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子育てダブルバインドとは?具体例とやめるためのコミュニケーション術

この記事を書いた人

遠藤さおり 遠藤さおり

遠藤さおり

  • 社会福祉士

大学在学中に社会福祉士・介護福祉士の資格を取得。

知的障害児のレスパイトサービスや高齢者介護施設での勤務を経て、現在は福祉系ライターとして活動中です。

自身も小学生の子の母として、子どもの可能性を伸ばすことを第一に考えながら子育て奮闘中!

福祉の視点を活かしながら、お悩みに寄り添った記事の執筆を目指してまいります。

「好きなお菓子を1つ買ってあげる」と言ったのに、子どもが選んだお菓子を見て、「それはダメよ、他のにしなさい」と言ってしまう……。

よくあるお買い物の一場面ですね。

おもちゃがメインのお菓子だから、洋酒が入っているからと、親なりの理由があってのことですが、子どもの頭の中は、「好きなものを買っていいって言ったのに!」と大混乱。

このようなコミュニケーションは、「ダブルバインド」と呼ばれています。

今回は、ダブルバインドの具体例と、ダブルバインドをやめるための子どもへのコミュニケーション方法をご紹介します。

「え?これもそうだったの?」と、意外だけれど“あるある”な会話もあるかもしれません。振り返りながら、チェックしてみるのも良いですね。

 

目次

1.ダブルバインドとは?

みなさんは「ダブルバインド」という言葉を聞いたことがありますか?

ダブルバインドとは、同時に発せられた2つの矛盾したメッセージの間で「どちらを選んでも不正解」の板挟みの状況となり、メッセージを受け取った側に精神的に大きなストレスがかかるコミュニケーションパターンを指します。

アメリカの文化人類学者・精神医学研究者のグレゴリー・ベイトソンが1956年に提唱した「ダブルバインド理論」に由来するもので、日本語では「二重拘束」と訳される心理学用語です。

ベイトソンは、ダブルバインドが繰り返された場合、コミュニケーションそのものから逃避するようになったり、言葉に隠された意味ばかりに囚われたりするなど、統合失調症に似た症状を示すようになると指摘しています。

親子間では、矛盾した2つのメッセージを受けとめた子どもがどう反応していいかわからなくなってしまい、その結果、親に従ってしまう・親のことを信用できなくなってしまうなどのデメリットが発生します。

そして、その状態が繰り返されると、子どもは自分の頭で考える意欲がそがれ、自分の感情や本音を抑えて親の顔色を伺うようになったり、自信を失くしてしまったりのします。

親から子への一方向的な指示や許可が生じやすい子育て中は、何気なく発した言葉がダブルバインドであることも多いので、注意したいところです。

 

2.子育て「ダブルバインド」パターン別の具体例

それでは、具体的にどのような状態が「ダブルバインド」にあたるのでしょうか。

子育て中によくあるシーンをいくつか例に挙げて見てみましょう。

明らかに矛盾を感じる「典型的なダブルバインド」と、すぐには気づけない「隠れダブルバインド」の2つに分けてご紹介します。

 

2-1.典型的なダブルバインド」の例

まずは、「典型的なダブルバインド」の例を見てみましょう。

冒頭に挙げた「スーパーのお菓子コーナーでのやりとり」のように、言ってしまった親自身も「しまった、矛盾してる!」とすぐに気づくパターンです。

パターン①】

親「明日はどこに行きたい?好きなところでいいよ」

子「ディズニーランドがいい!」

親「それは無理よ!他のところにしてください」

「どこでもいいよ」と言ったものの、予想外の提案に「その気になられては大変!」と急いで否定してしまう。

これは、典型的なダブルバインドの状態です。

最終的に「……じゃあ、どこでもいい」とお子さんがふてくされてしまうことも、少なくないのではないでしょうか?

パターン②】

親「宿題のプリント、どうしてないの?怒らないから正直に言いなさい!」

子「学校に忘れちゃったんだ」

親「どうしてしっかりランドセルに入れないの!」

子(怒らないって言ったのに……)

最初は怒るつもりがなくても、子どもの主張を聞いているうちに怒りがこみ上げてきて、結局怒ってしまう。

正直に言っても言わなくても、どちらを選択しても正解がない(親に叱られる)状態は、まさにダブルバインドです。

「怒らないから」という言葉はつい使ってしまいがちですが、これでは子どもを油断させるための罠になってしまいます

パターン③】

父「先に宿題を終わらせなさい」

母「ちょっと今、手伝ってくれる?」

子(どうすればいいの……?)

