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幼児期から適切な自己主張「アサーション」を学ぼう!トレーニング方法やタイプは?

この記事を書いた人

久美子 久美子

久美子

  • 公認心理師
  • 臨床心理士

5歳と7歳(小1)の息子のアラフォーママ。

公認心理師・臨床心理士の資格を持っています。

心理士の仕事をしながら、発達心理学の視点も踏まえて、日々、子育て奮闘中。

夫にも積極的に育児に参加してもらい、親子でハッピーになれる時間を模索しています。

「自分の言いたいことを我慢してしまう」

「引っ込み思案な性格が心配」

そんなお子様の悩みをお持ちの親御さんも多いのではないでしょうか。

自己主張が苦手だと、将来の学校生活や友達関係もうまくいくか不安になりますよね。

今回は、自分も相手の意見も大切にするコミュニケーション方法「アサーション」という概念を紹介します。

「アサーション」は単に自己主張するだけでなく、相手の話もしっかりと聞き入れながら主張することでコミュニケーションを円滑にするスキルです。

仲間外れ・いじめなど、学校での対人トラブルを防ぐための手段にも有効とされています。

おうちでできるアサーション・トレーニング法で幼児期からお子様の社会性をアップさせましょう。

 

目次

 

1. アサーションとは?

「アサーション」とは、自分も相手も大切にするコミュニケーションスキルのひとつです。

最近では、自己表現が苦手な人や、コミュニケーションのスキルを高めたい人のために、「アサーション・トレーニング」を取り入れる企業や大学が増えているといいます。

それでは具体的に、アサーションについて見ていきましょう。

 

1-1.アサーションはコミュニケーション・スキル

アサーションとは、「さわやかな自己表現」と訳され、自分も相手も大切にする自己表現の方法です。

なるべく素直に、率直に、そして適切な方法で伝えることを大切にしています。

もともとアメリカの心理療法の中で開発され、1980年代に日本にも紹介されました。

アサーションの概念には、自己主張しない方が良いと思えば、あえて主張しないという「自己主張をしない権利」も含まれます。

また、「どのようなコミュニケーションをとるかは、自己責任で選択する、その結果も自己責任で引き受ける」という、シンプルな原理をベースにしています。

 

1-2.あなたのアサーション度をチェックしよう

それでは、子どもの自己主張を考える前に、ママやパパのアサーション度を見てみましょう。

以下のリストに「はい」か「いいえ」で答えて、アサーション度をチェックしてみてください。

 

▶アサーション度・チェックシート

<採点方法>

「いいえ」の数が 5 つ以上の人⇒アサーション度は低めです。自分のことは後回しになり自分を表現するのが苦手。

「はい」の数が 5 つ以上の人⇒アサーション度は高めです。

(出典:平木典子:平木典子著「アサーション・トレーニング-さわやかな自己表現のために-より一部改変し引用)

 


私たちの悩みの中で一番多いのは、「人間関係」ではないでしょうか。

アサーション・スキルを身につけることで、コミュニケーション能力がアップします。それは、生涯の宝とも言えます。

親御さんのアサーションスキルが高いと、子どもも高くなる傾向があるといわれます。

今からでも遅くはありません。さっそく「アサーション」を取り入れてみましょう。

 

2.3つのアサーションタイプ! 我が子はどれ?

図:心の状態と自己主張の関係(岸田 等,2021)より一部を改変し引用

上の図は、心の状態と自己主張の関係を、自分と他者について「肯定的」か「否定的」かで分けて表したものです。

理想的な自己主張タイプとしてあげられるアサーティブタイプは、自分にも他者にも肯定的です。

 

アサーションには3つの自己表現タイプがあります。

ここでは、3つのタイプをドラえもんのキャラクターに例えて分かりやすく紹介していきます。

お子さんはどのタイプにあてはまるでしょうか。親御さんも一緒に自分のタイプを考えてみてくださいね。

 

2-1.アグレッシブ(攻撃的)タイプ

アグレッシブ(攻撃)タイプは、自分を中心に考え、相手のことは考えずに言いたいことを言うタイプです。

▶アグレッシブタイプの特徴

怒鳴りつける、いやみを言う、無視する、揚げ足を取る、褒め殺しをするなど。

また、やりたくないことを「あなたの勉強になるよ!」などと言って相手に押し付けたり、優しく言って操作しようとすることもあります。

 

