が自分への自信につながる
・できたという経験は、後に挑戦するぞ!という「意志」になる
・「まってあげる」忍耐力と、「まだ難しいね」のちょうどいい手助けのバランスが大切

 

◆目標や目的を抱く、遊戯期(学童前期)(4~5歳)

この時期の子どもは、自分の周りにある外の世界に興味や関心をむけ、どのようなルールがあるのか、なぜこうなっているのかといった探索をはじめます。

「空はなぜ青いのか、なぜ雨が降るのか、爪はなぜ伸びるのか、赤ちゃんはどこからくるのか」など、たくさんの「なぜ」を思い浮かべ、好奇心が高まります。

ここで最も返答が難しく、考えなければいけないのは「」についての概念です。

子どもたちは、男の子や女の子といった概念や、性別で異なる体の部位について「どうなっているんだろう」といった疑問がわいてきます。

「どうして女の子にはおちんちんがついていないの」「おっぱいってなんであるの(おっぱいみせて)」といった発言や上半身や下半身を見せたりすることもあるかもしれません。
しかしそういった行動は、自分とは違う体の部分のことを知りたいという自然な発達的感情です。

ここで「バカなことをしないで」「恥ずかしいことだよ」「エッチだ」といった言葉をつかってしまうと、純粋な好奇心が押し込められて、後にしてはいけない間違った性行動につながることもあります。

この機会を、体や機能の違いとして性を学ぶきっかけと捉えて、体の図鑑で男女の違いを学んだり、体の見せてはいけない部分やなぜ見せてはいけないのかについて社会的なルールを教えてあげましょう。

外の世界への積極的な探索経験が身につくと、社会はいろいろなことが学べる楽しい居場所であると感じられ、その後の社会的な目的や目標をもった活動につながりやすくなります。

幼児期同様にここで、「危ない、してはいけない」と制限ばかりしてしまうと、「知りたい!」という気持ちや「なぜだろう?」と思う好奇心は悪いことなのではないかという罪悪感が生まれ、自分で動くことへの抵抗や無気力になってしまうことも。

また、自分の考えよりも両親や指導者の意見に依存的になってしまうようになります。

そのため、4~5歳の時期には、子どもの「知りたい気持ち」を大切にして、「これはこういうことだよ」と教えてあげたり、「なぜだろう」と一緒になって考えてみてください。

 

ポイントまとめ4歳~5歳の時期は……
社会のルールを少しずつ教えていく
体や性への関心を否定しない
・子どもの「なぜ」に一緒になって考えてみる

 

◆能力を強化する、学童期(6~12歳)

この時期の子どもは、自分が社会のなかでどのような役割を果たせるかといった自己評価をするようになります。

わからないことやできないことを学びたいという「勤勉さ」を発揮できる環境があれば、子ども自身が自分を信じて、社会で活躍できるよう努力することができるようになります。
また、努力したことにより、実際に「能力」を高めることもできます。

お母さん・お父さんは、ほめることやご褒美で子どもをはげましながら、努力することへのメリットや動機づけを高めるサポートをしましょう。

この時期にはよく、「バスケが好きだけど自分より友達の方ができる」といった友人間での比較や「勉強が好きだけど、いい点が取れない」「失敗ばかりする」といった劣等感を感じさせる経験をします。

この経験は、「どうせなにをやったってダメだ」という学習的な無力感につながり、自分の能力をここまでだろうと考えて努力することに後ろ向きになってしまうこともあります。

しかしどんな子でもある程度は劣等感を経験するものです。

劣等感が無力感に代わる前に、「失敗」することは悪いことではない、誰だってできること・できないことがある、努力することでできるようになるといった前向きな考え方を身に着けてもらうことが大切です。

そのため、 思春期の一歩手前となる6〜12歳の時期には、「この学びが将来どう役に立つのか」といった未来思考の考え方をとりいれながら「学ぶこと」の楽しさや頑張ることのできる環境づくりや声がけが有効です。

時にはプレゼントなどのご褒美を用意しながら、ていねいにサポートしてあげましょう。

 

ポイントまとめ6歳~12歳の時期は……
努力できるようなサポートをする(例:ご褒美や目標を作るなど)
・努力することのメリットや「学び」が将来どのように役立つのかを意識させる
・「失敗」や「できない」ことは悪いことではないという考え方を伝える

 

4.「生涯発達」は生きる道しるべ、つまずいたって大丈夫!

先ほどもお話ししましたが、「人格発達」とは子どものうちに完成するものではなく、生涯かけてつくりあげていくものです。

「発達課題」にうまく対応することができずに、心理的危機にぶつかってしまっても、いずれは自分なりにうまくバランスをとることができるようになります。

ここで重要なのは、「社会」との関わりが大切だということです。一人では解決できない課題も親身になって寄り添ってくれる家族や友人からのサポートで心理的危機を乗り越え、自分というアイデンティティを肯定的なものに成長させることができます。

適切なバランスのとり方は、ひとりひとり違います。

お子さんの特徴や状況を考慮しながら、「いまこんな危機があるのだな。じゃあこうやってサポートしてあげようかな」と考えるヒントとして、エリクソンの発達理論を参考にしてみてください。

主な参考文献
書籍: バーバラ・M. ニューマン (著), フィリップ・R. ニューマン (著), 福富 護 (翻訳), 新版 生涯発達心理学―エリクソンによる人間の一生とその可能性, 川島書店, 1988
書籍: 守屋國光, 生涯発達論―人間発達の理論と概念, 風間書房, 2005
書籍: ジョージ バターワース (著), マーガレット ハリス (著), George Butterworth (原著), Margaret Harris (原著), 村井 潤一 (翻訳), 神土 陽子 (翻訳), 小山 正 (翻訳), 松下 淑 (翻訳), 発達心理学の基本を学ぶ―人間発達の生物学的・文化的基盤, ミネルヴァ書房, 1997

 

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