【言語聴覚士が伝授】「なぜなぜ期」はことばの発達チャンス!親のかかわり方の鍵とは
この記事を書いた人
藤本ちか
- 言語聴覚士
言語聴覚士として19年勤務しています。
病院、クリニック、デイケアで勤務し現在は訪問リハビリに従事しています。
お子さまのことばや心の発達の療育には約10年間関わってまいりました。
小学生の子ども2人の母です。
子どもが小さいころには、家庭でできる発達を促す遊びを親子でたのしみ、子どもの笑顔を一番に現在も子育てをたのしんでいます。
「どうして、犬はワンワンって鳴くの?」「どうして、お母さんはお母さんっていうの?」 などなど。
大人もすぐには答えられないような質問や疑問を、次々とぶつけてくる『なぜなぜ期』。
大人には思い付かないような問いかけが微笑ましい反面、わずらわしく感じることもあるのではないでしょうか。
・なぜなぜ期に「なんで?」「どうして?」と質問をたくさんする理由はあるの?
・なぜなぜ期に育つ力にはどんなものがあるの?
こんな疑問にお答えしていきます。 なぜなぜ期に入った子どもが質問をしてくる理由を知ることで、子どものことばの発達を促せます。
目次
1.なぜなぜ期はこんな時期
なぜなぜ期は、おもしろそう・知りたいなという好奇心を満たすために、文字通り「なんで?」「どうして?」と大人に質問をする時期です。
2~6歳頃の子どもに見られ、多くは3歳頃に見られます。
2歳頃までは「なに?」と名前を聞きますが、なぜなぜ期では理由や目的を聞くようになります。
2.どうして?なんで?と聞く理由
何度も同じことを尋ねてきたり、忙しいときに難しい質問を投げかけられたりすると、イライラしてくることもありますよね。
でも、「どうして?」「なんで?」を日々くり返すのは、子どもの心身の成長と密接に関わる理由があるのです。
脳の細胞は0~3歳頃に一気に増えて、3~7歳頃に細胞同士がうまくつながっていきます。
なぜなぜ期は、この脳の細胞同士がつながっていく時期にあらわれます。
「どうして?なんで?」と聞くのは、脳細胞が急速につながることにより、
・心の発達
・ことばの発達
・社会性の発達
が見られるからです。
なぜなぜ期の訪れと、3つの発達の関係性についてそれぞれ解説していきます。
2-1.心の発達があるから
20世紀を代表するスイスの心理学者ピアジェは『認知発達理論』を唱えました。
認知発達理論では、0~12歳の子どもの認知力の成長を4段階に分けています。
①0~2歳:感覚運動期
指をくわえたり、ガラガラをふって音を出したり、自分の体やものの動きを通して外の世界を知っていく時期です。
②2~7歳:前操作期
言語機能、運動機能が一気に発達します。想像力が豊かになってくる時期です。ごっこ遊びやままごとなどをさかんにします。
③7~11歳:具体的操作期
相手の気持ちを考えて行動できるようになってきます。共感する力が育ちコミュニケーション力がついてきます。論理的思考の発達も著しいです。
④11歳~: 形式的操作期
抽象的思考ができるようになります。自分が実際に経験をしていなくても、知識を応用して考える力が育ってきます。
2~7歳頃の子どもは②「前操作期」にあたり、とくに3~4歳頃にかけては「自分が見ている世界は他の人が見ている世界とはちがうんだ」と気づき始める時期だと説明しています。
自分が見ている世界だけにいる状態から、まわりの世界に興味や疑問を持ち始めます。 そのため、自分の世界と周囲の世界の違いに気づき、何度も「なんで?」という質問を繰り返すようになります。
2-2.ことばの発達があるから
興味や疑問を大人に質問するには、ことばを使わなければなりません。
2歳頃までの子どもが話せることばの数には個人差はありますが、おおよそ200~300語で、「おかし たべる」のような2語文を話します。
3歳頃になると子どもが話せることばの数は約1,000語になり、爆発的に増えていきます。