ドラえもんのキャラクターでいうと、俺様キャラの『ジャイアン』のようなイメージです。

「俺はいい、お前はだめ!(私はOK、あなたはOKでない)」というスタンスがまさにアグレッシブタイプの特徴です。

 

2-2.ノンアサーティブ(受け身的)タイプ

ノン・アサーティブ(受け身的)タイプは、自分の気持ちを抑えて、相手の言いなりになってしまったり、言いたいことや言うべきことを言えません。

▶ノン・アサーティブタイプの特徴

耐えている、無表情になる、口ごもる、消極的、引っ込み思案など。

はっきりしない言い方のため相手に気づいてもらえなかったり、相手に合わせているので自分の本心がわからなくなったり、気持ちを溜め込んでしまいます。

 

ドラえもんのキャラクターでいうと、おどおどしているときの『のび太くん』のようなイメージです。

(※実際の『のび太くん』は、ノンアサーティブタイプだけでなくアグレッシブタイプも併せ持っています)

「みんなはいいのに、僕はだめなんだ(私はOKでない、あなたはOK)」というスタンスがまさにノンアサーティブの特徴です。

 

2-3.アサーティブ(調和的)タイプ

アサーティブ(調和的)タイプは、相手の気持ちに共感したり尊重したりしながら、自分の言いたいことも上手に言えます。断るときも相手を傷つけずに断ることができます。

▶アサーティブタイプの特徴

自分の気持ちを確かめる、相手のことを聞く、さわやかな自己表現ができるなど。

 

ドラえもんのキャラクターでいうと、上手に断れる『しずかちゃん』のようなイメージです。

「私もOK、あなたもOK」というスタンスがまさにアサーティブの特徴です。

 


お子様は、どのタイプの傾向がありましたか。

筆者の息子(6歳)は、アグレッシブタイプとアサーティブの両方が当てはまりました。友達と意見が違うときに「ちがうよ!」と腹を立てることがあります。

一方、以前よりは「ありがとう」や「ごめんね」が素直に言えるようになってきました。息子がアサーティブに表現できているときは、すかさず褒めて伸ばしたいと思います。

お子さんだけでなく、親御さん自身も、アサーティブタイプを身に着けられると、人間関係のストレスが減って、自分に自信が持てるようになります。

また、子どもにもアサーティブな自己表現を教えてあげることができます。

 

3.アサーション・トレーニングの効果は?

アサーションの効果は、さまざまなところで見受けられます。

小学5年生を対象とした2019年の調査によると、

自己表現タイプがアグレッシブタイプとノンアサーティブタイプの児童に、「アサーション・トレーニング」でロールプレイなどを実施したところ、集団活動や友達とのコミュニケーションのスキルが向上したそうです。

子供たちにアサーションのスキルを身につけさせることで、自己表現能力や他者を尊重する意識が向上し、コミュニケーション能力が上がることが期待できます。

 

3-1.幼児のアサーションは効果は?

これまで子どものアサーション研究は児童以降を対象としたものが多く、幼児に対してのアサーションに関する研究はまだ少ない現状です。

しかし、アサーションは「自我の発達」との関連が強いことから、幼児期はアサーションの土台が形成される時期であると考える研究者もいます。

幼児期は、アサーションのスキルを使えるようになる前段階の「自己主張」と「自己抑制」の発達している時期です。

しかし、幼児は「アサーション」ができないということではありません。

アサーションの要素には「他者の視点に立てること」、「共感性の高さ」も影響していると考えられています。

幼児を対象に、他者を傷つけない主張行動のトレーニングを行ったところ、共感性の向上がみられたという報告があります。

 

4.児童~大人向けのアサーション・トレーニング方法

具体的にアサーション・トレーニングはどんなことをするのか、その方法を見ていきましょう。

 

4-1.アサーション・トレーニング「みかんていいな法」の4つのステップ

みかんていいな法(DESC法)」は、自分の気持ちと希望を素直に伝え、相手の協力を引き出すシンプルな話法です。

具体的には次の4つのステップで伝えます。

①み → 見る(Describe)

②かん → 感じる(Express)

③て → 提案(Specify)

④い(イエス)・いな(ノー) → 否定されたときの代案(Choose)

 

「みかんていいな法」を使った子ども向けの事例を考えてみましょう!

