親の真似をするのはなぜ?「まねっこ」から子どもの問題行動を減らそう!
この記事を書いた人
はる
- 言語聴覚士
言語聴覚士として5年救急病院で働き、長女の妊娠を機に退職。
その後、3年児童発達支援施設で子どもと触れ合いながら言葉の力を伸ばすお手伝いをさせて頂いております。現在次女を出産し、育休中です。
仕事では「楽しみながら言葉の力を伸ばす」ということを大切にしており、「リハビリ!」と力を入れすぎず、子どもたちの沢山の笑顔を引き出しながら言葉の支援を行っております。
家庭では、子どもたちに「全身を使って沢山の経験を吸収してほしい」と考えて育児をしています。
子どもと過ごしているときに、親の行動を真似ている、口調が似てきた、そんな風に感じることはありませんか?
大人の真似をする子どもに可愛いなと思う反面、真似されるとなんだかイラっとする……なんてこともあるかもしれませんね。
今回は、子どもが親の真似をする心理と、親の真似を活かした子育て術、NGな関わり方などについてご紹介します。
皆さんがお子さんと関わるときの参考になればうれしいです!
目次
1.子どもが親を真似する心理│真似しないで!と思う前に知っておこう
6.コラム2:「親の行動」で愛着形成:幼児のまねっこ期に親が意識するポイント
1.子どもが親を真似する心理│真似しないで!と思う前に知っておこう
育児をしていると、子どもが自分の行動や言葉を真似しているなぁと感じることがあると思います。
似ている言動が多くなってくると、良くも悪くも「なぜ真似するのだろう?」と、悩ましく感じたりしますよね。
私自身子どもと関わっていて、「怒っているときの自分の口調にそっくり!」、「この行動自分がしていたものだ」と感じることが多くあり、どうしてかな? 大丈夫かな? と思ったことがあります。
親の真似をする子どもの心理には、大きく分けて2つの要因が考えられます。
1.成長・学びのため:
人は他人を真似することで、社会性を身に着け、知識や技術を習得します。
子どもにとって、親の行動や言葉を模倣することは、自分自身の成長にとって重要な学びの手段となります。
2.親への愛着(敬意や好意を育む過程):
「ママやパパが大好き」といった親への愛着から、子どもは親の行動を真似始めます。
また、愛着による真似は後に、親への感謝や尊敬の気持ちを育みます。
例えば、子どもが親の真似をして「えらいね」と頭をなでたり、お料理ごっこをするのは、親の与えてくれた愛情や行動の意味を理解しようとする姿勢だと考えられます。
「真似をしないで自分で考えてほしい」
「ちゃんと意味がわかっているのかな?」
と心配することもあるかもしれませんが、子どもが真似をすることはとても自然で大切なことです。
子どもは初め、大人の言い方や行動をそのまま真似るだけです。しかし、そこから次第にその言葉や行動の意味を理解したり、意味を確認するようになります。
友達や兄弟姉妹の真似をする心理にも同じように、親しみが込められています。詳しくはこちらの記事もチェックしてみてください。
【3歳】友達や兄弟姉妹の真似をするのはなぜ?子どもの心理や対応のヒントを紹介!
2.コラム1:真似ってなんだろう│模倣の発達
真似(模倣)行動は、生まれてすぐに始まります。それは、どうしてでしょう?
