【公認心理師解説】3歳まではしつけよりも愛着形成を優先する理由
この記事を書いた人
相楽まりこ
- 公認心理師
- 臨床心理士
幼稚園・保育園の巡回相談員・小中学校のスクールカウンセラーなど心の専門家として子どもの発達過程を幅広くサポートしてきました。
日々子育てを頑張る親御さんに笑顔の時間を増やしてもらうことが最大の目標です。
1歳、2歳、3歳と子どもが成長すると、徐々に外の世界とのかかわりが増えていきます。
すると、「親としてちゃんとしつけをしなければ」「マナーやルールを教えるべきだ」、そんな気持ちが強くなる親御さんは多いと思います。
とくに、子どもの「かんしゃく」や「感情コントロールの悪さ」を目の当たりにすると、どこまで厳しく注意していいのか、戸惑うことはありませんか?
ついカッと激しく怒ってしまい、その後自己嫌悪になるという悪循環にはまっている親御さんもいらっしゃるかもしれません。
しかし、実は3歳までは厳しくしつけることよりも、親子の間の信頼関係、愛着形成に力を注ぐことの方が大切だと言われています。
今回の記事では、なぜしつけより愛着形成が優先なのか、また、愛着を形成するには具体的に何をすればよいのか、専門家が分かりやすく解説します。
目次
1.3歳までは愛着形成が最優先でOK
3歳までは何よりも優先した方が良いといわれている「愛着形成」。
愛着とは具体的に何を意味するのか、また、どうやって愛着を形成していくのかをお伝えしていきます。
1-1.愛着形成とは
・愛着とは何か
まず、「愛着」について説明していきましょう。愛着とは、乳幼児期に養育者との間で築かれる、絶対的な信頼感です。
親や特定の養育者からのたゆまぬ愛情を受け、大切にされることでつながる情緒的な絆とも言えます。
子どもの人間性の健やかな発達にとって欠かせない基盤となります。
・愛着が形成されるプロセス
愛着形成は、生後6か月頃の赤ちゃんが「この人が自分のお世話をしてくれる人だ」と、養育者を識別することから始まります。そこから、養育者に自分を守ってもらう、お世話をしてもらおうと「愛着行動」をとります。
例えば、抱っこをねだったり、親の姿が見えなくなると泣いて探したりする行動です。
生後6ヶ月頃から始まり、2歳頃まで続きます。この時期に親がしっかり愛情をもって接することで、愛着形成が完成します。
1-2.早期の厳しすぎるしつけと愛着障害のリスク
・愛着障害とは何か
愛着障害とは、乳幼児期に何らかの理由で養育者との間に愛着が形成されず、子どもの情緒面や対人関係に多くの課題が現れる状態です。
虐待などの不適切な養育や、養育者が安定せず何度も変わってしまうことで、安定した愛着の形成ができずに成長すると、愛着障害のリスクが高まります。
愛着形成が大事な時期は0歳から2歳までです。 この時期にしつけと称して子どもの発達段階にそぐわない厳しい関わりを続けることも、愛着障害になるリスクを生み出します。
0歳から2歳頃までは、子どもが自分の行動とその結果の因果関係を理解する能力が弱い時期です。
厳格なルールや罰を設けても、意味が理解できずただストレスや混乱を感じるだけになることが多く、愛着の形成を阻害する可能性があります。
・愛着障害の症状
愛着障害の症状としては、児童期や思春期、そして大人になってからも、情緒面や対人関係に影響が現れます。
情緒面では、感情コントロールが難しい、もしくは感情を抑え込み自分の感情が分からなくなる、などの問題が起こります。
対人関係では、他者を心から信頼することが難しく、不安を感じたり過度に依存したりする問題が起こりがちです。
自分の価値を認識できず、自暴自棄な言動が見られたりもします。 そこからうつ病などのメンタル不調を起こす可能性もあります。
ただし、これらはあくまで一例です。実際の症状は個人の状況や経験によってさまざまです。 専門家の意見なしに愛着障害と決めつけることのないようにしましょう。
1-3.心の安全基地を作ることの大切さ
・2歳までに獲得したい心の安全基地
心の安全基地とは、子どもが不安・恐怖を感じた時に逃げ帰れる安心・安全な場所のことで、自分以外の他者を認識し始める生後6か月から形成が始まり、2歳頃までに基盤が完成します。