ある日の夕飯時、ご飯ができたのでテーブルに食事を運ぼうとすると…あら、びっくり。テーブルの上や床一面がおもちゃだらけです。

お母さんは、「ちょっと!ご飯の前にこんなにおもちゃを出して遊ばないでしょ!早く片付けて」と言いますが、なかなかやってくれません。

しかし、何も言わずにお母さんが片づけてしまうのもよくないような……。

こんなときこそ、「みかんていいな法」を使って子どもたちに片づけを頼んでみましょう!

①み → 見る(客観的状況)

「おもちゃがいっぱいだな」

②かん → 感じる(相手の気持ちに共感、自分の気持ち)

「1人で全部片づけるのは大変だね、一緒にお片付けしてくれたらうれしいな」

③てい → 提案(具体的な提案、要望)

「このおもちゃをこの箱に入れてくれるかな?」

④いな → 否定されたときの代案

「じゃあ、このお人形さんはここに置いておこうか。こっちのブロックを片づけようか?」

→子どもたちがおもちゃを片付けてくれたので、お母さんは「ありがとう!」と感謝の気持ちを伝えました。

 

「みかんていいな法」を使えば、相手に優しく要望を伝えることができますね。子どもが協力してくれたら感謝を伝えましょう。


 

4-2.適切な怒りの表現方法

ここでは、適切に怒りを表現する2つの方法を見てみましょう。

 

▶「私は」を主語に

怒りを感じると、つい「あなたってさ」「ふつうはね」などと言いがちです。

そのように言われた相手は「責められた」「否定された」と感じて拒絶反応を示します。

「私は…」と始めることで、相手は「自分とは違う感じ方・考え方をするんだな」と受け止めやすくなります。

例:
✕ あなたは私を無視した →◯ 私は無視されているように感じた。
✕ 常識的にはありえない →◯ 私はちょっと違うと思う。
✕ なんであなたはいつもそうなの! →◯ 私だったらそのやり方はしないな。

 

▶「自分が望むこと」を伝える

自分は何を望んでいるのか、どう変わってほしいのか、ポイントを一つに絞ります。

相手が具体的に行動に移せる言葉で、現在・未来について提案します(過去は変えられない)。

また、「~をしてもらいたいのだけど、どうかな?」など、要望や依頼の形で伝える方法もあります。

例:
◯ ちゃんと理由を説明してほしい。
◯ これからは決める前に、私に一言話してほしい。
◯ このやり方は、~というやり方に変えてほしい。

 

もし、怒りの伝え方に失敗してしまったときは、言い過ぎたことを素直に謝りましょう。

自分の非を正直に認めた上での謝罪は、相手の心に届きます。難しいことですが、これも適切な自己主張のひとつです。

言いたいことが言えなかったときは、「言いそびれたけど」と付け加えましょう。

タイミングはできるだけ早めがよいでしょう。

例:さっきは感情的になってごめんなさい。本当は◯◯だったの。
例:あのあと考えたんだけど、もう一度私の考えをきちんと伝えたいから、聞いてもらえないかな?


アサーション・トレーニングによって、自尊感情が高まり、適切な怒りの表現ができるようになる効果が期待できます。

 

5.幼児のアサーション・トレーニング方法

アサーションに関わる要素には、他者の視点に立てること、そして共感性の高さが関わっています。

幼児期に、この2つの能力を育成してあげることで、児童期のアサーションのスキルを獲得しやすくなります。

 

5-1.アサーションを高める遊び「鬼ごっこ」

アサーションを育成する遊びとして、鬼ごっこをおすすめします。

2020年の調査によると、幼児の鬼ごっこ遊びで他者の視点に立った追いかけ方ができる子どもは、日常生活でも自分と相手に配慮した主張ができることが示されました。

このことから、アサーションの基礎となるスキルがどれだけ発達しているかを示していると考えられます。

鬼ごっこのメリットは、子どもが遊びながら他者の視点に立つ経験ができることです。

鬼ごっこでは、オニ役がコ役を追いかけて捕まえますが、自分の視点をコ役の視点で考えて、コ役がどこに逃げるかを予測することが必要です。

つまり、集団遊びの中でも鬼ごっこは、幼児が他者の視点に立つという経験ができる遊びです。

鬼ごっこを体験することで、他者の動きや視点を意識することがより効果的になります。

 

