小学生「漢字が覚えられない、すぐ忘れる」ADHD・LDの特性に合わせた学習のコツ
この記事を書いた人
中川さくら
- 保育士
- 児童指導員
学生時代に障害児福祉を学び、小学校の特別支援教育支援員や療育施設の保育士、学童保育、小学校などで、子どもたちやそのご家族と関わる仕事を約10年ほど経験しました。
今は、保育園に通う1歳の息子がいます。
昔バックパッカーだったので、いつか家族で世界を旅することが夢です。
小学生になると増える学習に関するお悩み。
・字が綺麗に書けない…
・せっかちで計算ミスが多い…
などお子さんによってお悩みは様々ですよね。
CONOBASにも、小学校2年生の男の子のママから、「漢字を覚えられない。覚えてもすぐに忘れてしまう。」というお悩みをお寄せいただきました。
漢字を覚えられない、すぐ忘れる…
もともと忘れっぽいところがあり、ADHDの不注意優勢型の診断がついています。今、漢字が覚えられず困っています。
春休みに一年生に行った漢字テストで間違えた部分を反復していますが、覚えては忘れるを繰り返している状態です。
良くないと分かっていても、何度やってもできない息子に怒ってしまい、怒られた息子もイライラしているのがわかります。
読み方を声に出しながら書かせてみたり、例えば『男』という漢字だったら、男は田んぼで力仕事だね!など、覚えやすいような言い回しを考えたりもしていますが、なかなか上手くいきません。
何かいい方法はないでしょうか。
たくさん書いて覚える方法が定番の漢字学習ですが、その方法では覚えられず、ただの苦しい作業になってしまう子もいます。
お子さん自身も学校での授業や宿題に辛い思いをしているでしょうし、それが続けば自信を無くしてしまいかねません。
小学校1〜2年生で覚える漢字は、その後に習う複雑な漢字の基礎になります。それだけではなく、算数の問題文をはじめ他の科目で教科書を読むときなど、さまざまな教科で活用するため日常生活で必要不可欠な存在ですよね。
今回は、小学校低学年のお子さんの得意・不得意など特性に合わせた、「漢字を覚えやすくするコツ」を学習方法や学習環境の作り方などに分けてご紹介します。
ADHDやLDの特性を持つお子さんだけでなく、漢字が苦手なさまざまなお子さんにとっても参考になれば嬉しいです。
目次
1.漢字を覚えるのが苦手な要因
他の課題では大きな遅れは無いのにも関わらず、漢字の学習が著しく苦手な場合、どのような要因が考えられるのでしょうか。
ここでは4つの要因を挙げて、それぞれの特徴を解説します。
1-1.ワーキングメモリが弱い
ワーキングメモリとは、入ってきた情報の中から、何を覚えて何を削除するかなどを整理する力のことを言います。
料理や買い物、仕事など、無意識のうちに私たちは、日常的にワーキングメモリを使って生活しています。
ADHDで不注意と衝動性の特性を持つ子の多くは、このワーキングメモリがうまく機能していないことが指摘されています。
情報の記憶や整理が苦手なために忘れ物が多かったり、1つのことをしているとやるべきことがわからなくなってしまったりするなど、ADHDの子が抱える困りごとは、ワーキングメモリの弱さと関連している可能性があるのです。
漢字学習の困難さも、ワーキングメモリの弱さが少なからず関係しているでしょう。
例えば、漢字はいくつかのパーツが集まって成り立っていますよね。ワーキングメモリに弱さがあると、それぞれのパーツを正しく暗記することや、お手本を見た後に書き写すまで暗記しておくことが難しいでしょう。
そのため、線の本数を間違えてしまったり点が付くのか忘れてしまったり、ケアレスミスが多くなってしまいやすい傾向にあります。つまりADHDの子は普段の授業や宿題の中で困難を感じているかもしれません。
ワーキングメモリの弱さは、決して本人が怠けているから起こるわけではありません。周囲の正しい理解と、一人ひとりに合った学習方法が必要です。
1-2.学習障害(LD)がある
知能の遅れはないけれど、ある特定の課題に著しい遅れや困難がある場合は、学習障害(LD)の可能性があります。
「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」の能力の一部(もしくは複数)に困難が生じる学習障害の中でも「字を書くことに困難がある」ことを「ディスグラフィア(書字表出障害)」と言います。これには文字の形が認識しづらいという特徴があります。
幼児期は、バランスの取れていないひらがなを書いたり、鏡文字になっていたり、正しく書けていなくても不自然ではないため、小学校で漢字学習が始まった時に大きな壁となって、LDが明らかになるケースが多くあります。
どうしても漢字が覚えられない、へんとつくりが逆転してしまうなど本人は困難を抱えていますが、知能の遅れがないために理解されにくい難しさがあります。
学習障害はADHD同様に、脳の機能障害が原因であり、しつけなど家庭環境によってなるものではありませんし、本人の努力不足で起こることでもありません。
周囲の理解や環境配慮、個人に合った学習方法を取り入れて、困りごとを軽減していくことが必要です。
特に学習障害は医療機関等で受診や検査ができるため、不安な場合は専門家に相談してみるのも良いでしょう。
1-3.空間認知が苦手
お子さんの書いた漢字はどのような特徴がありますか?