さらに、ことばとことばをつなげて文にしていく力が身についていきます。 たとえば、「おかし おさらに いれる」のように3語以上の文が話せるようになっていきます。
理解できることばが増えて文で話せるようになることで、大人に質問ができるようになります。
2-3.社会性の発達があるから
親にべったりだった時期を経て3歳頃からは、多くの子どもが保育園や幼稚園に通い始めます。
たくさんの経験や友達との遊びの中で、自分以外の世界があることに気づき、好奇心が広がっていきます。
この頃から「相手の気持ちを理解する」という遊びや、ルールのある遊びができるようになってきます。
おもちゃの貸し借りのルールを理解する、遊具を使う順番を守る、おかしを分け合うなど社会性が身についてきます。
仲のよい友達2人以上でする鬼ごっこやままごとなどの遊びの中で、相手の気持ちを考えられるようにもなります。
・友達と遊ぶ中で「なんで?」と疑問に思う
・泣いていたり困っていたりする友達を見て「なんで泣いてるの?」と聞く
など、園の先生など親以外の大人や友達と交流し、社会性が発達することで「なぜなぜ期」が一気に始まります。
3.なぜなぜ期に育まれる大切な5つの力
3歳頃から、心・ことば・社会性が成長してくることで、なぜなぜ期が見られるようになると解説しました。
ここでは、なぜなぜ期に育まれる力を解説します。
以下の5つの力が育つことで、子どもの興味・好奇心がさらに広がります。 これらの力を伸ばすことはまた、使えることばを増やすことへとつながります。
1.ことばを理解する力
2.想像する力
3.考える力
4.記憶する力
5.コミュニケーション力
5つの力は具体的にはどんな力なのか、簡単に紹介しましょう。
3-1.ことばを理解する力
なぜなぜ期では、子どもが「なんで?」と大人に聞いて、質問の答えを聞くことで、理解できることばが増えます。
「くるま」などの名詞だけでなく「走る」「きれい」などの動詞や形容詞などの理解が増えていきます。
また、理解できる言葉が増えるだけでなく、ヒツジは動物、ももは果物などのように、ものの概念の理解も進みます。
それに伴い、「はさみは切るもの」のように、ことばとことばの関係性も理解できるようになります。
ことばをたくさん理解できると、長い文で会話もできるようになっていきます。 3歳頃の子どもが理解しやすい長さの文は2~3語くらいとされています。
3-2.想像する力
ピアジェが唱えた「自分が見ている世界は、自分の立場からしか見えていない」という時期を経てなぜなぜ期に入ると、相手の立場に立って想像する力が少しずつ芽生えてきます。
興味を持って「どうして?」と質問を重ねることで、「今ここにないもの」「見えないもの」も想像できるようになっていきます。
「今ここにないもの」は例えば、見た目では分からない「重い・軽い」の概念や、「見えないもの」は他の人の気持ちなどです。
「何で?」「どうして?」という質問が増えてくるのは、想像力が育ってきている証でもあるのです。
3-3.考える力
好奇心や興味が出ると、今まで知らなかったこと・経験したことがないことについて考える機会が増えます。
なぜなぜ期はことばを使って、自分で考えるという力が身についていきます。
質問をしてことばが増えることのよい点は「お話ができるようになる」という、目に見える成長だけではありません。
人は、「頭の中で考える」時にもことばを使っています。 そのため考える力が育つと、例えば以下のようなこともできるようになります。
・自分の気持ちをコントロールする
(例:ブランコに今すぐ乗りたいけれど、友達が乗っているから怒らずに待つ)
・他の人の気持ちを計る
(例:友達にも分けてあげると相手が喜ぶから、おかしをあげる)
・知っている知識を使って新しい場面でどうすればいいか分かる
(例:キッチンでお手伝いをする時「台を置くとやりやすい」と知り、おばあちゃんの台所でも同じように台を置こうとする)
