すぐに命令する子ども~命令する心理と対応方法とは?~
この記事を書いた人
狩野淳
- 公認心理師
- 臨床心理士
大学、大学院にて発達心理学と臨床心理学を専攻していました。
臨床心理士と公認心理師の資格を保有しております。
子ども達とその保護者の方の支援を仕事にしており、子ども達へは主に応用行動分析を認知行動療法用いて、保護者の方にはブリーフセラピーを使ったアプローチを行っています。
もうすぐで1歳になる男の子がいて、毎日癒されています!
「幼稚園や保育園で、お友達に命令ばかりしている我が子が気になっている」
「どうして命令するのか、どうすればやめてくれるのかわからない」
そんなお悩みをお持ちの方へ、命令する子どもの心理と、命令する子への対応方法について、代表的な3つのケースを紹介します。
また、命令されがちな子どもへの対応やアドラー心理学での考え方も合わせて解説していますので、「命令する子・される子」の対応を考える際に、ぜひ参考にしてください。
目次
1.命令する子のケース① 過度な正義感
はじめに紹介するケースは、過度な正義感を持っている子どもの場合です。
正義感を持つことは本来良いことのはずなのに、どうして「命令」に繋がってしまうのでしょうか。
1-1.原因|ルールを守らせようとして命令する
幼稚園や保育園の先生は、常に数十人の子どもを統率しなければなりません。
そのため、どうしても「先生の言うことを聞ける子=いい子」という価値基準が生まれやすいといえます。
すると、子どもは「ルールを守るのはいいこと」「ルールを守らないことは悪いこと」と考えるようになります。
さらに、特に正義感の強い子は「ルールを破る人には、ルールを守らせなければならない」という思考が生まれてしまうのです。
ルールを守らせるために「○○しろよ!」「そんなことするな!」と相手を言葉でコントロールしようとします。
言うことを聞かなければ、手が出てしまうケースも珍しくありません。
また、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向のある子どもは、「白か黒か」「全か無か」の極端な物の考え方をしてしまう傾向が強いため、人当たりが強くなり、対人関係がうまくいかないことが多いとも言われています。
1-2.対応策|大人を介して伝える
正義感が強いことは決して悪いことではありません。しかし、ルールを守ることがすべてではないことも事実です。
とはいえ、このことを理解するのは未就学の子どもにはまだ難しいため、成長に合わせて教えていく必要があるでしょう。
4・5歳の子どもには、「直接言うのではなく、大人に言ってね」と伝えてあげることが対応策の1つです。
大人から伝えることは、子どもの対人関係の悪化を防ぐだけではありません。大人の伝え方や語調などを直接見ることで子どもは、「命令口調にならない伝え方」も学ぶことができます。
他人のことばかり意識するあまり、自分のことがおろそかになってしまう子もいます。
そんな子には「言いたいことは分かったよ。後で伝えておくね。あなたは今は自分のことをしようか」と、目の前の自分がすべきことに意識を向けてあげることも大切です。
2.命令する子のケース② コミュニケーションの経験不足
次に考えられる原因は、「コミュニケーションの経験不足から命令口調になってしまう」というものです。
この場合、子どもの背景にはどんなものがあるのでしょうか。
2-1.原因|適切な伝え方が分からず命令してしまう
私たち大人は、これまで様々な経験をして年を重ねてきました。
その経験から「こんな言い方をしたら、相手を怒らせるな」「この伝え方では上手く伝わらないな」などと判断することで、他者と上手くコミュニケーションをとることができます。
しかし、子どもはそうはいきません。
たった数年の経験しかありませんので、そこまで思考が回らず、自分の思ったことや感じたことを、ストレートに口にしてしまいます。
それが、「あっちへ行け」「静かにしろ」といった命令口調につながってしまうのです。
2-2.対応策|他者への表現方法を伝える
コミュニケーションの方法は長い時間をかけて習得していくもので、積み重ねが大切です。
命令口調が出てしまった際には、その都度適切な表現(「静かにしてね」)や適応的な行動(そっとその場を離れる)などを伝えていき、できた場合は褒めて認めることで、適切なコミュニケーションを学ぶことができます。
子どもにうまく伝えられる自信のない方は、SST(ソーシャル・スキルス・トレーニング)に関するついての本を参考にしたり、ベテランの保育士の先生に相談して子どもにあった方法を探していきましょう。
●SST(Social Skills Training)=日常生活を送る上で欠かせない「ソーシャルスキル」全般を身につけるために行うトレーニング
3.命令する子のケース③ 周囲の口調を真似している
3つ目に考えられるのは、「周囲の口調を真似して」命令口調になってしまうケースです。
こちらは子ども自身の問題というよりも、環境の問題と言ってもいいかもしれません。
3-1.原因|見聞きした命令口調を真似している
子どもは、さまざまな人・もの・環境から影響を受けます。
子どもが命令口調で話す様子が見られる場合、子どもの周りに命令口調で話す人がいるのかもしれません。
子どもの友達かもしれませんし、テレビやYouTubeに出ている人の影響も考えられます。
しかし、このケースの要因として多いのは「無意識のうちに親が命令口調になっている場合」です。
子どもに行動を促す際に、つい「〇〇しなさい」「早く〇〇してよ」などと言っていませんか?