もし、著しくバランスが悪い漢字を書いている場合は、空間認知に弱さがある可能性があります。空間認知とは、物の形や大きさ、位置関係などを正しく捉える力のことを言います。
普段意識していない人がほとんどですが、目から入ってきた情報を処理して全体のイメージを掴み、マスや行の中にどれくらいの大きさで、どれくらいの線の長さで書いたら良いか、など自然に行いながら文字を書いています。
空間認知が苦手だと、漢字のパーツの大きさや位置関係を捉えにくい、線の長さや余白のバランスが取りづらい、マスの空間の中にうまく書けないなど、書字に影響が出やすいのです。
マスの中に文字を収めることや、線の一本ずつを見本を見ながら書くことなどにとても労力を必要とします。つまり、一般的な「繰り返し何回も書いて覚える」という学習方法は、空間認知の弱いお子さんにとっては苦行になってしまいます。
1-4.視覚過敏がある
感覚過敏のあるお子さんの中で視覚過敏がある場合、漢字の学習に影響が出ている可能性があります。
視覚過敏があると、白いノートが鏡のように反射して眩しく見えたり、鉛筆の黒とノートの白のコントラストがチカチカしたり、窓側の席だと日差しが眩しすぎるなど、一般的には気にならない視覚的な刺激でも、過度に不快に感じてしまうことがあります。
漢字ドリルや国語のテキストが、カラフルすぎて見ていられないというケースもあります。漢字そのものに苦手さがあるわけではなく、視覚過敏の影響で集中して学習に取り組めない結果、学習困難が起きてしまうのです。
この場合は、過敏さを軽減する環境配慮によって、漢字の学習がスムーズにできる可能性があるので、お子さんの困りごとがどこにあるのか把握することが大切です。
以上の特徴を踏まえて、漢字を覚えやすくするコツを「勉強方法・声掛け編」と「環境・道具編」に分けてご紹介します。それぞれのお子さんの悩みに合わせて、取り入れてみてください。
2.漢字を覚えやすくするコツ/勉強方法・声掛け編
2-1.漢字の成り立ちを絵からイメージする
「聞いて覚える」よりも「見て覚える」方が得意な子には、漢字の成り立ちをイラストにしたり、擬人化してキャラクターにしたり、イメージと結びつけることで覚えやすくなる場合があります。
たとえば「休」という漢字は、「人が木に寄りかかって休んでいる様子」が漢字になっていることや、「門」という漢字は扉の形からできていて、その中に「耳」を付けると「聞」、「日」が入ると「間」といったように、一緒に覚えられる漢字も出てきます。
漢字を「難しい複雑な形」ではなく、意味があって成り立っていると知ることができたら、「この漢字はどうやってできたんだろう?」と知的好奇心を掻き立ててくれるかもしれません。
こちらの絵本では、イラストの上に「まほうのシート」を置くと、絵が漢字に変身するというものです。成り立ちを理解できる上に、絵から漢字をイメージする練習になります。
こちらの本の中では「ぎょうにんべん」を「ノイちゃん」というキャラクターにしたり、くすっと笑ってしまうような語呂合わせやダジャレで覚え方を紹介していたりしています。
次の漢字を覚えることが楽しみになりそうですね。
2-2.書き方を声に出して覚える
形を捉えることが苦手な子や、「見て覚える」より「聞いて覚える」方が得意な子には、書き方を声に出して覚える方法が効果的な場合があります。
ワーキングメモリに弱さがある場合も、文字を書いている間に記憶が保持されず正しく書けないことがあるので、書き方を言語化してワーキングメモリの呼び出しを促す効果もあります。
ある研究では、読み書きが苦手なAくん(小学校1年生)に対して支援の1つとして、書き方を言語化する方法を取り入れたところ、漢字を書く力に大きな改善が見られました。