・過去の経験を活かして、問題を解決する
(例:ミニカーがたくさんあって持ち運べないときは、カゴに入れる。おかしの袋が開かない時は、はさみを使う)
なぜなぜ期で質問を繰り返すことで、新しい知識が身に付き、自分で考える力も一層育っていきます。
3-4.記憶する力
2~3歳頃の、なぜなぜ期が始まる前から少しずつことばを記憶する力がついてきます。
記憶する力がつくと
・長い文でお話や質問をするために、自分が話している内容を覚えながら話す
・「今、起こっていること」だけでなく、前に経験したことと結びつける
などができるようになってきます。
3歳頃からなぜなぜ期に入り質問ができるようになることで、聞いた答えを記憶できる量もさらに増えていきます。
3-5.コミュニケーション力
社会性がそなわりつつある3歳頃の子どもは、友達との遊びの中でルールや順番があることを覚えていきます。
それに伴い、例えば、子ども同士おもちゃで遊んでいる時「なんで貸してくれないの?」など、相手の気持ちを確認するような質問をします。
また、先生や親に「なんで?」と質問をして、やり取りができる満足感も楽しんでいきます。
なぜなぜ期は、友達や大人とかかわりを持つことでコミュニケーション力が育ってきます。
4.なぜなぜ期にことばを発達させる大人のかかわり方
なぜなぜ期は、ことばを発達させるチャンスの時期です。
3歳頃に質問をし始めた子どもが、4~6歳頃になると質問の内容や興味が高度になってきます。
この時期に大人は、子どもが自分から疑問を持ち、好奇心を広げられるようなかかわりを持ちましょう。
なぜなぜ期に、大人が子どもの質問に丁寧に答えることで、ことばの発達を促すことができます。
ここからは、なぜなぜ期にことばを発達させるために、筆者が実際に取り組んできた子どもとのかかわりを紹介します。 なぜなぜ期を、ことばの成長につなげるヒントにしてください。
4-1.親も一緒に調べて知識をつける
なんで、水は下にいくの?
なんで、飛行機は飛ぶの?
なんで、夜は暗いの?
なんで、雲にさわれないの?
など、筆者もすぐに答えられない質問もよくありました。
そんな時は、「なんでだろうね?」と不思議に思う気持ちにまずは共感をして、絵本や図鑑で一緒に確かめることで、ことばや表現を覚えるきっかけにしていました。
筆者は自然が豊かなエリアに住んでいるので、土・葉っぱ・虫・川などの自然から好奇心や興味を広げる経験を多くとりました。
・スコップで畑の土を掘って、水を流す
・色や形が同じ葉っぱを集めて画用紙にのりで貼り付ける
・石を商品に見立ててごっこ遊びをする
・川に流した木の枝がどこまで流れていくか追いかける
など、モノの量・大きさ・重さなどの変化を自然の中にあるもので体験し「なんでかな?」と気づいて「もっとやってみよう」というやりとりを重ねながら、ことばを増やしていきました。
また、質問に理屈や現象で答えると子どもにとっては理解するのが難しいので、親も空想的でかわいい答えを返すことで子どもは満足しているようでした。
4-2.社会性や習慣を身に付けるきっかけにする
なんで、歯を磨くの?
なんで、お箸を使うの?
なんで、スリッパをそろえるの?
なんで、買い物にいくの?
普段の生活や、園での経験で気づいたことや疑問に思ったことを質問することも増えてきます。
ルールや習慣を身に付けるきっかけになるので、一緒に会話を楽しみましょう。
筆者は子どもに、かんたんなお手伝いなどをしてもらいました。
普段の生活や家族の行動について生まれる「なんで?」という子どもの疑問に、筆者は1つ1つ理由をことばで伝えるよう心がけました。
そうすることで、子どもは社会ルールや習慣の存在を知るだけでなく、ことばを理解し話せるようになっていきます。
4-3.コミュニケーションを楽しむ
なぜなぜ期の子どもは「想像力」が豊かです。
なんで、トナカイは空を飛ぶの?
なんで、宇宙人がいるの?