子どもへのアプローチポイント

まずは、お子さんが鬼ごっこをしている様子を観察してみましょう。

他者の視点を持てているかどうか、その程度を把握します。

把握した程度に応じて、お子さんに他者の視点に立つことを促すような働きかけを考え、声をかけることができます。

 

5-2.アサーティブな断り方を教えよう

断るのが苦手な場合、どう断ったらいいか分からないことが多いです。

アサーションの「NO」の使い方は、自分ができる範囲をはっきり分かりやすく誠実に伝えることで、これ以上は困難だということを示します。

具体的な場面を想定して考えてみましょう。

例えば、友達に「○○しようと誘われたけど、やりたくない」と感じたときの断り方です。

アグレッシブな子どもは、「やだ。私それ嫌いなんだよね」とはっきりと答えてしまいます。筆者の子どもはこのタイプです。

しかし、このような返答は、誘ってくれた友達を傷つけてしまうことがあります。

一方、ノンアサーションの子どもは、「……うん」と言ってしまい、他にやろうとしていたことを諦めたり、嫌だけれど一緒に遊びます。

こういう場合、アサーティブな子どもは、

「誘ってくれてありがとう!でも、今は○○して遊びたいの。それが終わってからでもいい?」と、相手を否定せず、断る理由や状況を説明します。

また、「終わってからでもいい?」と代案を考えたりします。

これなら、相手に嫌な思いをさせることがなく、自分自身も困らなくなります。

アサーティブなセリフを言えるように、親子でロールプレイして、練習してみましょう。

 

5-3.幼児期に気をつけたい親の関わり方

2歳のイヤイヤ期がはじまり、1人でできることが増える3歳頃になると自己抑制が芽生え始めます。

「もう3歳だもん」と、大きくなった自分を誇らしく思うようになる一方で、疲れたときは甘えたり尻込みする気持ちが出てくることもあります。

そんなときに、ママやパパから「もうお兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから、しっかりしなさい」と指示的に言われると、ますます気持ちがしぼんでしまいます。

指示的な関わり方ではなく、揺れる気持ちに寄り添いましょう。

「◯◯ちゃんは、これがしたかったんだね」と、思いをママやパパに代弁してもらって、受けて止めてもらうことで、子どもは安心して相手を受け入れる心の余裕が生まれます。

そこから、「〇〇ちゃんが代わってあげるよ」「待っててあげる」という自分で自分をコントロールする積極的な自己抑制が育まれます。

4歳〜5歳頃には、「本当は嫌だけど、でも代わってあげるよ」と言えるようになります。

そして、友達との葛藤場面を乗り越えられると、また子どもの自信になります。

 

6.親子でアサーティブでいられるために

自己主張は「我が強い」などのネガティブなイメージを想起しがちです。

しかし、アサーションは「自分を大事にする」ことのできる適切な自己主張スキルです。

幼い頃から自己主張と自己抑制がバランスよくできると、家族関係や友達関係も良好でいられます。

夫婦で、そして親子でアサーティブな自己表現をさっそく始めてみませんか?

主な参考文献
・安達知郎,安達奈緒子,大学新入生に対するアサーション・トレーニングの効果ー適応感とアイデンティティ 自己受容に着目してー,教育心理学研究(67)317-329,2019
・金子聡,渡部玲二郎,コミュニケーションに支援が必要な児童への学級単位のアサーショントレーニングに関する実践研究,茨城大学教育学部紀要(68)567-582,2019
・岸田佳子,竹田伸也,コロナ禍における自他尊重のコミュニケーションを育てるアサーション授業,鳥取大学付属中学校研究紀要(5)133-138,2021
・寺川志奈子,自己主張と自己抑制の発達,小児内科 50(3)418-421,2018
・畠中智惠,鳥羽大峻,幼児期におけるアサーション育成支援の展望,純真紀要(61)1-9,2021

 

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