Aくんは発達検査により、「形を捉える力(空間認知)」に弱さがあり、「言語能力・理解力」に強みがあることがわかっていました。
そのため、声に出して「花は、横棒、ソ、カタカナのイヒ」というように言語化する方法と、漢字の成り立ちをイラストで理解する方法を合わせることにより、1年間の支援で大きな成果が見られました。
さらに、学習した漢字以外にも、Aくん自ら書き方を言語化して学習するほど、本人の学習意欲に繋がったのです。
こちらの動画を見てみてください。
多くの大人が読めるけど書けない「鬱」という漢字も、書き方を言語化して何度か唱えると、たくさん書かなくても覚えられる気がしませんか?
「唱えて覚える」という学習方法を電子書籍化した教材や本もあります。
1)唱えて覚える電子書籍「ミチムラ式漢字eブック」
2)となえて おぼえる 漢字の本 小学1年生 改訂4版 (下村式シリーズ)
お子さんの特性に合わせて、まずはひとつチャレンジしてみてもいいですね。
2-3.タブレットで黒板を撮ってノートへ書き写す
ワーキングメモリが弱いお子さんや視覚過敏のお子さんにおすすめな方法です。タブレット端末などで黒板を撮影できないか、学校の先生と相談してみましょう。
黒板からノートに写すよりも、撮影したタブレットをノートの隣に置いて書き写す方が、子どもにとってハードルが低くなりますし、複雑な漢字を拡大することや家に持ち帰って復習することもできます。
視覚過敏の子はタブレットの画面を少し暗くして、自分が見やすいように調節することも可能です。
学校や他のお子さんからの理解も必要になるかもしれませんが、目が悪い子は眼鏡をして黒板を見るように、ADHDやLDの子が補助教材を使って学習することも、当たり前に叶う環境になると良いですね。
2-4.親子の関わりで、学んだ漢字を定着させる
漢字を学習したら、次は定着させることがとても重要です。家の中にある物や、買い物へ行った先で、学んだ漢字をゲーム感覚でお子さんと一緒に探してみましょう。
書き方の歌を思い出して、空で書いてみるのも良いですし、思い出す作業は漢字を定着させる良い方法です。
日常の中でわかる漢字が増え、ママやパパと一緒に看板やメニューなどが読めた時には、お子さんは「勉強して良かった!」と実感できるでしょう。
ADHDのお子さんは特に、興味が持てないことに取り組むのは簡単なことではありません。
たとえ書き間違えてしまっても「マスの中に書けたこと」や「漢字の一部のパーツは正しく書けたこと」など、できたことを見つけてあげてください。
学習意欲を上げることが、漢字を覚える近道になるでしょう。
このように、漢字の覚え方は「何度も書く」以外にも方法はあります。
一人ひとりの特性に合わせた学習方法を見つけると、たとえすぐに効果が上がらなくても、今後の漢字学習の道が開けてくるでしょう。
3.漢字を覚えやすくするコツ/環境・道具編
3-1.苦手さを軽減できるノートを選ぶ
書字に対して困難を抱える子向けに、いろいろなノートが開発されています。
ADHDやLD、視覚過敏など診断名に関わらず、漢字学習が苦手なお子さんにとって、困り感を軽減できる手立てになるかもしれません。
1)「真っ白なノートだと眩しく感じてしまう」という視覚過敏のある子には、色付きのノート
・キャンパスノート(用途別)(カラーペーパー)5mm方眼10mm実線
※緑、黄色、紫あり
2)一般的な学習帳のマスの中にある薄い十字が気になって書きにくい場合は、十字を無くしたノート
3)空間認知の苦手な子が書字のバランスをとりやすいように開発された「カラーマスノート」
・1・2年生セット)カラーマスノート4冊組
また、学年や個々の特性に合わせて学習できるプリントもありますよ。
学校の教科書に沿って設計されているのもポイントですね。