乳児期においては、子どもは母親の行動を鏡のように反映することで、親子間の絆(愛着)を築いていきます。
これはミラーリングと呼ばれ、子どもの感情を母親が共感的に映し出すことで、子ども自身が自分の感情をより深く理解し始める重要な過程です。
子どもは母親の表情や声のトーンを真似ることで、自らの感情をコントロールする方法を学び、母親との関係をより一層深めていきます。
人を真似るのは2通りの方法があります。
〇 エミュレーション学習
他者の行動をそのまま真似することを指します。
「ああすればこうする」という事実のみしか理解していませんが、人の動きを真似しようとすること自体が成長の一つです。
例)大人がピアノを弾いているのをみて、鍵盤を叩く。
〇 模倣学習
相手の行動の意図を考え、その意図を取り入れて行動することです。
道具や装置の使い方だけでなく、その背景にある「作った人の意図」までを理解することができます。
例)大人がピアノを弾いているのをみて、似たような音を探しながら鍵盤を押す。
また、子どもの真似(模倣)の発達には以下のような流れがあります。
1.赤ちゃんは生まれた直後から、生後数か月まで他人の行動を見て真似をします。(エミュレーション学習)
この「真似」を通じて、自分と他人の違いがわかるようになり、他人の行動の意図を理解しようとします。
2.14か月ごろになると、他人の行動の意図を感じ取る能力が発達し、行動の理由や目的を考えて真似をするようになります(模倣学習)。
時には、大人や友達の言葉がわからなくても、その行動の意図を読み取って真似をします。
子どもは、目的や理由が完全に理解できなくても、真似を通じて道具や行動の意味を学ぼうとしています。「真似る」ことは、「学ぶこと」ともいわれますが、まさにその通りです。
子どもが社会に適応しようと努力していることを理解し、うまく真似られるようサポートすることで、さらに意欲を引き出してあげるとよいですね。
3.子どもが親を真似する過程!モデリング理論(社会的学習)
「モデリング理論」とは、他者の「行動の結果」をお手本として、自分の「行動に変化」を起こす観察学習のことをいいます。
例えば、「Aちゃんがゴミ拾いをして褒められた」ことをお手本にして、「自分もやってみよう!」と、実際にゴミ拾いを始めたり、ゴミ拾いはいいことだと考え方を変化させるようなことです。
モデリング行動には、注意・保持・再生・動機づけの4つの過程があります。
① 注意過程:他人の特徴を選択し、注意を向ける
例)注意:パパが帰ってきて、ママが玄関へ行った。パパに「おかえりなさい」と言った
② 保持過程:他人の行動の内容を記憶する
頭の中で対象となる人の特徴や言葉を頭の中で繰り返して記憶として保持することです。
例)記憶の保持:いつもママは、パパが帰ってくると玄関に行って「おかえりなさい」と言う
③ 運動再生過程:実際に行動を真似ること
例)再生:私もパパが帰ってきたので、玄関へ行って「おかえり」と言った
④ 動機付け過程:学習した行動を続けることで何が得られるか(褒められる、相手が笑い楽しい時間を過ごせるなど)動機付けを学ぶ過程
例)動機づけ:パパは、「家に帰ると、二人が出迎えてくれてうれしい」とよろこんだ。そのため、私はママと玄関で、「おかえりなさい」と言うことにした
例えば、一度だけやたまに行うような行為は記憶に残りにくく、モデリングは成立しないことが多いです。
また、注意の向け方により真似する行動も変化します。
例えば、「パパが皿を洗わずに怒られていた」という場合、怒られていたパパに注目するのではなく、「ママが怒った」ということに注目した場合は、皿が洗われていなかったら、パパを怒るというママの真似につながります。
4.親を見て子は育つ!親の行動が与える子どもへの影響
子どもは親との関係から、4つの点において影響を受けるとされています。
<親が影響を与える4つの点>
・1.性格形成
・2.自己表現の力
・3.コミュニケーションスキル
・4.柔軟な思考力
親が常に愛情をもって、子どもが安心できる環境を提供することで、この4点の力を伸ばしてあげることができます。
親の行動が4つの点にどのように影響するのか、モデリングを子育てにどのように活かせるのかについて具体的に見ていきましょう。
4-1.親との関わりから育まれる「性格形成」
日々のコミュニケーションから、子どもの性格基盤が形成されていきます。
もちろん、生まれ持った気質の影響もありますが、日常で耳にする言葉や目にする態度を通じて、物事の考え方や他人との関わり方などの基本を学びます。
例えば、親が一貫した態度で、ダメなこと良いことなどルールを伝えることで、子どもはルールを大切にすることを学びます。
それが後に、協調的、誠実な性格といった特性につながっていきます。
また、できないこと、失敗したときなどに、「次はできるかな?」「難しいね。どこができないのかな」など、前向きな受け答えをすることで、粘り強さや挑戦する意欲をもった人格を育むことができます。
