考える力で主体性を高める!家庭でできる「クリティカルシンキング」の鍛え方
この記事を書いた人
さたけ のぞみ
- 作業療法士
自宅へ伺う訪問リハビリテーション、発達障害がある子どもへの療育など、作業療法士として15年勤務しています。
造形・アート、自然体験活動などを通して、子どもたちを支援し、また子どもたちから日々沢山のことを学んでいます。
プライベートでも2人の娘と、森でのお散歩や創作活動を一緒に楽しんでいます!
「うちの子、主体性がない」「自己判断ができない」といったお悩みを抱えていませんか?
我が子には、自分で考えて行動できる力を身につけてほしいと願いますが、なかなか難しいことですよね。
今回は、「クリティカルシンキング」という考え方を通じて、小学校低学年頃のお子さんの「考える力」を育む方法をご紹介します。
クリティカルシンキングを学ぶことで、深く考え、自ら問題を解決する力を養うことができます。学校での勉強や人間関係、大人になってからの仕事でも役立つ思考法です。
日常での具体的な事例を挙げて、「クリティカルシンキングの鍛え方」をご紹介していますので、ぜひ、取り入れてみてください。
目次
1.クリティカルシンキングとは?
まずは、「クリティカルシンキング」とは何なのかについてみてみましょう。
1-1.クリティカルシンキングという考え方
クリティカルシンキングとは、「さまざまな視点から情報を捉え、論理的な筋道を立てて、客観的に情報を理解しようとする思考法」です。日本語では「批判的思考法」と訳されます。
批判というと「非難」のようなネガティブな印象を受けますが、ここでは「うのみにしない・自分で判断する」という自律的な意味で使われています。
1-2.これから必要な力として注目されている
クリティカルシンキングは、日本の学校教育でも注目されている「これからの学びの力」です。
現行の小中高の「学習指導要領『生きる力』」では、知的活動の一環としてクリティカルシンキングが重要視されています。
また、文科省の大学改革実行プラン「社会の期待に応える教育改革の推進」(2012)では、クリティカルシンキングを重視した入試への転換が提案されています。これは、意欲や能力、適性などの総合的な評価に基づく入試が重要視される、時代に合わせた取り組みです。
実際、2016年の世界経済フォーラムでは、クリティカルシンキングが、「雇用主が今後重要と見なすスキル」のTOP10に選ばれました。
日本だけでなく世界的にも、これからの時代に重要な能力と考えられていることが分かりますね。
2.クリティカルシンキングのメリット
ここでは、クリティカルシンキングを鍛えることで得られる3つのメリットについてお話しします。
2-1.正しい情報を取捨選択できる
私たちは普段、TwitterやYouTube、テレビのニュースや新聞記事の情報など、さまざまなメディアで情報を目にします。様々な情報が飛び交うネット社会では、間違った情報に気づき、正しい情報を選ぶ力が重要です。
たとえば、SNS上でクラスメイトの悪口を見つけて、「あいつってこんな人だったんだ」「信じてたのにひどい!」といった感情的な反応をすることで、被害者意識や噂だけが広まり、元の情報が誇張されることがあります。
クリティカルシンキングをしてみると、知った情報をすぐに信じるのではなく、「それは本当か?」「どうしてそういうことになったのか?」と、いったん冷静になり真実を知ろうとする力が育まれます。
2-2.学ぶ意欲を高め主体的に学習できる
クリティカルシンキングを身につけることで、学習意欲が高まり、自主的に学ぶ能力が向上します。
例えば、以下のような算数の文章問題をクリティカルシンキングで解いてみましょう。
❚ 問題
あるサッカーチームの練習では、1週間で5回練習します。1回の練習では、選手たちはボールを100回蹴ります。このチームの1週間の練習で、選手たちは合計で何回ボールを蹴ったでしょうか?