3-2.注意散漫になりにくい学習環境を作る
ADHDの不注意優勢型の子やその傾向がある子は、注意を持続することが困難なため、雑音や目に入る情報が多いと注意が散漫になりやすいです。
- 必要な課題や道具以外気が散るものを置かない
- 仕切りなどで気が散る物を隠す
- 雑音の少ない静かな環境を作る
- 学校の教室なら窓の外や掲示物が視界に入りにくい席に配慮してもらう
上記のように、本人が取り組みやすい環境を作ると良いでしょう。
刺激が多い環境で無理をして学習しようとすると、ワーキングメモリをその刺激に消費してしまったり、時間ばかりかかってさらに集中力が途切れてしまったりと、良い学習効果を生まないので配慮が必要です。
4. 漢字学習をさらに苦手にするNG対応
4-1.みんなと同じ学習方法を強制する
学校の漢字学習の定番は「繰り返し書くことで覚える反復練習」ですが、先述したように、学習方法は1つではありません。
1画ずつ書くこと自体に大きな労力を必要とする子にとっては、「書く」だけで精一杯になってしまい、「覚える」ことが難しいです。そのような子たちにとって、繰り返し何度も書く作業は、漢字嫌いになる要因となってしまいかねません。
ADHDやLDなど診断名の有無に関わらず、一般的な学習方法では漢字を覚えにくいという場合は、今回ご紹介したさまざまな学習方法を、困りごとに合わせて実践してみてください。
4-2.漢字の細部にこだわりすぎる
学校の漢字学習では、細部まで正しく書けていることが採点の対象になる場合が多いでしょう。
しかし、形を覚えること、そして思い出して書くことで精一杯な子たちもいます。
書き順や、トメ・ハネ・ハライなど細部まで正しく書くことよりも、「書いて相手に伝えられること」の方が大切なことであり、文字を書く本来の目的です。
漢字を正しく美しく書くことも大切ではありますが、まずは、「おおまかに書けたらOK」くらいのイメージで、自信をつけることや、苦手意識を持たせないようにすることを優先しましょう。
「◯◯くんの書いた文字、ちゃんと伝わったよ。次は、ここをハネて書けると、もっとかっこいい文字になるよ!」など、細かい部分は次のステップにすると良いでしょう。
5.好奇心を刺激して、学ぶことを楽しもう
ADHDやLDの子にとって漢字学習が苦手な要因や、それぞれの特性を踏まえた学習方法をご紹介しました。
知らないことを知るのは、大人にとっても子どもにとっても、本来ワクワクする楽しいことですよね。子どもは特に、大人以上に好奇心旺盛です。
漢字のできた意味を知ったり、自分で頭を使って語呂合わせやダジャレを考えたりして、その結果、ママやパパが読んでいるちょっと難しそうな物が読めた瞬間は、少し大人になったような嬉しい気持ちになるでしょう。
そんな「もっと知りたい!」という知的好奇心が何よりのモチベーションになるので、漢字の基礎を学ぶ低学年の時期にこそ、意欲を育てるサポートができたら良いですね。
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主な参考文献
・国立精神・神経医療研究センター ”ADHDタイプ”の方の対処策①
・ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
・岩田みちる 草薙静江 橋本竜作 柳生一自 室橋春光(2015)読み書き困難児に対する指導の一例 子ども発達臨床研究, 7, 49-55
・【年長】ひらがながスラスラ読めない原因と読むのが苦手な子への練習法
・【小学1年生】字が汚いのは直すべき?元小学校教員が原因と解決法を解説!
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