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【医師監修】小児科医が懸念する「スマホ育児」のリスク。子どもの健康に及ぼす影響とは?

育児に家事、仕事などが重なるとどうしても忙しく、「スマホ育児」に頼るしかない場面もあるでしょう。
なかにはスマホが生活の一部となり、手離せないという親御様もいるのでは。
そもそも「スマホ育児」とは、家庭の育児にスマートフォンやタブレット型端末を使用することを指しています。便利な側面も多い「スマホ育児」ですが、子どもの健康へどのような影響を及ぼす恐れがあるのでしょうか?

そこで今回は、スマホ育児に関して小児科医・作家であり、一般社団法人『Yukuri-te(ゆくりて)代表理事/『イーズファミリークリニック本八幡』院長の湯浅正太先生にお話をうかがいました。
湯浅先生は「小児科医が思う子どもの睡眠とスマホ」というテーマでブログを執筆するなど、かねてよりスマホ育児に注目されていらっしゃいました。
(文責:CONOBAS編集部)

目次

1.子育て世帯が抱える「スマホ育児」の悩み

 

Q1.「スマホ育児」に関して、患者様からどのような健康面における悩みをご相談されますか?

 

生活の中にスマホを頻繁に取り入れている方の場合、スマホに限らず、タブレットやPCなどのメディア全般を利用していることが多い傾向にあります。

具体的には、子どもに動画サイトを見せながら、スマホを子守りのツールとして使うといった環境が増えているように感じています。

実際に、親御様からのご相談で多いのは、子どもがスマホに気を取られてしまい、なかなか親の話を聞けないなど行動面のトラブルですね。

ほかにも、夜遅くまでスマホを操作していることで、就寝時間が遅くなり、睡眠の質が落ちて熟睡感を得られないなども起きてきます

その結果として朝起きるのが遅くなり、日中の生活にも影響してしまうといった健康面のトラブルもよく相談に挙がります。

これらが積み重なると、生活習慣の乱れのほかに、子どもの情緒にも支障を来たしてしまうこともあり、なかには“不登校”につながるケースもあるほどです。

 

2.海外の研究でも注目されている「スマホ育児」

 

Q2.「スマホ育児」は、健康にどのような影響をもたらす恐れがあるのでしょうか?

 

これまでの報告によれば、過剰なメディアの使用は子どもの認知や言語、情緒の発達への悪影響が指摘されていて、世界的に見ても「スマホ育児」は警戒されています。

例えば、日本小児科医会では、2歳まではメディアとの接触を控えることや、2歳以上であったとしてもメディアとの接触時間は1日に2時間までとするように提言しています。

あるいはWHO(世界保健機関)も、乳児はメディアに接触しないことや、1〜4歳児はメディアとの接触時間は1日に1時間未満とするよう提言しています。

もちろん「スマホ育児」は研究の発展途上であり、まだまだわからないことが多い分野です。

それでも、小児科医として肌で感じているのは、子どもの生活習慣にメディアが影響を及ぼしている面があるのは否めないということです。

明確に2歳で区切れるわけではありませんが、やはり2歳までの時期は愛着形成や言葉の発達にとって大切な時期であり、この期間の過ごし方はとても重要だと考えられています。

 

Q3.育児にスマホを取り入れる場合、どのようなポイントに注意すればよいのでしょう?

■スマホの能動的な使い方を増やす

まず、現代の子どもたちにとって、「『スマホがある環境が当たり前になっているということを理解する必要があります。

ただスマホを取り上げるよりも、いかにスマホと付き合っていくかを考える必要があります。

例えば、ただ見せるだけの(受動的な)使い方よりも、コミュニケーションツールとしての(能動的な)使い方の割合を増やしてみます

 

受動的な使い方の例
・親が仕事をしているときに、アニメを見せておく(鑑賞している)
能動的な使い方の例
・お子様が言葉を発することでコミュニケーションのやりとりが発生する
・海外の方や英会話のオンラインレッスンなどのツールとして活用する

 

そして、子どもは親の行動を真似る」ということへの理解も欠かせません。

子どもは、親が楽しそうに扱っている物を使ってみようとします。親がピアノや書物に楽しそうに触れ合っていれば、子どもも同じことをしようとするものです。

家庭の中で親がスマホに触れる機会が多ければ、それを目にする子どももまたスマホを扱いたくなるものです。

子どものスマホの利用方法を工夫するには、親御様のスマホの利用方法も工夫する必要が出てくるものです。

 