親はお互いが発したメッセージに気が付かないこともありますが、2方向からの矛盾したメッセージは、典型的なダブルバインドの状態です。

このような状況に置かれると、子どもはどちらの行動を選んでも指示を守れないことになり、混乱してしまいます

 

2-2.「隠れダブルバインド」の例

子育て中に起こりがちな「隠れダブルバインド」の例もご紹介します。

子育て中は、子どもに指示をしたり、親の望む方向へ誘導したいシーンがありますよね。

隠れダブルバインドは、そのような場面で子どもの心をコントロールするために使ってしまいがちです。

典型的なダブルバインドに比べてわかりづらいのですが、実は、こちらの方が危険性をはらんでいるとも言えます。

パターン①】

(公園で、なかなか帰ろうとしない子どもに)

親「そろそろ帰るわよー」

子「嫌だ、まだ遊びたい!」

親「そう。帰らないなら、勝手にしなさい」

親が帰るフリをすると、たいていの場合、子どもは「待って!」と急いでついてきますよね。

親は子どもが困るのをお見通しなので、即効性がある声掛けを使ってしまいがちです。

では、「勝手にしなさい」という言葉をそのまま受け取った子どもが「じゃあ、勝手にする」と遊び出したら、どうでしょう。

置いて行くわけにもいかないので、「何を言ってるの!帰るわよ」と、手を引いて帰ることになりますよね。

多くの場合、子どもが親の言葉に従うことになるので気づきにくいのですが、「言っていること」とその裏にある「親の真意」に矛盾が生じている状態もダブルバインドなのです

パターン②】

親「ゲームしてもいいわよ」

(数時間後。いつまでもゲームをやめない子どもに)

親「いつまでゲームしているの!もうやめなさい」

親からすると「まさかこんなに長くやるなんて!」と思うような状況に、さすがに声を掛けずにはいられませんよね。

しかし、子ども目線で考えると「ゲームをやっていいと言われたのに、突然やめなさいと言われた」というダブルバインドの状態なのです。

親と子の間で、「このぐらいだろう」という時間の目安に差異があるのが原因ですが、子どもは混乱してしまいます

パターン③】

(勉強や習い事に身が入らない子どもに)

親「やる気がないなら、やめてしまいなさい!」

この声掛けも、子育て中はしてしまいがちですよね。

一見、子どもに決定権をゆだねているように見えますが、子どもに「じゃあ、やらない」の選択肢はほぼなく、多くの場合は「頑張って取り組む」ことになります。

子どもが反抗せずに頑張りだすと、親は「作戦成功!」と思ってしまいますが、これはダブルバインドを使った脅し文句によって、親の指示から逃れられない状態に置いているのです

パターン④】

親「しっかり片付けをしないと、小学生になれないよ!」

進学や進級を利用したこのような声掛けも、親の言動と考えが一致していないダブルバインドの状態です。

子どもに漠然とした不安を植え付けるだけで効果がないことに加え、「そんなはずはない」ことが分かってくると、親への不信感が大きくなります。

隠れダブルバインドは、やり取りの中で明らかな矛盾が生じる典型例とは違い、結果的には親が望んだ答えを子どもが出すので、気づきにくいのが特徴です

即効性があるため、「何度言ってもわかってもらえない」「ゆっくりと説明する時間がない」というシーンの多い子育て中に、無意識に使ってしまいがちですが、子どもへの影響を考えると控えるのがベストです。

 

3.ダブルバインドのデメリット│知らずに子どもを悩ませる危険性

子どもが矛盾の間で板挟みになったり、選択権のない声掛けに従わざるを得ない状況に追い込まれる「ダブルバインド」。

具体的には、どのような危険性があるのでしょうか。

 

3-1.親子の信頼関係が失われる

「言っていることとやっていることが違う」というダブルバインドの状態を繰り返していると、子どもは親を信頼しなくなります。

即効性のあるように見えるダブルバインドを使った指示や誘導は、結局は親に都合がよい脅しや脅迫であり、子どもの意思や行動を良い方向へ導くものではありません。

本質的な解決になっていないだけでなく、親子の間に溝を作る原因になりかねません

矛盾のない一貫した姿勢で子どもとコミュニケーションを図りましょう。

 

3-2.子どもが自分で考える力がなくなる

ダブルバインドで自分の意見や行動を否定され続けていると、子どもの自己肯定感(ありのままの自分を大切だと思える感覚)が低下し、自分で考える意欲がそがれてしまいます。

加えて、選択肢のない状態に追い込まれることで、自分の意思とは関係なく、親の望んだ行動をとるようになってしまうのです。

隠れダブルバインドのいちばんの危険性は、この部分にあります。

親は子どもの意思を尊重しているつもりでも、知らず知らずのうちにダブルバインドを使って子どもを思い通りに操っているケースがあるので、注意したいですね

 