「この人といれば大丈夫」「この人は自分のことを分かってくれる」という存在がいることが大切です。
心の安全基地が形成されると、その基地を拠点として安心して行動ができるようになります。
安全基地は必ずしも親でなければならないわけではなく、親以外でも、子どもが信頼して頼れる大人が存在することが重要です。
・大人になっても大切な心の安全基地
心の安全基地となる存在がいない、もしくは揺らいだ状態のままだと、子どもは心から安心できる場所がない状態となり、愛着障害に陥ります。
心の安全基地がないと大人になってからも苦労することが多く、人を信じられなかったり、自分を信じられなかったりすることで、対人関係が安定しません。
不安や悲しみといった感情に対する対処もうまくいかず、精神的に不安定になることが多くなります。
こうした状況を避けるためにも、2歳までに心の安全基地を作り子どもが安心して行動できるようにしておくことが大切なのです。
2.乳幼児期に愛着形成を促進する関わり方
ここからは、乳幼児期に愛着形成を促進するためにはどんな関わりが大切なのか、乳児期・幼児期に分けてより具体的に解説していきます。
2-1.乳児期に必要な親の関り方
触れ合う
抱っこで肌と肌を合わせる、ベビーマッサージで足を撫でる、手や指を握るなどが効果的です。
言葉かけ
毎日くりかえし「大好きだよ」「生まれてきてくれてありがとう」などの優しい言葉をたくさん伝えていきましょう。
「ここにいるから安心してね」など、安心安全を伝える言葉も有効です。
目を合わせる
触れ合ったり言葉をかけたりするときは、赤ちゃんの目を見つめてあげることも大切です。
赤ちゃんとしっかり見つめあい、微笑みあうことが愛着形成につながっていきます。
2-2.幼児期に必要な親の関わり方
基本的に、乳児期と同様の関りが大切です。
中でも、言葉の意味を理解できるようになってくる年齢なので「言葉かけ」の重要度が増してきます。
また、加えて意識したいポイントは言葉を伝える時の表情です。
乳児期より相手の表情から気持ちを読み取れるようになっていますので、言葉と表情が一致していることも大事です。
安心を伝える言葉かけをするときは、穏やかに微笑みながら伝えられると、愛着形成が促進されるでしょう。
更に、子どもが不安を感じているときの対応も大事です。
子どもが何か不安を示したときは、大人が一緒に不安になったり叱責したりするよりも、落ち着いて「大丈夫」「安心して」というメッセージを発信できるとよいです。
「この人は不安な時に自分を安心させてくれる人だ」と感じ、次第に安心や信頼を抱くようになります。
2-3.愛着形成ができたかどうかを知る4つのポイント
1. 情緒の安定
0歳から2歳までの間に愛着形成がうまく行われた子どもは、情緒が安定します。
感情コントロールが上手になり、ネガティブと言われるような感情も、上手に受け入れて対処することができるようになります。
2. 信頼感の芽生え
母親が少し離れ目の見えない所に行っても、慌てたり不安になったりすることが無なくなります。
見えない所にいても、母親は絶対に自分の所に戻ってくる、見捨てられることはないという、確固たる信頼を獲得したからです。
3. 他者の気持ちの理解
愛着が形成されると、他者にも感情があること、それを自分のことのように思いやる気持ちも育ちます。
母親が悲しそうな顔をしていたら気になったり、お友達が泣いていると、どうしたのかなと心配したりするようになります。
4. 自信のある言動
愛着形成がうまくいくと、子どもは自信をもって様々なことにチャレンジできるようになります。
たとえうまくいかなかったとしても、へこたれることなく、成功するまでチャレンジします。
あなたならできる、と自分を信じ勇気づけてくれる安全基地があるから、自信をもって行動ができるのです。
3.愛着形成の上に成り立つ!年齢別のしつけ方
親の存在が子どもにとっての安全基地となり、親子の間に愛着がしっかりと形成されると、親のしつけの言葉も子どもに届くようになります。
