感覚過敏とは?子どもが過ごしやすくなる対応法や現場での事例を紹介《チェックリスト付》
この記事を書いた人
工藤りえ
- 幼稚園教諭
- 保育士
幼稚園・こども園にて12年勤務。主にクラス担任と障害児保育を経験してきました。
特に障害児保育に関心を持ち、子どもの自己肯定感を高める関わり方を勉強しています。
小1・2歳の兄弟がおり現在は、ママ向けWebマガジンや保育メディアなどで記事執筆を行っています。
得意なことは、ダンス、歌遊び、読み聞かせ、リトミックです。
「外に出ると極端にまぶしがる」「にぎやかな場所では必ず耳を塞ぐ」など、お子さんが特定のものや場所に敏感な反応をする、そんなお悩みはありませんか?
周囲の子と比べて小さな変化に敏感な様子の我が子をみると、発達や育て方に問題があるのかと心配になる方もいらっしゃるでしょう。
今回は、感覚が敏感な「感覚過敏」のお子さんをお持ちの方へ、児童発達支援の経験を持つ筆者がその原因や対応法を解説します。
感覚過敏のチェックリストも紹介しているので、お子さんの状態と照らし合わせて参考にしてみてください。
目次
1.感覚過敏とは?
「他の子は平気なのに、うちの子は嫌がる場面が多い」そんな悩みを持つママがいます。
もしかしたら、お子さんが敏感な原因は「感覚過敏」かもしれません。
感覚過敏とは、多くの人が気にならない「におい」「音」「光」「触り心地」「味や食感」が強く気になり、嫌悪感を抱いて過ごしにくくなる状態のことをいいます。
症状の度合いは個人差が大きく、過敏に感じる五感も人それぞれです。
ここでは、感覚過敏が具体的にどういった状態のことをいうのか解説します。
1-1.特定の感覚が敏感になりすぎる状態のこと
人は無意識のうちに、常に五感を使っています。
五感には「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の5種類があり、感覚過敏は五感の刺激に敏感で、不快な思いをする機会が多い状態のこと。
1種類の感覚過敏をもつ子もいれば、五感すべてに苦手な感覚をもつ子など様々です。
世の中にはたくさんの音やにおい、物などがあふれているので、あらゆる場所で不快な感覚を味わうと、生活するうえで不快なことが多く、生きづらさを感じることもあるでしょう。
実際に、他の人が気にならない感覚を嫌がる子を持つママは、なにがいけないのか、どうしてあげたらいいのか、悩みますよね。
ここで知っておきたいのが、感覚過敏は「病気とは違う」ということです。感覚過敏はあくまでも症状のことで、薬を使って治療をするものではありません。
ただ、発達障がいの1つである自閉スペクトラム症の場合、感覚過敏の症状が現れる子が多くいます。
その場合、どのようなときに我が子が何を苦手とするのか、子どもをよく観察する必要があります。
1-2.感覚過敏とHSCの違い
近年、HSCという言葉を耳にする機会が増えています。
HSCは発達障がいとは異なり、病名でもありません。HSCは気持ちの面で敏感な性質のことで、正式な診断名ではなく心理学者が提唱したものです。
一方、感覚過敏は精神疾患の判断基準として用いられており、DSM-5(精神障害の診断基準を定める文献)に掲載されている、という違いがあります。
HSCについては、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
・育て方で変わる!ひといちばい敏感で繊細な子ども「HSC」の特徴といいところを伸ばす言葉がけをご紹介
2.子どもの感覚過敏の原因
我が子のためにも、感覚過敏の原因をはっきり知りたいと思われる方は多いでしょう。
ただ、感覚過敏の原因ははっきりと解明されておらず、生まれ持った個性や環境といったさまざまな要因が考えられます。
ここでは、感覚過敏の原因として多く挙げられる3つを紹介します。下記の原因を参考に、お子さんの感覚過敏の原因はなにか、寄り添って考えてみましょう。
2-1.疲れやストレス
子どもは、疲れやストレスを言葉で表現できないためストレスをうまく発散できず、感覚過敏の症状が出る場合があります。
特に、生活習慣の乱れや環境変化があったときは、自律神経が乱れがちです。
睡眠時間を確保する、食生活を見直す、といったことから改善していけるケースもありますので、お子さんの様子を見ながら原因を探り、寄り添った対応ができると良いでしょう。
2-2.気質
元々繊細で神経質な気質の子は、些細なことが気になり環境変化にも敏感なため、感覚過敏の症状が出やすい傾向にあります。
この場合は、成長とともに過敏さが落ち着いていくケースが多いでしょう。
不安感が強い子には、不快と感じる原因を追及、先の見通しを伝えて安心させてあげることで、症状が改善していくこともあります。
2-3.脳の働き
感覚過敏の原因として、脳の働きに何らかの原因がある場合も考えられます。
