【心理カウンセラーが解説】子どもの「自己表現」を引き出すには?
この記事を書いた人
狩野淳
- 公認心理師
- 臨床心理士
大学、大学院にて発達心理学と臨床心理学を専攻していました。
臨床心理士と公認心理師の資格を保有しております。
子ども達とその保護者の方の支援を仕事にしており、子ども達へは主に応用行動分析を認知行動療法用いて、保護者の方にはブリーフセラピーを使ったアプローチを行っています。
もうすぐで1歳になる男の子がいて、毎日癒されています!
「思っていることを言葉で伝えてくれないから、何を考えているのかわからない」
「自分の意思や感情を上手く伝えられず、手が出てトラブルに発展する」
お子さんについてそんなお悩みはありませんか?
この記事では、「自分のことを伝えられない」お子さんの心理と、親ができる対応方法について紹介しています。
「自分の思いを適切に伝える」ことは、今後の人間関係の構築や社会進出の基礎になります。
記事から参考になる部分をピックアップして、苦手な部分を克服させてあげてください。
目次
1.「自己表現」と「自己主張」は同じ?違う?
子どもは、2歳前後で自我が芽生えるとされています。
自分のやりたいことや欲しいもの、大人にしてほしいことを感じ、伝えようとするようになります。
しかし、言語能力が十分に発達していないため上手く伝えられず、泣いたり叩いたりしてしまうことも少なくありません。
4~5歳になると、だんだんと自分の気持ちをコントロールすることができるようになり、使える語彙も増えてくるため、自分のことを他者へ伝えられるようになります。
しかし、お子さんによっては自分の気持ちや考えを上手く伝えられず、黙り込んでしまったり、機嫌が悪くなってしまいます。
そうなると、周囲の大人からすれば「どうしたかったの?」「確認しても、何も言ってくれないからわからない」と、対応に困ってしまいますね。
このような子どもはなぜ、自分の思っていることを他者へ伝えられないのでしょうか?
1-1.「自己表現」とは、自分を表現すること
「自分の考えや感情をあらわすこと・表へ出すこと」を「自己表現」と言います。
「○○だと思う」「××がいいな」など、自分がどう思っているのか、どう感じているのかを他者に伝えることです。
自己表現の手段は、言葉だけではありません。絵を描く、歌う、踊る…なども立派な自己表現です。
1-2.「自己主張」とは、相手に行動してもらうよう訴えること
自己表現と似た概念に、「自己主張」があります。
自己主張は「自分の思いや考えを相手に伝え、相手に行動してもらうこと」を指します。
自己表現は「自分の思っていることを伝える・表現する」ことがメインですが、自己主張は「相手に何かをしてもらう」ことが目的であるため、実は大きく異なる概念です。
具体的な例を挙げると、「私はドッジボールがしたい」と自分の思いを伝えるのが自己表現、「ドッヂボールの方が楽しいからドッジボールやろうよ」と周囲から了承を得ようとするのが自己主張、ということになります。
2.自己表現ができることのメリット
自己表現が自然にできるようになると、どのようなことが起こるのでしょうか。
自己表現のメリットをいくつか紹介していきます。
2-1.他者に受け入れてもらえる感覚が得られる
まず初めに、「自分を受け入れてもらえる感覚」が得られる、という点が挙げられます。
自分の思いや感じたことを表現できると周囲の人が共感したり、認めてくれたりします。
この経験を積み重ねることが自信に繋がり、より積極的に自己表現を行うことができるようになります。
2-2.協調性が身につく
自己表現を重ね、様々な人とコミュニケーションをとることで、「相手には相手の意見があること」「仲良く過ごすためには、時には我慢する必要があること」などを学ぶことができます。
4〜5歳は、自我の芽生えとともにトラブルも増えてくる時期ですが、自己表現が上手くできるとトラブルに巻き込まれることが少なく、穏やかに過ごすことができるでしょう。
2-3.周囲からの信頼を得やすい
思ったことをまっすぐ伝えることで、「裏表のない子」「何を考えているのかわかりやすい子」という印象を与えやすいので、人から好かれ、社交的なお子さんに育っていくでしょう。
またこれは先の話ですが、「自分はこう思う」「こっちのほうが好き」という思考を続けていくことで、「自分はこういう人間だ」という自己理解が深まります。
自分についての理解が深まることで、自分のやりたいことや興味のあることを認識しやすくなり、人生がより豊かになるだけでなく、進路選択や就職などにもプラスに働きます。
3.子どもの自己表現を妨げないで。大人のNG行動
さまざまなメリットがある自己表現ですが、周囲の大人の何気ない行動により妨げられてしまうことがあります。
ここでは、親御さんに避けてほしい行動について紹介します。
3-1.NG行動1|子どもの気持ちを代弁しすぎる
子どもの自己表現は稚拙で、大人からしたらもどかしい部分があります。
特に、親御さんはお子さんの生活や思考パターンを熟知しているため、「こう言えばいいのに」「それじゃあ伝わらない」と思い、ついつい口を出したり、会話に割って入ったりしたくなりますよね。