4-2.親の寛容さが子どもの「自己表現力」を高める
子どもの個性を理解した関わり方は、子どもが自己表現力を学ぶ機会につながります。
いつも機嫌が良い子、よく泣く子、怒る子、活発な子、エンジンがかかりにくい子など……。子どもの個性は十人十色です。
「ギャーギャー騒いでばかり」「うちの子は、いつも静かで心配」など、その子の個性が親の悩みになることもしばしばです。
そのような個性を変えようとしたり、封じ込めようとするのではなく、ありのままに受け入れて対応する姿勢を子どもに示しましょう。
必要なのは、子どもの個性にあわせた適切なエネルギーの出し方を学んでもらうことです。
「親が分かってくれている」という安心感は、子どもの「自分は自分のまま頑張る」といった意欲につながります。それが、自分の思考や感情を他者に伝える「自己表現力」を高めていくことにつながっていきます。
4-3.親の「聞き上手」が子どもの「コミュニケーションスキル」を育む
「どんなふうに思ったの?」「それが好きなんだね」など、子ども主体の問いかけをしながら子どもの話を傾聴することで、子どもは自分の感情をコントロールし、適切に表現する方法を学びます。
例えば、子どもが絵を描いたときに、「これは、うさぎかな?かわいいね」「色の使い方がきれいだね」など、ポジティブな言葉をかけていると、友達が絵を描いているときも同じようにポジティブなコミュニケーションが自然とできるようになります。
また、子どもが怒っているときに、「何が嫌だったの?」と優しく聞いてあげることで、子どもは自分の感情を整理し、言葉で表現する方法を学びます。
親の「聞く」姿勢は、子どものコミュニケーションの仕方や、友達との関係構築、感情の表現に結びついてきます。
4-4.「柔軟な思考力」を育む親の姿勢
親がパズルや工作に挑戦したり、運動を始めたりと、実際に物事に取り組む姿を見せることで、その姿勢が子どもへのお手本になります。
例えば、ブロックのお城を組み立てている途中で分からなくなってしまった時、
「じゃあ、このやり方はどうかな?」と試行錯誤しながら粘り強く取り組む姿を見せることで、子どもは「説明書に書かれていなくても、こういう方法もあるんだ」「ここを見ればいいんだ」と、様々な視点を学ぶことができます。
物事に対する多様な視点を知ることで、子どもの柔軟な思考力が育ちます。
牛乳パックで椅子を作ったり、絵本の読み聞かせでお話を広げたりするなど、大人だからこそできるちょっとした知恵や工夫で、子どもの思考力を伸ばしてあげると良いですね。
5.子どもの困った行動は「まねっこ学び」で改善しよう!
「言ってもなかなか聞いてくれない…」そんなときは、親がお手本を見せる関わり方をしてみましょう。
ポイントは、してほしい行動を言葉だけで説明するのではなく、実際にやってみせることです。
まず、「①状況を言葉で共有し」、「②自分の行動を示しながら具体的な手本を見せる」の順で行うと効果的です。
5-1.「かんしゃくを起こしてものを投げる」行動に変化をもたらす
▶ 感情をコントロールしている姿を見せる
子どもに「怒りの感情を抑えること」を言葉で伝え、どう対処するかを見せます。
例:「上手くできないなぁ。ひとまずお茶をのんで考えよう。」
▶ 怒り行動の代替え案を考えてやってみる
怒りを別の方法で解消する手段を示します。
例:「イライラしたときは、タオルをぶんぶん回してみよう。」
5-2「片づけをしない」行動に変化をもたらす
▶ 片付けを習慣にとりこむ
片付けが日常の一部であることを伝えます。
例:「ボールペンを使い終わりました。ありがとう。ここに戻しまーす」
▶ 楽しそうに片付けする姿を見せる
片付けが楽しいものであることを見せます。
例:テーブルを片しながら、うれしそうに「綺麗になるとうれしいなぁ。これはここに片そう」
5-3.「話を聞かない」行動に変化をもたらす
▶ 親が子どもの話を聞く姿勢を整える
子どもが話し始めたとき、真剣に耳を傾けます。
例:顔を子どもの方へ向けて、子どもの様子を見ながら相槌を挟む
何かしている場合、手を止めて「ちょっと待ってね。お話ししてくれるんだね。(子どもの方へ向き直り)ありがとう。お話し聞かせて」
手が離せない場合「いま大慌てしてます。洗濯物が干せるまで待っててね。ママ、お話ししてくれるの楽しみにしてます」
▶ 話す人に集中した態度をとる
話が終わるまで遮らず、最後まで聞いてから質問します。
例:「お話してくれてありがとう。そうなんだね。それから、みきはももちゃんと遊んだの?」
子どもの問題行動は思わず否定してしまうことが多いですが、否定をするほど子どもは同じ行動を繰り返してしまうものです。
また、否定を続けると子どもの機嫌が悪くなってしまったり、親もイライラしたりと場の雰囲気も悪くなります。
そのため、お手本を真似するという行為を促すように関わり、上手にできたらほめるというやりとりを取り入れるとよいでしょう。
6.コラム2:「親の行動」で愛着形成:幼児のまねっこ期に親が意識するポイント