■まずは、親がスマホを使う時間を見直す

先述したスマホ育児と睡眠障害とのメカニズムについても説明しましょう。

夜間にスマホの光を浴びると、どうしても眠気がひいてしまい、その結果、寝つきにくくなってしまうものです

大人でも夜間に質の良い睡眠が取れていないと、日中イライラしてしまったり、集中しづらくなってしまったりします。

これは大人だけではなく、子どもでも同様の現象が起こると言われています

以上のことを考慮したうえで、現実的なスマホ利用の工夫を考えたいと思います。

そのうえで大切なことは、気軽に始められて続けやすいという点です。

私たちの生活の一部となったスマホとうまく付き合いながら、子どもたちを育てていく。

そのことを考えると、子どものスマホ利用に時間制限を設けることのほかにわたしが提案したいのが、以下の2つのポイントです。

 

1. 親が子どもの前でのスマホ利用を制限する
2.子どもがスマホを使える時間帯を朝にシフトする

 

できれば、スマホをはじめ、さまざまなメディアの使用は就寝より1時間前までと制限を決めると良いでしょう。

そして、もし夜型から朝型に切り替えたいと考えるのなら、早寝から工夫するのではなく、まず早く起きる工夫から始めることが大切です。

つまり、工夫の順番は、「早寝→早起き」ではなく、「早起き→早寝」がポイントになります。

いきなりスマホを全く使わない生活に切り替えるのは難しく長続きしません。

それであれば、まずはスマホを操作しても良い時間帯を朝方に調整することです。

このように、“スマホを使える環境”自体を変えていく必要があるでしょう。

2歳未満はスマホをなるべく使わずに、2歳以降も1日1時間から2時間程度に留めることが理想かもしれません。

ぜひ知っておいていただきたいのは、親のスマホ習慣を見直したり、子どもの「やる気」を汲み取りながらスマホ利用方法を工夫したりする姿勢が、適切なスマホ利用に効果を発揮することも少なくないということです。

そうやって、子どもの「やる気」をある程度生活に生かしてあげることも大切だといえるでしょう

 

3.「スマホ育児」は社会全体の課題。親は、できる範囲の努力から

小児科医・作家であり、一般社団法人『Yukuri-te(ゆくりて)』代表理事/『イーズファミリークリニック本八幡』院長の湯浅正太先生は、「親御様は育児を頑張っている」と話しています。

そして、「スマホ育児」の背景には、親御様が“仕方なく”選択しているという事情があることも理解しているとのこと。

これは親御様に責任があるのではなく、そもそも社会が子育てを十分にサポートできていないという現状を大きく反映しているのではないかと考えているそう。

そこで、親御様が子育てをしやすいような社会環境に変わっていくことこそ、重要だと湯浅先生は話します

便利な反面、健康への影響が心配されている「スマホ育児」。

どうしてもメディアの力に頼らなければいけない場面では、時間制限を設けたり、使用する時間帯を工夫したりするなどして、上手に付き合っていきましょう

 


湯浅正太(ゆあさ しょうた)

・一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて)代表理事

VoicyやYouTubeなど、子育てに役立つ情報を発信!

イーズファミリークリニック本八幡 院長

小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医

一般の小児診療のほか、発達障がいや知的障がいのある子どもたちへの診療もおこなっています!

 

代表作に絵本『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)や『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)
きょうだい(※)という立場で育ち、自分の経験をいかしながら子どもたちやその家族の人生に寄り添いたいと思い小児科医を志す。小児科医となった今、子どもたちが生きやすい社会となるよう、育児に関する情報発信に力を注いでいる。特に「(抱えている困難に)気づかれにくい子どもたち」への「つながり(親子のつながり、人とのつながり、など)」の意義に着目している。
※病気や障がいのある子どもの兄弟姉妹

湯浅正太先生は、Voicyチャンネル「小児科医 湯浅正太 の診察室」YouTubeチャンネル「湯浅正太 (小児科医)」で子育てに役立つ情報を発信しています。

 

 

参考文献
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