医学的な解明はまだされていませんが、脳の働きが上手くいかないことで感覚過敏が起こるのではないか、といわれています。
脳の働きが感覚過敏を引き起こすときは、発達障がいとの関係が深いとされています。なかでも、自閉スペクトラム症の子は感覚過敏の症状を持ち合わせていることが多いです。
自閉スペクトラム症は生まれつき脳の働きに何らかの問題があり、他の人が気にならない五感の刺激を強く感じてしまったり、感覚が非常に鈍かったりという場合があります。
感覚過敏の症状が見られる子がみんな発達障がいというわけではありません。自閉スペクトラム症の子に見られる症状の1つに感覚過敏が含まれる、ということを知っていただきたいです。
3.うちの子、感覚過敏かも?チェックリスト
「もしかしてうちの子、感覚過敏?」と不安に思うママへ、感覚過敏のチェックリストを紹介します。
感覚過敏に多くみられる特徴がまとめられているので、ぜひ、お子さんの行動と照らし合わせてみてください。
3-1.視覚過敏チェックリスト
◻︎ 太陽の光やお店の照明を嫌がる
◻︎ スーパーなどにぎやかな場所に行くとパニックになる
◻︎ テレビ画面を見続けると具合が悪くなる
◻︎ 規則的に回り続ける扇風機や換気扇を好む
◻︎ 短時間でも乗り物酔いをしてしまう
◻︎ 「三角の角が怖い」「鼻血が出て以来、真っ赤なものを極端に嫌がる」
◻︎ 人が歩く姿が目に入りすぎて酔ってしまう
◻︎ 規則正しく並べないと気持ちが落ち着かない
3-2.聴覚過敏チェックリスト
◻︎ 人の歩く音や話し声で頭がいっぱいになる
◻︎ 掃除機やドライヤーといった特定の生活音で耳を塞ぐ
◻︎ 予測していなかった大きな声が苦手
◻︎ 普段聞き慣れない大きな音が聞こえるとパニックになる
◻︎ 誰も聞こえない隣の家の生活音や話し声が気になりすぎる
◻︎ 予測していなかった大きな音に驚き平常心を保てない
◻︎ たくさんの音が同時に聞こえるため頭が混乱し体調を崩す
◻︎ 音の聞き分けが難しく全ての音が大音量で聞こえる
3-3.嗅覚過敏チェックリスト
◻︎ 嗅ぎ慣れないにおいが自分から香ると落ち着かない
◻︎ いろいろな人のにおいがする人混みで具合が悪くなる
◻︎ においに敏感で常ににおいを感じとっている
◻︎ 嗅ぎ慣れていないにおいの空間に長時間いることが苦痛
◻︎ 自分にとって嫌なにおいがしないか確認しないと落ち着かない
3-4.味覚過敏チェックリスト
◻︎ 白いご飯は食べられるが何かをふりかけると一切食べられない
◻︎ おにぎりは熱いと食べず冷たい塩むすびのみ食べる
◻︎ トマトを見て泣き叫ぶ、食卓に魚があると椅子に座れない、といった特定の食べ物を極端に拒否する
◻︎ ポテトフライが好きだが特定のファーストフード店のものしか食べられない
◻︎ ラーメンがゴムみたい、カレーライスが泥のよう、といった独特の表現をする
3-5.触覚過敏チェックリスト
◻︎ 綿素材しか着られない
◻︎ タグがあると首の後ろを押さえて嫌がる
◻︎ 人と触れ合うことを嫌がり、身体をのけぞらせる
◻︎ 手をつなごうとすると振りほどき、執拗に拒否をする
◻︎ 砂や水が手に触れたら泣き叫びその場にいられない
◻︎ ママの腕や絵本の表紙のつるつるした部分といった特定の場所を触り続け、触れないとパニックを起こす
◻︎ 1対1で説得しても応じず、泣き叫んで靴や靴下を嫌がる
◻︎ 予期せぬタイミングで誰かに触られると極端に驚き怖がる
4.感覚過敏の子への対応ー保育現場での事例ありー
感覚過敏の子には、適切な対応が大切です。子どもの「苦手」を観察し、しっかり理解したうえで関わることが、子どもが自己肯定感を保ちながら過ごしていける重要なポイントになりますよ。
感覚過敏の子には「苦手とする刺激をなるべく取り除く」「見通しを持たせる」といった対応が適しています。
実際に筆者が経験した保育現場での事例を含めてお話しますので、お子さんの症状と照らし合わせて対応の参考にしてみてください。
4-1.視覚過敏の子への対応
視覚過敏の子は、苦手な視覚刺激を和らげるアイテムを準備すると良いでしょう。極端に眩しがる子には、子ども用サングラスで光を調節できます。
また、人が多い場所やお店に並ぶ商品が多く体調を崩す場合、どのような場所にどれくらいの時間滞在するのか、あらかじめ子どもに伝えておくと安心材料になりますよ。
実際に保育現場で、ぐるぐる回る物が好きな年少Aくんがいました。タイヤや扇風機、換気扇といったものを好み、幼稚園のホールにある換気扇が好きで、毎日保育室から飛び出してホールに行くこともあったのです。
A君の場合、視覚過敏を活かす対応として、「A君が苦手な活動でも5分間保育室にいられたら、ホールで換気扇を見てもいい」といういいルールを設けました。
