もしかしてへリコプターペアレント?過保護になりすぎない見守る子育てとは
この記事を書いた人
田中ケイコ
- 保育士
- 子育て支援員
芸術を通した児童の情操教育を専攻し保育士と博物館学芸員の資格を取得。
博物館に勤務したのち家族の仕事でカナダに3年滞在。
帰国後プリスクールに就職。
その後同スクールのネイティブ講師とともに幼児英語の親子クラスを担当し20年勤務。
子育て支援員にもなり、現在は職場にて0~1才の親子のための子育て支援(育児相談・ママ友作り・絵本・日本語や英語の手遊び紹介)の活動を開始しました。
「良かれと思って、子どもに何でもしてしまう」
「もしかして、自分の子育ては過保護すぎるかも?」
「子どもの行動に、どこまで親が口を出すべきかのラインがわからない」
そんなお悩みをお持ちではありませんか?
行きすぎた親の子どもへの行動は、過保護・過干渉と言います。この言葉を聞いて、よくないイメージを抱くこともあると思います。一方で、過保護・過干渉に子どもに接してしまうのは子どもを大切に思うがゆえの行動であったり、真面目なパパ・ママの性格が影響していたりすることもあるでしょう。
最近ではそういった子育ては「ヘリコプターペアレント」と呼ばれています。この「ヘリコプターペアレント」は過保護・過干渉というだけでなく、自分では気がつきにくいという点が大きな問題です。
今回は
- ヘリコプターペアレントとは何か
- 具体的に子どもにどんな影響を与えるのか
- 子どもの成長段階にあわせた子どもへの適切な干渉
についてご紹介します。
目次
1.ヘリコプターペアレントとは?
「ヘリコプターペアレント」という言葉に耳なじみのない方もいるのではないでしょうか。
まずは「ヘリコプターペアレント」とはどういう状態を指すのか、子どもにどんな影響を与えるのかを解説します。
1-1.ヘリコプターペアレントの意味
ヘリコプターペアレントとは、常に子どものそばにいて行動を監視したり、失敗経験をさせないようにすぐに手助けをしたりする保護者の様子を指します。これは「親が、ヘリコプターがホバリングするように常に我が子の頭上に待機して監視し、何か起きたらすぐに急降下して助ける」という例えが由来です。
このような保護者の行動が過剰になると、子どもが失敗する経験ができないまま成長してしまうと問題視されています。
本来、子育てにおいて子どもが悲しい思いや失敗をしないようにと安全や成功を願うのは、我が子への愛情からくるものであり、どんな親でも持つ感情です。
しかし、その思いが過剰になりすぎると、子どもの為を思ってする行動が逆に、子どもの健全な成長を妨げてしまう恐れがあります。
1-2.ヘリコプターペアレントが子どもに与える影響
本来ならある程度の「保護」や「干渉」は、子どもの成長に必要なものであり、子どもの安全や成功を願う意図からの行動で、好ましいはずですよね。
それでは、親が過剰な過保護のヘリコプターペアレント育児だった場合、子どもにはどんな影響が出るのでしょうか?
