注意されても同じことを繰り返す子どもの心理と親の接し方
この記事を書いた人
横山ミノリ
- 中学校教諭
- 高等学校教諭
- 小学校教諭
- 児童発達支援士
小1と年少の男の子の母。
長男はASD(自閉スペクトラム症)
産後うつと育児ノイローゼになった経験から”ラクに生きる”がモットーに。
子どもには「自分で決めた!」「自分でできた!」という経験をたくさんしてほしいと思っています。
子どもとの好きな遊びは工作。子育てで好きな本は、高濱正伸著の「こどもの可能性を伸ばす「しない」子育て」です。
「注意されても子どもが同じことを繰り返す」「何度も注意してるのに聞かない」そんなお悩みはありませんか?
真剣に伝えても、子どもにまったく伝わっていない様子が見られるとがっかりして疲れてしまいますよね。
実は、子どもが言うことを聞かない背景には、きちんとした理由があります。
この記事では、2〜3歳の子どもの発達に注目しながら、注意されても同じことを繰り返す理由や、子どもに伝わりやすい伝え方のポイントを詳しく解説します。
目次
1.注意されても子どもが同じことを繰り返す2つの理由
人を叩く、テーブルに上る、店内を走り回るなど、子どもにやめてほしい行動はたくさんありますよね。
ここでは、何度注意されても、子どもが同じことを繰り返す理由をお伝えします。子どもの行動の裏に隠された心理がわかると、ママの気持ちも少しラクになるかもしれません。
1-1.子どもの脳は未発達だから
何度注意されても同じ行動を繰り返すのは、子どもの脳がまだ発達の途中だからです。
2〜3歳頃の子どもは、自我が芽生えて、「自分でやりたい!」と主張することが増えます。自分の思い通りにならない事柄に対して、泣き叫んだり、手足をバタバタとさせて暴れたりして癇癪を起こす子もいるでしょう。
癇癪は、感情を制御する「脳の機能(前頭前野)」が未発達なために起こります。
前頭前野とは、言葉の理解・記憶・行動の制御などの働きに関わる脳の部位で、コミュニケーションや社会性とも関係しています。前頭前野は、小学生頃から成長が始まり、10代以降も発達し続けることから、脳の中でも最も遅く成熟する部位と言われています。
そのため、2〜3歳頃の子どもは、注意されたことを理解したり、同じ行動を繰り返さないように記憶したり、行動を制御したりすることが、まだ上手にできません。
いろいろな経験を積んで、学習している最中なので、ママやパパが何度注意しても、同じことを繰り返してしまうのは、仕方がないことなのです。
1-2.ママに注目してもらいたいから
2〜3歳頃の子どもは、ママに注目してもらうのが大好きです。「ママに見てほしい」という欲求を満たすために、「人を叩く」「物を投げる」「食べ物や飲み物をわざとこぼす」などの行動をとる子もいます。
ママが叱ってもまったく聞かず、行動がエスカレートすることもあるでしょう。ママからすれば、「こんなに真剣に伝えてるのに…」と困ってしまいますよね。
しかし子どもは、「人を叩く」「物を投げる」などの行動をとることで、ママが注目してくれたから嬉しい!と感じています。だから何度注意されても同じことを繰り返すのです。
「注目されたい」という気持ちは、人間に備わった自然な欲求です。幼児期はその欲求をママやパパが満たしてあげることで、子どもの自己肯定感が育まれていきます。
子どもが望ましくない行動を繰り返す背景には、「大好きなママに甘えたい」「ママの愛情を確かめたい」という気持ちがあることに目を向けられるようになると、子どもへの接し方も変わってくると思いませんか?