「少しずつ保育室にいる時間設定を伸ばしてそのあとは好きな時間を過ごす」というルーティンで、A君の活動の幅が広がりましたよ。
4-2.聴覚過敏の子への対応
聴覚に過敏さがある子には、イヤーマフと呼ばれる遮音性のヘッドフォンをつけるのが効果的です。
イヤーマフは、特定の苦手な音や人混みの騒がしさから守ってくれる役割があります。好きな音楽があれば、ヘッドフォンで聴くのもリラックスできますね。
保育現場にも、聴覚過敏の年中Bくんがいました。クラス全員で歌う声が苦手で、歌の時間はいつも耳を塞いで座り込んでいたのです。
発表会を控え、毎日歌の練習を嫌がるBくんに、イヤーマフを装着してもらいました。イヤーマフのおかげで歌声のボリュームが抑えられ、Bくんは歌のステージに皆と立てたのです。
「できた」経験が嬉しかったBくんは、自分の好きな歌をみんなと歌いたい!と教えてくれるようになりましたよ。
4-3.嗅覚過敏の子への対応
ふとした時に香るにおいに敏感な子は、対策が難しいですよね。特定の匂いが苦手な場合、避けられるなら場所を避けるのも1つの手段です。
感覚過敏は慣れで改善することが少なく、苦手な匂いの場所にあえて連れて行くのは本人にとって非常に苦痛です。
「幼稚園はいろんなにおいがして嫌だ」そう言って登園しぶりをしていた年中Cちゃん。よく話を聞くと、お部屋によってにおいが違う、みんなで遊ぶといろんなにおいがする、においがたくさんすると気持ち悪い。とのことでした。
Cちゃんは、いつもママが洗ってくれる洗濯物の香りが大好きでした。そこで、幼稚園にママが洗ってくれたタオルを持参してもらい、匂いがたくさんする場面でポケットからタオルを出して鼻を覆うことにしたのです。
Cちゃんは、苦手な匂いがする場所でもママがくれたタオルがある安心感から、登園しぶりが減っていきました。
安心出来る環境をつくること、見通しをもつことが、Cちゃんには大切だったのです。
4-4.味覚過敏の子への対応
偏食が極端にある子は、味覚過敏なことがあります。味や食感、温度の変化をキャッチしてしまうため、いつもは食べられるのに冷めているから食べられない、といった様子が見られることもありますよ。
まずは、どんな食べ物をどのような状態なら食べられるのかを観察しましょう。もし、「これなら食べられる」という条件がわかり、集団生活にも取り入れられたら良いですね。
保育現場では、白いご飯しか食べられない年中D君がいました。給食の白いご飯はおうちの白いご飯と違う味がして食べられない、と給食の時間を嫌がるようになっていたのです。
そこで、おうちから白いご飯を持参してもらい、皆と一緒に食べるようにします。すると、Dくんは安心したのか少しずつ給食の時間にも笑顔が見られるようになりました。
卒園するまで白いご飯を持参し、年長になる頃には給食のおかずを少し食べられるようになったDくんでした。
4-5.触覚過敏の子への対応
触覚が過敏の子は、感覚過敏のなかでも多く見られます。特に、毎日身につける衣服の素材にこだわりがある子や、砂や泥が苦手な子もいます。
触覚過敏は、できるだけ苦手なものを近づけないようにするのも良いでしょう。
また、東京大学大学院が行った研究に、以下のような記載があります。
刺激を調整して与える方法もある。例えば触覚過敏児に対しては、嫌がらない部分から徐々に範囲を広げてマッサージをすることで、刺激の受け入れの許容力を高めていく。感覚同士の関連性から、ある感覚過敏の緩和に伴い他の感覚過敏も緩和される場合がある
このように、保育現場でも手をつなぐのが苦手な子に少しずつ慣れてもらえるよう、触っても抵抗がない部分からスキンシップをとることがあります。
少しずつ時間をかけて、触れても良い範囲を広げていくと、子ども同士や先生とのやり取りも広がりますよ。
5.子どもの感覚過敏に気づいたら早めの対応が大切
子どもの感覚過敏は、気づかれにくいものもあります。できるだけ早く気づいて子どもの気持ちに共感し、理解を示すことで子どもは安心するため、子どもの様子をしっかりと観察し、原因を取り除いてあげましょう。
自治体の発達相談機関・児童精神科・小児神経科などの専門機関に相談するのもおすすめですよ。
感覚過敏の我が子を見て、不安になるママは多いです。この記事が、悩んでいるママの参考になれば嬉しいです。
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参考資料
・東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース下山研究室「感覚過敏に困り感を持つ発達障害児・者への支援の現状と課題」
関わり方のコツはこちらの記事でもご紹介しています
・「自分で決める!」子どもの自己決定力の育て方や実践例をご紹介
・ABA療育は子どもの発達が不安なママへおすすめ!お家でできる方法や効果を紹介