3-3.子どもも脅しをするようになる

親がダブルバインドを使って子どもと接していると、子どもも脅しを使ったコミュニケーションパターンをとるようになります

例えば、「一緒に遊ぼう。おもちゃ貸してくれる?」と言えばよい場面でも、「おもちゃ貸してくれないと、一緒に遊ばないよ」と言うなど、無意識のうちにダブルバインドの言い回しを使ってしまうのです。

子どもは親とのやり取りから人間関係の築き方を学びます。

きょうだいや友だち、親に対してこのような発言があった場合は、親自身の行動を振り返ってみる必要があるかもしれません。

 

4.ダブルバインドをやめたい!子どもを尊重した適切な5つのコミュニケーション

 

ここからは、「ダブルバインド」にならない対応のヒントを5つご紹介します。

声掛けを工夫するだけで子どもに伝わりやすくなり、長い目で見たときにも自己肯定感や自律性が育まれる効果が期待できます。

 

4-1.子どもの思いに共感する

ダブルバインドにならないよう、親が譲歩して「矛盾した状況」を回避できれば良いのですが、とっさの時などは難しい場合もありますよね。

そのようなときは、まず子どもの思いに共感する一言を加えて、考えや気持ちを尊重している姿勢を見せましょう

その上で「なぜダメなのか」を伝えると、子どもは自分の意見を否定されたと感じることがなく、その後の言葉もスムーズに届きます。

例:

「それはダメよ、他のにしなさい」

「そっか、これが欲しいんだね。

でもね、これはお酒が入っているから、子どもは食べられないの。

この棚の中から選ぼうか

 

4-2.言葉を省略しない

ダブルバインドが生じてしまいやすい背景には、「子どももわかってくれているだろう」という親の期待があります。

しかし、子どもは他者の意図を汲み取る力が未熟で、言葉通りの意味で受け取ってしまうことも多いですよね。

ダブルバインドの状態を作らないためには、子どもへの言葉掛けを省略せず、正しく伝わりやすい言葉を選ぶことが重要です

省略したり、即効性のある言葉を使ったりせず、丁寧に伝えることでダブルバインドを防ぎましょう。

例:

「整理整頓できないと、小学生になれないよ」

「小学生になったときに困らないように、今のうちに整理整頓の練習をしておこうね」

 

4-3.ルールを共有しておく

ダブルバインドにならないためには、子どもと前もってルールを共有しておくことが大切です。

親子間で共通認識があれば、言動の一貫性が保てるだけでなく、そもそも親が子どもを注意するような場面も減るのがメリットです

ルールは最初に決めておくのがベストですが、難しい場合は、一度アナウンスを挟んでワンクッション置きましょう。

子どもも混乱せずに行動に移すことができます。

例:

「帰らないなら、もう勝手にしなさい」

「4時になったら帰ろうね」

「あと5分だけね」

 

4-4.選択肢に条件を設ける

親が一方的に子どもに指示をするのではなく、子どもが主体的に物事を決められるようにサポートできたら理想的ですよね。

しかし、子どもには親の意図や現実的かどうかの判断がつかないことも多く、予想外の回答が返ってくることも。

意図せず、ダブルバインドになってしまうことを防ぐためにも、子どもがどのような選択をしても肯定できるよう、予め条件を設けておくのもオススメです

例:

「明日はどこに行きたい?好きなところでいいよ」

「明日はどこに行きたい?(あまり遠くない)市内の動物園や公園なら行けそうだよ」

 

4-5.非言語メッセージにも注意を払う

ダブルバインドは、2つの矛盾したメッセージの間で起こりますが、それは言葉だけとは限りません。

子どもは「言葉と態度」の矛盾を敏感に察知し、親の言葉の裏側を読み取ることもあります。

ダブルバインドにならないよう、表情・声色・仕草などから伝わる「非言語メッセージ」にも注意しましょう

例:

「手伝ってくれてありがとう!」と目を見ずに言う

「手伝ってくれてありがとう!」と目を合わせて伝える

 

5.今からでも大丈夫!ダブルバインドを打破して子どもの力を伸ばそう!

決して脅しているつもりはなくても、子どもが親に従わざるを得ない状況に追い込まれてしまう「ダブルバインド」。

親なら誰しもやってしまいがちな言動も多く、「脅し育児」になってしまうリスクがあります。

まずは、子どもとの間でダブルバインドを頻繁に使っていないかを振り返り、言い回しを変えることからはじめてみましょう。

即効性のある言葉は、親の言うことを聞く従順な子に育てることはできても、自分自身の意思で物事を決められる自律性のある子を育てることはできません。

子どもの気持ちを受け止めながら、根気強く付き合っていきましょう。

 

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