嫌と言えない子どもへの接し方は?~親ができるサポートについて解説~
この記事を書いた人
狩野淳
- 公認心理師
- 臨床心理士
大学、大学院にて発達心理学と臨床心理学を専攻していました。
臨床心理士と公認心理師の資格を保有しております。
子ども達とその保護者の方の支援を仕事にしており、子ども達へは主に応用行動分析を認知行動療法用いて、保護者の方にはブリーフセラピーを使ったアプローチを行っています。
もうすぐで1歳になる男の子がいて、毎日癒されています!
「嫌と言えず、やりたくないことをやらされているように思う」
「思ったことを口に出してほしいけど、どのように教えてよいかわからない」
我が子にそんなお悩みをお持ちの方へ。
この記事では、嫌と言えない子どもの心理状況と親にできるサポートについて解説していきます。
嫌と言えない子どものタイプ分けや、親がしてはいけないNG行為についても紹介していますので、我が子と接する際の参考にしてください。
目次
1.「嫌と言えない子ども」のタイプ
子どもの言動には必ず理由があります。もちろん、「嫌と言えない」ことにも理由や原因があります。
それを無視して、嫌と言えない様子だけを一括りにして解決しようとしても上手くいきません。
嫌と言えない子どもにはいくつかタイプがあり、そのタイプによって対応の仕方が変わってきます。
まずは、子どもがどのタイプなのかを確認しましょう。
1-1.子どものタイプ分けチェックリスト
今回は、コミュニケーションに関する論文をもとに作成した3つのタイプをご紹介します。
当てはまった項目が最も多いタイプが子どものタイプである可能性が高いです。
また、タイプごとの特徴も解説していますので、嫌といえない理由や原因を探る参考にしてください。
【Aタイプ】
□ 穏やかな性格
□ 他人からの視線や評価を気にしすぎているように感じる
□ 人から嫌われるのを避けようとする
□ 意見が割れた際に自己主張をしない
□ 日常的に我慢している
□ 周囲の顔色を伺うことが多い
【Bタイプ】
□ 不器用な性格
□ 言葉より先に手が出てしまう時がある
□ 自分の気持ちを伝えることが難しい
□ 親以外の人と上手くコミュニケーションが取れない時がある
□ 感情・気持ちについて尋ねると黙ってしまう
□ 失敗すると泣き出してしまう
【Cタイプ】
□ マイペースな性格
□ 「○○したい」「××だと思う」とよく伝えてくる
□ 一緒に遊ぶ友達がたくさんいる
□ 「どっちでもいい」などと言うことが多い
□ 他人に合わせず、自分の道を突き進むことがある
□ 幼稚園・保育園でトラブルなく過ごしている
1-2.Aタイプ:嫌われるのが怖い
Aタイプの子どもは、周囲から嫌われるのが怖いため、嫌と言えない可能性が高いです。
他人と友好的な関係を作ろうとするのは素晴らしいことですが、そのために自分を犠牲にしており、周囲から「何でも『いいよ』って言ってくれる子」と思われてしまいます。
このタイプの子どもには、自分を大切にしてほしいこと、嫌と言っても嫌われない人間関係の作り方を教えていく必要があるでしょう。
1-3.Bタイプ:気持ちの表現方法がわからない
Bタイプの子どもは、自分の気持ちの表現方法がわからないため、嫌と言えない可能性があります。
5,6歳の子どもは言葉が増えてきて、自分の感じていること、思っていることを少しずつ言葉にして伝えることができるようになりますが、複雑な感情表現まではまだ難しい部分があります。
また、言語発達は子どもによってばらつきがあるため、まだまだ言葉にすることができない子どもも、もちろんいます。
感じているモヤモヤやイライラを言葉にできず、黙ってしまったり、叩いてしまう子どもは珍しくありません。
そんな子どもには、「こう思ったのかな?」「こんな気持ちだった?」など、大人が子どもの感情を言葉にする手伝いをし、言葉で表現する練習をしていく必要があるでしょう。
1-4.Cタイプ:そもそも嫌だと思っていない
Cタイプの子どもは、周囲からの要求に対して嫌だと感じていないかもしれません。
このタイプの子どもは「他人に尽くしたい」「役に立ちたい」という気持ちが強い傾向があります。
そんな気持ちは認めてあげながらも、「要求にすべて応えることが、相手のためになるとは限らない」「やるべきことを取捨選択する大切さ」を少しずつ教えていく必要があるでしょう。
優しさに漬け込もうとする人に利用されないことの大切さを伝える必要も、あるかもしれません。
2.嫌と言えない子どもにしてはいけないNG行為
嫌と言えない子どものタイプ分けと、それぞれのタイプの特徴について解説しました。
それぞれに特徴があり、別の対応をしていく必要がありますが、子どもの性格や置かれている環境によって変わる部分もあります。
今回は、各タイプに共通して親がやりがちなNG行為を3つ、ご紹介します。
2-1.NG行為1|嫌と言うように、しつこく指導する
子どもの行動には、必ず理由があります。嫌と言わないのなら、その背景に何かしらの理由があるのでしょう。
それを無視して単に「嫌なときには『嫌』と言いなさい」と伝えたところで、子どもの行動は変わらないでしょう。
どうして嫌と言わないのか、嫌と言わないことで子どもは何を得ているのかを幼稚園や保育園の先生に聞いてみることで、分かることもあるかもしれません。
また、子ども同士で遊んでいる様子を観察することで、我が子の考えや気持ちが見えてくる可能性もあるでしょう。