1:自分で課題を解決できない
研究結果によると、ヘリコプターペアレントの育児は子どもの独立心と自己効力感の低下につながります。
親がいつまでも子どもを危機から助け続けることで、子どもは落胆や挫折のストレスに対処する方法を学べず、その結果、その後の人生で直面する難題に自分で立ち向かうことが難しくなってしまいます。
2:自己肯定感が低くなる
心配のあまり子どもに対して発してしまう、「これはダメ」「だからこうなるのよ、こっちにしなさい」「危ないからやめなさい」といった親の否定的な声かけもヘリコプターペアレントの特徴です。
これにより、子どもは自分の選択に自信がなくなり、その繰り返しによって自信が持てずに自己肯定感が低くなってしまいます。そんな自分を嫌いになったり、ネガティブ思考になったりすることから、常に誰かの顔色を伺い自分の意見や希望を主張できないまま成長してしまいます。
3:精神的に不安定になりやすい
行動や考えを否定される言葉掛けを多くされることで、自分に自信を持てず、ネガティブ思考から心は不安定になります。また、絶えず監視する親の期待に応えようと顔色を伺い、完璧を目指す思考になることから、苦しさ、無力感、絶望感、怒りのストレスを受けやすくなります。
4:燃え尽き症候群になりやすい
フロリダ州立の大学の研究チームは「ヘリコプターペアレントに育てられた子どもは『燃え尽き症候群』になりやすい」という研究結果を発表しました。
親が子どもの失敗体験を回避させると、子ども自身はその体験ができずにストレスに対処する方法がわからないまま成長します。自分にとって重要な決定を全て親が下していると感じ、全てが親のものであると子どもが思ってしまい、努力や成功に対するモチベーションを失いがちになります。
その慢性的な疲労感にさらされることによる過度のストレスから、子どもたちは無力さや絶望感で燃え尽き症候群になりやすい傾向があります。つまり、学生の場合は学問への努力をしなくなり、中退してしまうこともあるということです。
ヘリコプターペアレントの親を持つ学生ほど、学校における燃え尽き症候群のレベルが高いと言われています。
5:子どもの社会性に影響を及ぼす
親が子どもの様子を絶えず監視し、いつも側にいるので、子どもが仲間から疎外されるなど子どもの社会性の発達をも阻害してしまう危険があります。
2.ヘリコプターペアレントチェック~こんな行動していませんか?〜
「もしかして私もヘリコプターペアレント予備軍じゃない?」
「どこからが過保護・過干渉なの?」
上記のように感じた方もいるかもしれません。
ここでは簡単なチェックリストと、ヘリコプターペアレントの具体例を解説するので、子どもとの関わり方を振り返ってみましょう。
2-1.ヘリコプターペアレントチェックリスト
まずは簡単なチェックをしてみましょう。
- 子どもの宿題に口をだす
例)親がストレスを感じたくないために子どもの宿題を完璧にしようと全部チェックする
- 子どもができる簡単なことを親がやってしまう
例)年齢的にもう自分でできそうな身の回りのことや片付けまで親が干渉してしまう
- 子ども同士のトラブルに必要以上に関わる
例)ケンカが起きたとき、先生や友だち、習い事のコーチなどに連絡を取って、やり過ぎな関わりをしてしまう
- 子どものことが最優先になりすぎる
例)親の予定を取りやめてでも子どものスケジュールに合わせる
- 子どもが出かける時にどこへでもついていく
例)子どもが自分で歩いて行けそうな距離の場所へも車で送迎する
- 子どもの予定を親が決めすぎる
例)親が決めた子どもの毎日の予定や活動をするように求める
2-2.ヘリコプターペアレントの具体例
次に、ヘリコプターペアレントの具体例をご紹介します。
同じ対応や、似たようなシチュエーションで思い当たることがないか考えてみましょう。
①子どもがすべき問題解決を奪ったり、子どもに尽くしすぎたりしている
例)
- 友だちが使っているおもちゃを子どもが欲しがった時、我が子のために親が行動してしまう
まずは「貸してって言ってみようか?一緒にお願いしてみる?」といった言葉掛けなどの手助けでなく、「あれが欲しいの?ママが借りてきてあげるね!」と言ったように親が先に行動して渡してしまう - 子どもの遊び方に口出ししてしまう
「これはこうやって遊ぶのよ、こうじゃないの」と子どもの自由な遊びを親が先に誘導してしまう
本来、適度な声掛けは大切ですが、子どもから聞かれたり助けを求められるまで自分で考えてみるチャンスを与える、自分で好きなように自由に考え、その遊びに集中するという経験をさせることも大切です。
②子どもが失敗や決断をするチャンスを奪ってしまっている
例)
- ある程度、自分のことは自分でできるのに、学校や習い事の忘れ物をしないように持ち物などを親が準備したり、届けたりする