大人が子どもの気持ちを代弁することが子どもにとって有利に働くこともありますが、一方で「自己表現の場を奪う」ことにもなります。
自己表現の機会が少なければ上達しませんし、なにより「大人が代弁してくれるなら、自分で言わなくてもいいや」と自己表現することを放棄してしまう可能性もあります。
3-2.NG行動2|子どもとの時間をないがしろにする
家族で過ごす時間が年々減少し、家族間でのコミュニケーションの機会も減ってしまっています。
4〜5歳ごろは、幼稚園や保育園での人間関係の広がりがあるとはいえ、子どもの話を一番に聞いてあげられるのは親御さんです。
そんな親御さんとの会話の機会が減ると、子どもが自分のことを話したり、伝えたりすることが少なくなってしまいます。
当然、自己表現の機会も失われてしまうでしょう。
もちろん、親御さんはわざと子どもの話を聞いていないわけではないでしょうが、子どもとの時間が十分に取れていないと感じた時には、たとえ5~10分でも子どもとの時間を意識的に、無理のない範囲で作り出すことをおすすめします。
例えば、朝食や夕食の時にテレビをつけずに子どもの話を聞く、その日の出来事を紙に書いてもらい、時間があるときに返事を書く。など、自己表現の場を作り出してあげるとよいでしょう。
3-3.NG行動3|感情表現を受け流してしまう
忙しい時や疲れているときに、子どもの話に対して「ふーん」「あっそう」と聞き流すように受け答えしてしまう場面もあるかと思います。
親御さんに悪気がなくても、「自分の話はつまらないんだ」「ママ(パパ)は自分の話を聞きたくないんだ」と子どもは誤解し、自分のことを話そうとしなくなるかもしれません。
3-4.話の聞き方のコツ 「傾聴」とは?
とはいえ、1つ1つの話に付き合ってあげられるほどの時間的な余裕がないときも少なくないでしょう。
そこで参考にしていただきたいのが、カウンセラーが使う「傾聴」の技術です。
傾聴とは「耳や目だけでなく、心も向けて相手の立場になって話を聞く」ことです。
限られた時間の中で相手の思いをくみ取り、安心感や受容感をもってもらうのに効果的です。
具体例を以下に挙げますので、参考にしてください。
<参考にしたい!「傾聴」の具体的ヒント>
●相手の言葉を繰り返す
例えば…
子ども「今日はボール遊びができて楽しかった!」親「ボール遊びが楽しかったんだね」
●感情に合った表情にする
例えば…
子どもがうれしい話をしているときには、親もうれしい表情で話を聞く
●言い換える
例えば…
子ども「先生にうるさいって怒られちゃった」親「先生に『静かにしてね』って注意されちゃったんだね」
傾聴については、下記記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
・「傾聴」で子どもの自己肯定感を伸ばそう!効果的な話の聞き方と6つのポイント
4.子どもの自己表現を促すOK行動
自己表現を妨げてしまうNG行動について解説しました。
次に、子どもの自己表現を促すために親御さんにできることやしてほしい行動について紹介します。
4-1.OK行動1|様々なことを体験する機会を作る
子どもがうまく自己表現できるかどうかは、経験の有無に大きく左右されます。
「うれしい」「悲しい」という基本的な感情はもちろんのこと、「達成感」「悔しさ」といった感情は、実際に経験しなければ表現することができません。
そのため、いろいろな場所に行って「きれいな」「美しい」景色を見せてあげたり、運動や習いごとを通して「気持ちいい」「すっきりする」感覚を体験させてあげたりすると、子どもの感情表現に深みを出すことができます。
マイナスな感情については体験させる必要はありませんが、幼稚園や保育園で経験した際には、「それは『悔しい』ね」と言語化してあげると、子どもの中に感情を言葉に置き換える体験が蓄積されていくでしょう。
4-2.OK行動2|大人が感情表現を積極的に行う
子どもは、身近な大人の言動から多くのことを学びます。
そのため、子どもに自己表現をたくさんしてもらうには、まずは大人が自己表現をしていく必要があります。
仕事であったうれしかったこと、悲しかったこと、どんなことでもいいので、お子さんに話してあげてください。
そうすることで、お子さんも少しずつ自分の体験や感情を話してくれるようになるでしょう。
また、これは余談ですが、誰かに話をするだけでもストレスは軽減すると言われています。
親御さんのストレスは子どもの成長に直結するので、自身の感情を言葉にすることでお子さんの自己表現を促すとともに、ご自身のストレス発散の場にもしていけるとなおよいでしょう。
5.自己表現を子どもに促し、コミュニケーションの基礎を築こう
子どもは成長とともに次第に親元を離れ、自分のコミュニティで生活するようになります。
集団内で生活していくためには他者とのコミュニケーションが不可欠であり、自己表現はその基礎になります。
自己表現が苦手なお子さんも少しずつできるようになると世界がグッと広がりますので、今回の内容を参考にしながら、お子さんが気持ちや考えを表に出す力を引き出せるよう、サポートしてあげてください。
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