❚ 問題を分解する(理解する)
練習は、1週間に「5回」ある。
1回の練習で、選手たちはボールを「100回」蹴る。
❚ 問題を解くための道筋を考える(流れを検討する)
1回の練習で、「100」回。で、それが、「5」回ある。ということは……。
❚ 式を立て答えを出す(仮説をたてて、論理的に検証)
練習回数の「5」回と、1回の練習でボールを蹴る回数「100」をかけてみよう。
「練習回数 × ボールを蹴る回数」で、合計の回数がでるはず。
= 5回 × 100回
= 500回
答え「1週間の練習では、選手たちは合計で500回ボールを蹴りました。」
正確です〇
数字だけに注目して、今はかけ算の勉強だから「5×100」で500と考えても答えは出せますが、考えながら解いていくことで、主体的な問題解決能力や論理的思考力を発展させることができます。
2-3.メタ認知能力を伸ばせる
メタ認知とは心理学用語で「自分の行動・考え方・性格などを別の立場から認識する活動」とされています。つまり「自分の考えや意見を、もう一人の自分が見聞きしている状態」といえます。
私たちは知らず知らずのうちに、思い込みや偏った考えをもっています。
クリティカルシンキングを意識すれば、他者や状況を客観的に見るだけでなく、自分自身を振り返る力も高められます。
自分の考えやクセに気づくことで、自分の強みや弱み、これから伸ばすべきところを見つけることができます。
3.クリティカルシンキング4つの構成要素
クリティカルシンキング(批判的思考)をおこなう際の4つのステップについてみてみましょう。
心理学者の楠見は、『批判的思考力を身につける・育む』で、クリティカルシンキングには以下の4つの要素が含まれていると述べています。
<クリティカルシンキング4つの要素>
① 明確化 ― 「どういうことだろう?」
② 推論の土台の検討 ― 「ここから言えることはなんだろう?」
③ 推論 ― 「ということは、こういうことかな」
④ 行動決定 ― 「じゃあやってみよう」
それでは、「友達とのケンカ」を例にして、クリティカルシンキングの4つの要素を具体的にみてみましょう。
① 明確化 ― 「どういうことだろう?」
「明確化」は、問題や状況をよく理解することです。
例えば、友達とケンカになったとき、「友達とケンカになった理由は何だろう?」と考え、どんなことが問題となったのかを具体的に振り返ります。
② 推論の土台の検討 ― 「ここから言えることはなんだろう?」
明確化した情報を基にして、どのようなことが言えるのか筋道を考えるのが「推論の土台」です。
ケンカになったのは、「変なあだ名をつけられたのが嫌で、友達を叩いた」からと明確化したとします。その場合、嫌なことをされたときの対処法(叩く)がケンカへ発展したきっかけであるということが推論されます。
③ 推論 ― 「ということは、こういうことかな」
推論は、最初に考えた筋道に新しい情報を加えて、再び筋道を練り直すことです。
「嫌なことをされたとき、叩くとケンカになる」という推論を元にして、「叩かずに、言葉を使って『嫌だ』と言えれば、叩きあいのケンカにならないかもしれない」と考えることができます。
④ 行動決定 ― 「じゃあやってみよう」
最後の行動決定は、クリティカルシンキングに基づいて導き出された筋道を現在の自分の状況と比較し、実際に行動に移すことです。
また同じように、友達に嫌なことを言われたときは「そういうことを言われると、嫌だからやめてよ」というように心がけてみようと考えることができます。
それでは、次にこの4つの要素を使って、小学校低学年向けに「クリティカルシンキングを鍛える方法」を具体的にご紹介します。
4.家庭でできる!実践的なクリティカルシンキングの鍛え方(例)
子どもとクリティカルシンキングを高めるためには、4つの要素「①明確化、②推論の土台の検討、③推論、④行動決定」ごとに分割して鍛えるのがおすすめです。
要素ごとの鍛え方を、具体的な例を使ってご紹介します。
4-1.① 明確化 – どういうことだろう?
(例)学校から帰宅後、家の時間はどう過ごすか
子どもが学校から帰ってきたら、家での時間をどう使うかを考えることで、「明確化」の要素を鍛えることができます。
<子どもへの声かけ・例>
- 宿題や明日の準備など、やっておくことはある?
- ゲームや友達と遊ぶ時間は、どれくらいかな?
- やりたいこと、やっておくことのバランスを考えて、どの順番でどれくらい時間をかける?
4-2.② 推論の土台の検討 – ここから言えることはなんだろう?
(例)運動遊びの効果について考える
鬼ごっこやキャッチボールなど、身体を使った運動遊びの効果について考えることで、「推論の土台の検討」の要素を鍛えることができます。
<子どもへの声かけ・例>
- 鬼ごっこをすると、身体にどのような変化が起こるかな?
- 身体を動かすと、疲れにくくなるのはなぜだろう?
- キャッチボールでは、身体のどの部分をつかうだろう?
4-3.③ 推論 – ということは、こういうことかな
(例)キャラクターの気持ちを考える
漫画や小説など、キャラクターの気持ちを考えることで、「推論」の要素を鍛えることができます。
<子どもへの声かけ・例>
- (漫画の絵を見ながら)〇〇は、どうしてこんな表情をしているの?
- (小説を朗読)「〇△、~□×」。〇〇は、どうしてこう思ったんだろう?