もちろん入学したばかりの時期や、親が一緒に準備をする必要がある時の行動であれば問題はありません。また、どうしても必要なと時は忘れ物を届けることもあるでしょう。
ここで大切なのは、忘れ物をした時に下記のような選択肢の中から、「今、自分はどうしたらいいのか?」「失敗にどう対処するのか?」という決断する経験を提案できているのかということです。
- 先生に相談する
- 友だちに借りる
- 自分で気がついて家に取りに帰る
- 自分から連絡して家族に持ってきてもらう
子どもが考える間もなく親が行動してしまうことで、失敗や恥ずかしさから学び、自分で注意し、選択し、決断するチャンスを体験できなくなるのです。
③子どもに親の理想を押し付けたり、行動を監視したりしている
例)
- 「自分が苦手だったから、子どもはそうならないようにしたい」「自分ができなかった夢を子どもにはやらせたい」という思いから、「毎日この練習や勉強、習い事をしなさい」と子どもを過剰に縛り付けてしまったり子どものスケジュールを管理しすぎてしまったりする
- 友だち選びや付き合いまで細かすぎるほどチェックをし、口をだす
この行動が行き過ぎると、子どもがひとりで行動できる年齢になっても密に連絡を取りたがったり、SNSまでチェックするようになるといった行動につながります。
3.ヘリコプターペアレントと◯◯ペアレントの違い
「ヘリコプターペアレント」という言葉を聞いて、他にも「○○ペアレント」という言葉を思い浮かべた方もいるのではないでしょうか。
問題とされている特徴的な◯◯ペアレントは他にもいくつかあります。
・カーリングペアレント
文字通りスポーツの「カーリング」からきています。ストーンの行き先を、デッキブラシで擦って滑らせるように先回りして進行方向を誘導するイメージです。
へリコプターペアレントは子どもを監視し、子どもの危機にすぐにかけつけて助けてしまうことで、子どもに失敗する経験をさせず、結果失敗から学ぶチャンスを奪ってしまう過保護な子育てです。
それに対し、カーリングペアレントは、親が我が子のために良かれと思った方向に先回りして誘導し、子どもが自分で決める・選ぶといった判断のチャンスを奪ってしまう過干渉が特徴です。
・モンスターペアレント
この言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。幼稚園・学校・習い事など、子どもが日常で参加する様々な場面において、親が子どもに関する過度な申し出やクレームをする行動です。
これは、へリコプターペアレントのように失敗を回避するというだけでなく、子どもの評価、立場をよくしたいといった強い思いも影響しています。
4.脱ヘリコプターペアレント!子どもの成長に合わせた適切な関わり
へリコプターペアレントにならないために意識したいことを3つのポイントにしぼって紹介します。
具体的にどのようにしたらよいか一緒に考えてみましょう。
4-1.意思を決める力を育てる
子どもは2歳頃には、2つの選択肢から1つを選択できるようになります。例えば、2種類の味のジュースから1つを選ぶことができます。4歳になると、4つの中から1つ選べるようになっていきます。
自分で考えを決める力である意思決定力は、子どもが達成感を味わうためになくてはならないものです。
何色のクレヨンで描くか?どちらのおもちゃがいいか?など、日常生活の中に、意思決定力を育むチャンスは小さな頃からいくらでもあるのです。
意思決定力が育まれることで、その意思に基づいて実行する力も備わっていきます。
例)
- 幼稚園や小学校低学年では洋服を自分で選ばせてみる
- 食事のメニューから食べたいものを自分で選ばせる
- お出かけの時に電車で行くか?歩きか?を選ばせる
最初はいくつかの候補の中から選ばせ、徐々に自分で考えて選ぶようにしていきましょう。親は自分で決められる環境を子どもに用意し、選択する楽しさを教えることが大切です。
もう少し大きくなったら、下記のシチュエーションも考えられます。
例)
- 部活を子ども自身が選ぶ
- 進学する学校を選ぶ時に、子どもの最終的な希望を聞く
「親のいいなり」でなく、ここに親子の話し合いが成立します。日常にある選択の場面で、親はメリットやデメリットを伝えてアドバイスはしても、最後に決めるのは子ども自身です。
自分で決めたことをやらせてもらえたという経験は、たとえそれが失敗しても、自分で決められた!やり遂げたから悔いはない!いいと思ったけど、次は別の方法に挑戦しよう!と、自己肯定感と意思決定力を育てることができます。
4-2.子どもの自己肯定感を高めよう
自己肯定感とはわかりやすく言えば、子ども自身が「生まれてきてよかった」と感じることです。
はじめから自己肯定感の低い子どもはいません。バカにする・無視される・怒りをぶつけるといった接し方をされると、自己肯定感は下がっていきます。子どもは素直なので、特に最も身近な母親に否定されると自己肯定感を見失ってしまいます。