子どもは常に親を見ています。親の子どもへの関わりを通して、子どもは親と同化しながら自分を高めていきます。
逆に親と分かり合えない状態が多いと、子どもは自分に対する不安を抱きがちになります。
ここでは日常の関わりから、子どもとの絆(愛着)を育む大切な2つのポイントについてお話しします。
・叱ったあとに「大好き」と愛情を伝える場をつくる
子どもと過ごしていると、時には感情的になって大きな声で叱ってしまうこともあります。私も3歳の長女と過ごしている中で、ついつい注意が強くなってしまうことがあります。
叱られ続けると子どもは、「自分はいらない子なのかもしれない」「愛されていない」と愛情不足を感じてしまうことがあります。
そのため、叱った後でも「大好き」と愛情を伝え、抱きしめる時間を作りましょう。
日々の生活の中で、イライラしてしまうこともありますが、「いつでも味方だよ」「宝物だよ」という姿勢を忘れずに、安心感を伸ばしてあげられるとよいですね。
・子どもが挑戦しようとすることは応援しサポートする
子どもが新しいことに挑戦しようとすることは成長の一歩です。
思わず「あなたにはまだ早い」と止めたり、失敗すると「ほら言ったでしょ、できないって」などと否定的な言葉を伝えてしまうことがあります。
明らかに危険なものは止めますが、時間に余裕があるときや向き合えるときはその挑戦を見守ってみましょう。
もしも手助けが必要なときは、その挑戦が成功するようにサポートすることで成功体験も経験できます。
親が自分を応援してくれるという経験も、その挑戦がうまくいった経験も、子どもの成長には欠かせない経験です。
しかし、親にも時間や状況などどうしても応援できないこともあると思うので、無理のない程度に応援しサポートする時間を作ってあげてください。
7.これだけは注意したい!親の真似がデメリットになるNG場面
親の悪い習慣を真似すると、子どもの発達に影響を与えることがあります。
ここでは、代表的な親のNG習慣が与える子どもへの影響をご紹介します。
7-1.夜更かし
親が夜遅くまで子どもの前でゲームなどをして過ごしていると、子どもも「自分もやりたい」「一緒に起きていようかな」と親の様子をみて真似し、一緒になって起きていようとすることがあります。
このような日が続くと、子どもの体は夜更かしをするサイクルができてしまいます。
子どもの発達には睡眠時間よりも「何時に寝るか」が重要になると言われています。
成長ホルモンの分泌は眠ってから2~3時間後に最も分泌されるといわれています。特に午後10時から午前2時が最も分泌されやすい時間帯とされています。そのため、午後8時前後に寝るのが効果的です。
寝ようとするときに父親が帰ってきて寝るタイミングを逃して遊んでしまうなどの例もよく耳にします。
親子の触れ合いはとても大切ですが、「いまから子どもは成長の時間!」と割り切って、睡眠時間を確保してあげられると良いですね。
7-2.食生活
親がファストフードやインスタントを食べていると、子どもも「自分も食べたい」と同じものを要求することがありますよね。
このような日が続き、高カロリー・高塩分な食事を多くとらせてしまうと、小児肥満の原因になるといわれています。
これは、高血圧・糖尿病・心肺機能の低下などの合併症を引き起こす原因です。
全てを避けることは難しいですが、適度に手作りの食事やお菓子を取り入れ、ファストフードの翌日は野菜中心の食事に変えるなどの工夫を行うことが大切です。
7-3.マナー
電車の中で電話をしたり、スーパーで子どもが商品を破損しても見て見ぬふりをするなど、親がマナーを無視した行動をとると、子どもはそれを見て「やってもいい行動なんだ」と誤って学んでしまうことがあります。
どうしても電車の中で電話しなければいけないときには、「本当はダメだけど、パパに急いで連絡しなきゃいけないから、少しだけ電話するね」などと、子どもに声をかけることも大切です。
子どもが社会に出た時に困らないよう、ルールや使い方、公共の場での望ましい行動を示していく必要があります。
8.親を真似する行動を活かして成長を育もう!
今回は子どもが親の行動を真似る行為「モデリング理論」から、子どもへの関わり方や、親の真似を活かした子育てについてご紹介しました。
私自身も3歳と0歳の子どもがおり、関わっている中で否定の言葉を多く使っているなと記事を書きながら反省する部分が多かったです。
親子間のコミュニケーションを積極的にとり、正しい行動を真似ることを促して子どもが安心して成長できる場を作っていきたいと思いました。
皆さんも、取り入れられる関わり方があれば、それを取り入れて子どもに愛情をたっぷり伝えて楽しい子育て時間を過ごしてください。
主な参考文献
・佐伯 胖,模倣の発達とその意味,保育学研究46巻2号,2008
・石川 丹,真似は学びの源,楡の会発達研究センター報告、その16,2008
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