いつもならそんなことは言わなくても、急いでいたり、イライラしていたりすると、ついつい命令口調になってしまいますよね。
3-2.対応策|大人が依頼口調を意識する
心理学理論の1つに「アドラー心理学」というものがあります。
アドラー心理学では、自分の思っていることを適切に相手に伝える方法として「依頼口調を使うこと」を重要視しています。
アドラー心理学では大人も子どもも対等であると考えられていますので、上から言い付ける命令口調で話すということは、その関係性を崩してしまいます。
そこで、依頼口調(「〇〇してくれませんか?」「〇〇してくれるとうれしいな」)を用いることが大切だと考えられています。
依頼口調により、お願いされる側とする側の両方が気持ちよく思いを伝えることができるのです。
4.命令される子どもの場合の対応策
ここまで、命令してしまう子どもについて解説してきました。
子どもの状況に合わせて適切な対応を行っていくことで、「命令する」という不適応な行動を減らしていくことができるでしょう。
しかし、命令口調で困ってしまうのは、命令する側だけではありませんよね。
命令する/される という関係は、決して好ましいものではありません。
命令されている子どもも、自分よりも年下の子どもに命令するようになってしまうなど、負の連鎖が続いてしまう可能性も否めません。
わが子が命令されていると知った段階で、大人が介入していく必要があるでしょう。
命令される側の3つの対応策について解説していきますので、ぜひ子どもとの関わりの参考にしてください。
4-1.①はっきりと「No」と伝える
1つ目は、はっきりと「No」と伝えることです。
特に引っ込み思案の子どもはなかなか自分の意見を言い出せず、周りに流されてしまいがちです。
そうすると適切なコミュニケーションが取れず、さらに意思表示が難しくなる、という悪循環に陥ってしまいます。
初めは大人相手でも構いませんので、はっきりと「嫌だ」「やめて」と言えるように練習していきましょう。
まずは大人が、「嫌がってるみたいだから、やめてあげてね」と子どもの気持ちを代弁してあげてもいいでしょう。
しかし、あまり代弁しすぎると子どもは自分から意見を言わなくなってしまうため、ある程度見本を見せたところで、子ども自身が行えるようにしましょう。
4-2.②大人を交えて3人で話し合う
当事者の子ども2人に保育士などの大人を交えて、3人で話し合うことが必要なこともあるでしょう。
命令口調の子どもは「なぜ命令口調で話してはいけないのか」を、根本的に理解していない場合が少なくありません。
命令される子がいくらNoサインを出しても、わかってもらえないかもしれません。
そのため、大人が間に入り「命令口調は人を嫌な気持ちにすること」「相手を嫌な気持ちにしない適切な表現があること」を伝えましょう。
プロである保育士に相談し、命令されている場面を見かけたら介入してもらうことで、問題解決に至るケースはとても多いです。
4-3.③命令する子どもと距離をとる
「嫌だ」とはっきり伝えても命令口調をやめず、大人が介入しても大人の目をぬすんで命令してくる子もいるでしょう。
その場合には、その場から逃げる、距離をとるように伝えてあげてください。
「間違ったことをしていないのに、どうして逃げなきゃいけないの」と、親は思うかもしれません。
しかし、相手に「命令口調をやめさせよう」と働きかけるのはとてもエネルギーがいることです。
変わるかどうかもわからない相手にエネルギーと時間を使うことは虚しく、できれば避けたいですよね。
また、命令を受け続けて嫌な気持ちが蓄積されたり、間違った対人関係を学習してしまったり、登園拒否になったりしてしまう方がよっぽど困ってしまいますよね。
ストレスへの1番の対処法は、ストレスから離れることです。わが子に伝わりやすい言い方で教えてあげてください。
5.命令口調になってしまう理由は何か?から考えよう
子どもは、長い時間をかけて言葉や話し方を学んでいきます。
最初から命令口調で話し始める子どもはいません。どこかで間違った情報を学習してしまい、間違った使い方をしてしまうのです。
私たちは大人は子どもの問題に対して、「行動(命令をしてしまう、叩いてしまうなど)」に注目し、責めてしまいますが、行動には必ず背景や理由があります。
子どもを責める前に、「どうしてそんな行動をとるのかな?」「何か原因があるのかな?」と考え、環境を変えたり関わり方を変えてあげたりしてください。
そうすればきっと、命令する子の気持ちや行動も変わっていきますよ。
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