- 〇〇は、これからどうなると思う?
4-4.④ 行動決定 – じゃあやってみよう
(例)困った時の対処方法を考える
悩んだり困った時の対処方法を具体的に考えてロールプレイしてみることで、「行動決定」の要素を鍛えることができます。
<子どもへの声かけ・例>
- 友達に「バカ」って言われたら、なんて言おう?
- 「やりたくない」って言ってるのに、無理やりやらされそうになったらどうする?
- 困ったことがあった時に、誰に相談すれば良いかな?
5.これだけは押さえておきたい!考える力を育む親の関わり方
子どものクリティカルシンキングを伸ばすために、押さえておきたい親の関わり方はどのようなものでしょうか。ここではポイントを3つお伝えします。
5-1.子どもの話をしっかり聞く
クリティカルシンキング能力を伸ばすには、子どもが安心してコミュニケーションできることが大切です。安心して話ができることで、自分の意見を言えるようになり、相手の話も聞ける余裕が生まれます。
安心して話せる環境をつくるためのポイントは、以下の2つです。
❚ 質問は「なぜ」ではなく「どうして」と尋ねる
子どもは、大人から「なぜ」と言われると、正しい答えを言わなくては、と身構えてしまうことがあります。「どうして」と尋ねることで、考えた理由を話しやすくなります。
❚ 子どもの話には「なるほど」「そうなんだね」と受け止める
「なるほど」「そうなんだね」など、話を受け止める返しをすることで、子どもはしっかりと自分の気持ちを聞いてもらえていると感じられます。受け止めてもらえている安心感は、子どもの自信にもつながります。
5-2.物事の理由を考えられる質問をする
クリティカルシンキングは、「なぜだろう」と主体的に考えるところからはじまります。
理由を考える質問をすることで、物事の背景を考えるきっかけを作ってあげましょう。
子どもに質問するときは、子どもの意見を肯定的な態度で受け止めた後に、問いかけるのがおすすめです。
(例)
❚ 子どもが教えてくれたとき
「なるほど。ここはどんな感じ?」
「そうなんだね!ということは、〇〇も△△っていうこと?」など。
❚ 子どもが自分の気持ちや考えを伝えてくれたとき
「そうだったんだね。〇〇は、どうしてそうなったんだろう?」
「なるほど。そういう気持ちになったんだね。〇〇のときも、そうだった?」など。
5-3.遊びや生活で実体験を積ませる
「考える力」や「主体性」を育てるためには、遊び、お手伝いなどの生活体験、色んな友達や大人と関わる実体験が大切です。
北岡・前田は、論文『幼児期の探究心を育てる人的環境について』で、環境との関わり合いの大切さについて触れています。
“子どもは、体験を基にして、環境に働きかけ、様々な環境との相互作用を通じて発達していくものであると言うことができる。子どもは、身近な人やものなどあらゆる環境から刺激を受け、経験の中で様々なことを感じ取り、 充実感や満足感を味わうことで、意欲を持って環境と主体的に関わり、その結果として発達を遂げていくのである”
引用元:『幼児期の探究心を育てる人的環境について』北岡・前田
特別な環境を用意しなくても大丈夫です。
お休みの日はお子さんと一緒に自然のあるところへお出かけする、近くの公園でスポーツをする、地域の行事に参加する、自宅で料理を作るなど、生活の中でできる体験はたくさんあります。
無理のない範囲で、できることから取り組まれてはいかがでしょうか。
6.会話の中でクリティカルシンキングを鍛えよう!
クリティカルシンキングは、少しの工夫で高めることができます。
日常生活の中で子どもたちは日々、様々なことに興味を持ち、疑問を抱きながら成長していきます。
クリティカルシンキングを身につけることで、自分で考えて困難に立ち向かう姿勢や自己表現力、問題解決能力などさまざまな力が育まれていきます。
最初は、自分の意見が言えないことや何を考えればいいのか分からないということがあるかもしれませんが、大切なのは考えようとすること自体です。
焦らずに取り組んでみてくださいね。
主な参考文献
・楠見孝,服部弘,一色伸夫,批判的思考力を身につける・育む,甲南女子大学 第84回子ども学公開シンポジウム,2013.
・平野博文,社会の期待に応える教育改革の推進,文部科学省 中央教育審議会大学分科会 大学分科会(第106回)大学教育部会(第18回),2012.
・文部科学省,学習指導要領「生きる力」,初等中等教育局教育課程課,2011.
・World Economic Forum. (2020). The Future of Jobs Report 2020. Retrieved from URL.
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