2.子どもの発達に合わせた「伝わりやすい注意のコツ」
続いて、子どもの脳の発達にあわせた、伝わりやすい注意のポイントを解説します。
「感情的にならずに、してほしいことを具体的に、何度も伝える」というポイントを意識してくださいね。
2-1.感情的にならない
子どもを注意するときは、感情的にならないことが大切です。
感情的に注意すると、「ママが怒っている」という事実だけが子どもに伝わります。ママの怖い表情や大きな声などの印象が強く残り、肝心の注意された内容は伝わっていないことが多いでしょう。
感情的に叱ることは、子どもの脳にも悪影響をもたらします。脳科学者で小児精神科医の友田明美さんがハーバード大学と共同で行った研究によれば、暴言虐待を受けてきた被験者970名の脳への影響を調査した結果、聴覚野を構成している領域に傷があることがわかりました。(※1)
聴覚野はコミュニケーションに関わる大事な部位です。幼児期に脳が損傷してしまうと、言葉がうまく出ないなどの影響もあるそうです。
子どもを注意するときは、目を合わせて、落ち着いた声のトーンで話しかけます。
感情的になりそうなときは、深呼吸して気持ちを落ち着かせましょう。「この子の脳は、まだ発達の途中」と心の中で唱えてみると、冷静さを取り戻せるかもしれません。
2-2.してほしいことを具体的に伝える
子どもが外で急に走り出したり、電車の中で騒いだりしたとき、「走らないで!」「静かにして」と言っていませんか。
子どもは言葉を理解したり、想像したりする能力が未熟なので、「走らないで!」「静かにして」などの声がけでは、どうしたらいいのか分からないことがあります。
以下のように言い換えると、子どもにも伝わりやすくなりますよ。
・「走らないで」→「歩こうね」「ママと手をつないで歩こうね」
・「静かにして」→「アリさんの声で話そうね」
「ダメ」「やめて」などの声がけも、漠然としていてうまく伝わりません。子どもに注意するときは、「何をしたらいいのか」を簡単な言葉で、具体的に伝えるように心がけましょう。
2-3.繰り返し伝える
子どもに注意するときは、繰り返し伝えることも大切です。なぜなら2〜3歳の子どもは、一度注意されても、すぐに忘れてしまうことが多いからです。
何度も繰り返し伝えるのは、親も根気がいりますよね。でも「この1回の注意で、行動をやめさせなければ!」と気負うことはありません。
「今はこの子にしてほしいことを伝えるだけでいい。1回で伝わらなくても大丈夫」と考えると少し気持ちがラクになりますよ。
3.自分に注目してほしい子どもへのふさわしい対応
「ママに注目してほしい」という気持ちから困った行動を繰り返す子どもには、どのように対応すればいいのでしょうか。
3-1.問題行動には注目しない
1つ目のポイントは、子どもの問題行動に注目しないことです。
なぜなら、子どもは行動を起こすことでママの注意を引こうとしているからです。ママから注目してもらえないとわかれば、問題行動も少しずつ減っていきます。
子どもが問題行動を始めたら、ママは基本的に「気付いていないふり」をします。危険なことや他人を傷つけることは、すぐにやめさせる必要がありますが、それ以外の行動は、子どもが自分から行動をやめるまで待ちます。
子どもを睨んだり、大声で怒ったりすると、子どもは「ママが見てくれた!」と嬉しくなって、さらに問題行動がエスカレートすることもあります。
子どもの安全を確保したうえで、「反応しない」を貫くことが大切です。
3-2.些細なことでも、適切な行動はすかさず褒める
2つ目のポイントは、子どもが適切な行動を取れたときは、きちんと言葉にして褒めることです。
「お店や電車の中で静かに待つことができた」「手を繋いで歩くことができた」など、子どもが望ましい行動を取れたときは、肯定的な言葉をかけましょう。
大人からすれば「できて当たり前のこと」は、つい褒めるのを忘れがちですが、些細なことでも、なるべくその場で褒めてあげます。
子どもを褒めるポイントを見つけるのが難しければ、子どもの良い行動をそのまま言葉にするだけで十分です。「静かにできたね!」「手を繋いで歩けたね!」など、子どもの様子を実況中継してみましょう。
肯定的な声がけは、子どもの自己肯定感を高めます。「ママはちゃんとみているよ!」というメッセージが子どもにも伝わるので、ママの注目を得るための問題行動を減らすことにもつながります。
4.同じことを繰り返す子どもにイライラが止まらないときは?
何度注意されても同じことを繰り返す子どもにイライラしてしまうこともあるでしょう。ここでは、毎日がんばっているママに向けて、気持ちを整えるヒントをお伝えいたします。
4-1.イライラに隠された「本当の気持ち」を知る
何度も同じことを繰り返す子どもにイライラが止まらない。そんなママの怒りの裏には、どんな気持ちが隠れているのでしょうか。
「子どもがこのまま大きくなったらどうしよう」「自分のやり方は間違っているのかな」「ちゃんとしつけできない親だと思われたらどうしよう」など、不安や悲しみ、自分を責める気持ちを持っている方もいるかもしれません。
このように感じるママには、責任感が強くて真面目な方が多いです。自分の気持ちに気づくだけでラクになりませんか?
4-2.「自分のできているところ」に目を向ける
この記事で紹介したことが上手にできなくても、自分を責めないでくださいね。ここまで読んでくださっている時点で、子どものことを大切に思っている素敵なママなのです。
「感情的にならない」「子どもの問題行動に反応しない」などの項目は、毎日完璧に実行しようとしなくて大丈夫です。まずは自分に余裕があるときから始めてみましょう。
そして、毎日少しでも自分のための時間をつくって、いつも頑張っている自分を褒めてあげましょう。子どもの良い行動に注目するように、自分のできているところを目を向けることも大切です。
5.注意されても同じことを繰り返すのは成長過程の1つ
注意されても子どもが同じことを繰り返すのは、誰しもが通る成長過程のひとつです。話を聞かない子どもに対して繰り返し伝えるのは、根気が入ることですよね。
ですが、長い人生の中で子育ての大変な時期はほんの一瞬です。「いつかできるようになる」と子どもの成長を信じて、気長に見守りましょう。
この記事が、悩んでいるママのお役に立てますように。そして、今より少しでもラクな気持ちで子育てしていただけたら嬉しいです。
参考文献
※1:友田明美 ,公開講演会『児童虐待による脳への傷と回復へのアプローチ』,特定非営利活動法人和歌山子どもの虐待防止協会
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