など、哲学的・空想的な質問も多いので、答えに迷うこともあるでしょう。
正しい答えはないので、おもしろく楽しく想像を広げて、コミュニケーションそのものを楽しみましょう。
筆者は、答えにくい質問が来た時は「すごくいい質問!」「よく気が付いたね!」「お母さん、そんなこと考えたこともなかったよ!」と、子どもの発想をとにかくほめていました。
子どもをほめることで、以下のような、ことばの発達におけるよい影響が期待できます。
・また質問をしてみようという気持ちが出てくる
・新しい事を学ぼうとするやる気が出てくる
また、親がほめてくれるという経験を通して、子どもはもっとほめて欲しくなりコミュニケーションが活発になります。
コミュニケーションが増えると、ことばもしぜんと上手に使えるようになります。
なぜなぜ期の子どもとのコミュニケーションを楽しむために、筆者は子どもと一緒にお話を作っていました。
『おててえほん』といって、手のひらを本に見立てて、子どもの好きな恐竜やキャラクターが登場するお話を創造しました。
特別な準備もいらず、親子で手軽に楽しめますよ。筆者が作ったお話で、子どももお話の続きを考え、知らないことばや表現を覚えていく様子が見られました。
5.なぜなぜ期が来ない?心配な時に知っておきたいこと
答えに困る質問ばかりで「大変!」と感じる方がいる一方で、「なぜなぜ期が来ない…」と不安になる保護者の方もいることでしょう。
ここでは、家庭でできるかかわり方 、どんな専門家に相談すればよいかなどについて解説します。
5-1.家庭でできるかかわり方
子どもの成長には個人差があります。
ここまで述べてきたように、なぜなぜ期が見られるかどうかには、ことばの理解や社会性の発達などが関係します。
家庭や園で過ごす中で、子どもは少しずつ成長しています。焦らずに見守るようにしましょう。
なぜなぜ期の子どもと過ごす中で、家庭では、以下の点に留意するとよいでしょう。
●ほめる事を上手に使ったコミュニケーションを心がける
●理解しやすいことばで、はっきりと話をする
●子どもが自分のことばで話せるように、親は“よい聞き手”になる
普段から子どものことばの様子を観察して、少しずつことばが増えることを喜び、ほめてあげることも大切です。
また、普段の子どもの様子は、幼稚園や保育園の先生もよく見てくれています。 園での様子を聞いて、家庭でもことばが増えるようなかかわりをもってあげましょう。
5-2.専門家などに相談する
子どもに合わせたかかわりを家庭でていねいに行っても、なぜなぜ期がなかなか見られないのは心配ですよね。
なぜなぜ期がなかなか出てこない時に見られる様子には
・ことばが増えない
・あまり話をしない
・お友達とのかかわりが少ない
などがあります。 気がかりなことが多い時には、家庭で抱え込みすぎず、子どもの成長に詳しい身近な人や、さらに専門的な知識をもった人に相談することも検討しましょう。
身近な相談先は、以下が挙げられます。
●園の先生
●保健センターの保健師さん
ことばの発達で心配なことを話してみるとよいでしょう。
専門家に相談するかどうかは、
●自治体の3歳児健診の時に保健師さん
●いつも子どもを見てくれている園の先生
に、まずは尋ねてみることをおすすめします。
年齢の平均に比べて、明らかに話すことばが少ない、コミュニケーションが取りにくいなどの様子が見られれば、
●小児科医、児童精神科医
●言語聴覚士
などの専門家に相談をしてみましょう。 診察や問診、詳しい検査などを行い、ことばの発達について相談・支援を受けられます。
6.なぜなぜ期はことばを育てるチャンス
なぜなぜ期は3歳頃から見られ、「なんで?」「どうして?」とたくさん質問をする時期で、 子どもの心・ことば・社会性が発達することで訪れます。
なぜなぜ期を経験することで
・ことばを理解する力
・想像する力
・考える力
・記憶する力
・コミュニケーションする力
などが育ち、これらの力の成長と歩幅を合わせるように、話すことばが増えていきます。
子どもの質問を大人がやさしく受け止め、時には楽しむ姿勢が、子どものことばの成長を後押しします。
この時期だけの、子どもの成長を楽しみましょう。
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