大切なのは「やればできる!」「すごいね!」「よくできたね!」という成功体験を積み重ねること。
この体験をすると「自分が大好き!」「やればできるんだ!」という気持ちが、子どもにとって生きる大きな力になるのです。
子どもたちが成長した時に、社会的成功や幸せだと思える人生というのは、「自分は自分でよかった!生まれてきてよかった!」と感じることです。それには、関わった大人の人間力にかかっています。
大人は「何それ、ヘンだよ」「そんなのムリに決まってるでしょう」などと子どもへの声かけをするのではなく、子どもの自己肯定感を見守り育てられるポジティブな声かけ言葉へ変換させましょう。
例えば、以下のように変換できます。
- 「忘れ物しちゃダメでしょ!」は「一緒に持ち物チェックしてみよう」に変換
- 「うるさいな!黙りなさい!」は「元気ねー!今は静かにしょうか!」に変換
他人と比べず、こまめに褒めることも大切なポイントです。
そして、お母さん自身が自己肯定感を失わないことも大切です。子どもたちが自己肯定感をはぐぐむ最大の力は、お母さん自身が「この子がいてよかった」と思える自己肯定感からです。
4-3.子どもの共感力を高める声掛けを
自己肯定感や意思決定力と共に、養ってほしいのは共感力です。共感力とは、誰かの気持ちに寄り添い自分のことのように喜んだり悲しんだりすることで、誰かを幸せにできる素敵な力といえます。
子どもに共感力を持ってほしいなら、まず大人が上手な声かけをします。大人は、子どもの行動を大人の尺度で測ってしまいやすいため、子どもに寄り添った上手な言葉かけをしましょう。
例えば道で転んだら、「痛くない!我慢できるよ!」より、「痛かったね、大丈夫?」というふうに、まずは寄り添って共感するのです。
褒める時にも「そうだね!その通りだね!やったねー!」と共感を込めて言いましょう。
4-4.ヘリコプターペアレントにならないために
親が心がけたい子育てにいちばん大切なことを参考に、ヘリコプターペアレントにならないように意識したいこと、もしくはもうすでにヘリコプターな子育てをしてしまっていたら試していただきたいことをご紹介します。
過保護や過干渉は、子どもが安全に、失敗して悲しい思いをしないようにといった子どもへの愛情からなので、親としてはなかなかハードルが高いかもしれません。しかし子どもが将来、自分に自信を持って、自ら選んで決めて歩んでいけるように、親がサポートすることが大事です。
次の3つを意識してみることから始めてみましょう!
- アドバイスをやめてみる
子どもへの(過度な)アドバイスをやめて見守り、子どもから質問やアドバイスのリクエストがあるまで待ってみましょう。 - 失敗させる
失敗は子どもの自信を育てるとともに、失敗を乗り越える感情をコントロールする力もつきます。放任するということではなく、まずは小さな失敗体験から見守ってみましょう。 - 子どもにチャレンジさせる
危険がある時は、もちろん安全のために介入やアドバイスはするけれど、それ以外は子どもの選んだチャレンジを見守ってみましょう。
5.ヘリコプターペアレントは、気がつけば今からでも適切な方向へ戻せる
ヘリコプターペアレントとは、子どもを大切に思うあまり過剰にサポートしてしまうといった、やりすぎた行為のことでした。つまり、大切なのはやり過ぎないようにすることです。
ヘリコプターペアレントであることに気がつけば、その瞬間から、適切な方向へ導くことが可能です。
筆者の個人的な体験談ですが、娘が大学受験を終えた際「お母さん、干渉しすぎないでいてくれてありがとう!おかげで私は自分のペースで受験を乗り切れたよ!」という言葉がありました。これは親としてサポートは足りていたのか、という不安を払拭してくれる嬉しい言葉でした。
大学受験に向けて子どもとよく話し、勉強を見守りながらも、子どもの方からリクエストがあった時にアドバイスをする方法をとっていました。
親として子どもの幸せな成長のために、たまにやりすぎていないかと家族で話したり、周りのママ友たちと振り返ってみるのがいいですね。そして、子どもがある程度の年齢になったら話してみるのも大切です。
主な参考文献
・Hayley Love, Ross W. May, Ming Cui & Frank D. Fincham (2020)
Helicopter Parenting, Self-Control, and School Burnout among Emerging Adults Journal of Child and Family Studies Volume 29, pages 327–337
関連トピックをご紹介!
・「なんでも確認する子」から卒業!子どもの自信を育むための対応法【実例あり】
・挨拶できない…話さない…。内気すぎる子の気持ちと、幼児期の対応ポイント
・2~3歳児が後追いする理由とは?ママにべったりな子の対応法