ここでいうしつけとは、『人間社会や集団の規範、規律や礼儀作法などの慣習に合った立ち振る舞いができるように指導すること』です。
できなかったからといって罰を与えたり、一方的に叱責したりする行為は含まず、あくまで礼儀作法や社会的マナーを身に付けてもらうための教育的な関りのことを意味します。
3-1.0~1歳児のしつけ
0歳や1歳で行われるしつけというのは、ここまで記事を読んでくださった方はお分かりの通り、実はほとんどありません。
まだ、愛着形成が始まったばかりです。社会や集団の規範や規律、礼儀作法を教えるという段階ではありません。
むしろ、この時期からマナーだといって厳しく何かをしつけようとする行為は、一歩間違えば虐待になりかねないので注意が必要です。
まずは、赤ちゃんと触れ合う時間を増やし、触れ合い、言葉、目線でからたくさんの愛情や安心を伝えることに注力していきましょう。
3-2.2歳児のしつけ
2歳児はイヤイヤ期に突入します。イヤイヤ期は子どもに自我が芽生えたからこそ起こる現象で、「自分でやりたい!」「私はこれがしたい!」という意思表示でもあります。
その上、児童館や保育園など、社会集団の中で過ごす時間も増えてくるため、社会性が求められる場面も増え始めます。
そのため、「自分がしたいこと」と「社会的ルール」が相反するような場面でかんしゃくを起こしたり、反抗的な態度をとったりすることもあるかもしれません。
このような発達段階を踏まえると、2歳児のしつけのポイントは以下の通りです。
・「自分でやりたい」気持ちを尊重してあげる
・必要最低限の社会的ルール「人を傷つけない、自分を傷つけない、物を壊さない」を教える
親が子どもを脅したり、無理やり力づくで完璧なマナーやルールを身につけさせたりしようとするのは、愛着形成にとってマイナスです。
完璧は求めず、何か失敗しても「これは子どもの成長過程だ」という心構えで見守ってあげられると良いでしょう。
3-3.3歳児のしつけ
3歳児になると、言語表現がますます豊かになり、体の動きもより活発になります。 お友達との関係も広がりますので、社会性も一気に発達していきます。
この時期のしつけも、基本は2歳児の時と同じように「自分でやりたい気持ちの尊重」と「最低限の社会的ルールを教える」を意識して継続すると良いでしょう。
これまでの成長過程で愛着形成がしっかり行われていれば、難しいルールやマナーについても、親が順を追って真剣に説明すれば、子どもは親の言葉に耳を傾けます。
信頼できる人からの言葉ですから、少し厳しい内容でも、自分を傷つけるために話しているわけではないと理解できるようになるためです。
言葉に対する理解力も一段と進んでいるでしょうから、いわゆるしつけがようやく通じる年齢になった、と言えます。
伝え方としては、一方的に指導するよりも「あなたはどう思った?」「どうしたらよかったと思う?」など、子どもの意見も聞きながら、細かいルールやマナーを伝えていけるのがよいでしょう。
4.しつけは愛着形成ができてからで十分間に合う
お伝えしてきた通り、0歳~2歳の間は愛着形成を優先し、しつけを行うのはその後で問題はありません。
親は子どもの落ち着きがない行動に対し、しつけが大事と思ってつい厳しく対応してしまいがちですが、早すぎる厳しい叱責は愛着形成を阻害し、その後の子どもの精神面に悪影響を残すかもしれません。
0歳から2歳までの間は、ハグをしたり微笑みかけたり、「大好きだよ」と言葉をかけてあげる関りをできるだけ増やしてあげてください。
親から愛されていると確信が持て、愛着が成立した3歳以降であれば、親の言葉も子どもに届きやすくなりますので、子どもの意見も聞きながら社会的ルールを伝えていきましょう。
参考文献
・文部科学省「 子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」
・厚生労働省 「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 一時保護所職員に対して効果的な研修を行うための調査研究」
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