2-2.NG行為2|子どもの気持ちを代弁しすぎる
子どもが嫌と言えないと、つい口を挟みたくなってしまいますよね。
でも、親が子どもの代わりに「それは嫌だよね?」「やりたくないよね?」と言ってしまうのは避けましょう。
子どもの自己主張の場を奪ってしまうだけでなく、「親が言ってくれるなら、自分は黙っていていいや」という思考になりかねません。
気持ちの代弁は感情を言語化すること(「悲しい気持ちになったのかな?」「イライラしてるみたいだね」)にとどめ、「○○はどう思っているの?」「どうしたい?」と子どもに選択を委ね、子ども自身が相手に伝えられるよう後押しすることが大切です。
2-3.NG行為3|親の価値観を押し付ける
親と子どもは別の人間です。親が思っているのと同じことを、必ずしも子どもも思っているとは限りません。
子どもを心配する気持ちや、「将来、辛い思いをしないでほしい」「楽しく暮らしてほしい」と願うのは当然です。
しかし、「こうした方が、幸せになれる」「これが、子どものためになる」という思いが強くなりすぎ、子どもをコントロールしようとすると、親の判断に依存したり、自分の価値観に自信がもてなくなってしまいます。
親は我が子を客観的に見れない場面もあります。その時は子どもをよく見てくれる大人やママ友、自分の両親に相談することをおすすめします。
3.嫌と言えない子どもの主張性を育てるためには
子どもを思うあまり、ついついやってしまいがちなNG行為について解説しました。
次に、嫌と言えない子どもへの対応方法を紹介していきます。
3-1.主張性について
まず意識してもらいたいのが「主張性(アサーション)」です。
主張性とは「自分も相手も大切にしながら、意見や考え、気持ちを率直に、正直に、その場にふさわしく表現すること」です。
上記で紹介した3つのタイプは共通して、この「主張性」が十分に獲得しきれていない可能性があります。
とはいえ、主張性は時と場合、そして相手との関係性などで変化する抽象的なものですので、はじめから主張性を獲得できている子どもは多くありません。
また主張性は、子どもが小さいうちにきちんと教えてあげることで適切に獲得することができます。
以下に、子どもが適切な主張性を獲得できるために大人ができることについて解説します。
▶参考記事
>>幼児期から適切な自己主張「アサーション」を学ぼう!トレーニング方法やタイプは?
3-2.正しい主張の仕方を教える
AタイプやBタイプの子どもは「嫌と言っていいのか」「どんなときに嫌と伝えればいいのか」自体が分かっていません。
そのため、正しい主張の仕方を教えていく必要があるでしょう。
とはいえ、いきなり主張の仕方を言葉で教えようとしても上手くいかないでしょう。
そこで、まずは大人が見本を見せてあげてください。
心理学には「モデリング」という考え方があります。モデリングとは「他者を観察し、模倣するだけで行動を学習すること」を指します。
例えば、親の手伝いをして褒められている人を見た後に、自分も褒められようと手伝いをするようになった際は、“モデリングが成立している”ということになります。
これを利用して、親が何かに対して嫌と言っているシーンを意図的に見せることで、子どもに嫌な時の伝え方を学ばせるのです。
その際にはできるだけ自然に、かつ嫌と言っているシーンを複数見せておくと、子どもの中でも、嫌と言ってもいい場面のバリエーションが増えていくでしょう。
3-3.少しずつ練習を重ねる
主張の仕方を教えた後は、練習あるのみです。
まずは、主張しやすい関係性の大人(両親や祖父母など)に対して「嫌」と言うところから始めましょう。そして「嫌」と言える相手をだんだんと増やしていきます。
適切に「嫌」と伝えられたところで、「できたね!」「その調子!」と褒めてあげることで、「自分の思いを言うこと」=「褒められる」と学習を促していきます。
ここで気を付けていただきたいのが、「嫌って言えて、えらいね」と褒めるのではないということです。
あくまでも狙いは「主張性を高めること」ですので、「自分の思いを相手に伝えられたこと」自体を褒めるよう気をつけましょう。
4.嫌と言えない背景を読み取り、サポートしていく
子どもは日々の生活の中で様々なことを吸収し、成長しています。
そのなかで親目線では納得でないこと、つい口を挟んでしまうこともあるでしょう。
しかしそれが原因で、親が望んだのとは全く違う形で伝わってしまったり、「その子らしさ」を潰してしまうこともあります。
子どもの行動の背景にあるものを読み取った上で、勘違いしていることや誤解していることがあればその都度修正やサポートしながら、子どものこれからをそっと見守ってあげたいですね。
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参考文献
・藤本学,大坊郁夫「コミュニケーション・スキルに関する諸因子の 階層構造への統合の試み」パーソナリティ研究 2007 第 15 巻 第 3 号 347–361
・勝浦 美和,浜崎 隆司「他者評価式幼児用自尊感情尺度の開発 」応用教育心理学研究 第 39 巻 第 2 号(通巻第 56 号)3 〜 21 頁
・清水美奈,石津憲一郎「修正版主張性の4要件尺度の改編」富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要教育実践研究 No.13: 23-30