授業中に立ち歩く小学生…。その理由と対応を考える
この記事を書いた人
平尾しほ
- 言語聴覚士
言語聴覚士免許を所有、児童発達支援センターでの勤務経験があります。
特に遊びの中でのことばの育ちを意識して個別療育を行っていました。
現在小学校2年生の息子がいます。
個別療育でのたくさんのご家族とのかかわりと子育ての経験を合わせて、皆様に分かりやすくお伝えしていきたいです。
「授業に集中できず立ち歩いてしまうことがあります」
小学校生活にも慣れたと思っていたころに、担任の先生から懇談などでこのような話を聞き驚いたことはありませんか?
「なぜ、うちの子は立ち歩いてしまうのだろう」「他の子に迷惑になっていないかな」など、親としては心配になってしまいますよね。
また、これから小学校に入学する子をもつ保護者の方は「うちは大丈夫かな」と心配になることがあるかもしれません。
この記事では、子どもが授業中に立ち歩く背景や原因を探り、保護者ができる対応法を検討していきます。
目次
1.小学生が授業中に立ち歩く…。その背景は?
小学校に入学し本格的に授業が進んでいく中で、先生から「実は、授業中立ち歩いている子がいる?」と耳にすることがあるかもしれません。
立ち歩くまではいかずとも、そわそわして落ち着かない様子のお子さんもいるでしょう。
その背景には、今までの生活とのギャップやストレスなどがあることも少なくありません。
ここでは、子どもが授業中に立ち歩いてしまう背景を探っていきます。
1-1.幼稚園や保育園生活とのギャップが大きい
小学校では、幼稚園や保育園での生活と異なり、学業を修めることを目的とした生活がスタートします。
遊びやお昼寝、おやつの時間があるそれまでの生活とのギャップは大きく、すぐに適応できるものではないのは想像がつくでしょう。
このようなギャップを少なくするため、2010年、幼児期の教育と小学校教育の接続の重要性を述べる提言がなされました。
しかし、そもそも時期ごとで子どもにとって必要な教育内容が異なることもあり、そのギャップはなかなか埋まらないのが現状です。
子どもたちからすると、ある日突然、1時間近く席から動くことができない状況になり、戸惑いが大きい部分もあるでしょう。
1-2.コロナ禍や新生活でのストレスの影響も
2020年から数年間は、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した影響で、世界中の人たちが行動や移動の制限を経験しました。
子どもたちも例外ではなく、子ども同士の触れ合いを避ける、遊べる場所や時間に制限があるなど行動を抑制されることもありました。
その反動やストレスから、自分の行動をコントロールすることが難しく、立ち歩きなど授業中の行動面での問題につながることもあるようです。
また、小学校入学に伴い子どもだけでなく親の働く時間やスタイル・環境が変わることも少なくありません。親自身がストレスをかかえることもあるでしょう。
小学校に通い始めるころは親子ともに精神的に余裕がない時期で、お互いのストレスが影響しあい精神的に不安定な状況に陥ることもあります。
その結果、授業中落ち着かなかったり、立ち歩いたりすることにつながる可能性もあるでしょう。
2.子どもが授業中に立ち歩いてしまう理由
子どもたちの環境変化へのストレスなどが要因となり、本来は先生の話を聞く時間である授業中に立ち歩くことにつながることもあるようです。
しかし、子どもが立ち歩く理由は一人ひとり違います。
ここでは、子どもが授業中に立ち歩いてしまう主な理由をくわしくみていきましょう。
2-1.座って話を聞くことに慣れていない
授業中に立ち歩いてしまう理由の一つとして、座って過ごすのに慣れていないということがあります。
幼稚園や保育園では長時間座って話を聞く時間は多くないため、「立ち歩いてはいけない」というルールが定着していないと言えるでしょう。
この場合は、小学校生活に慣れていくことで自然に解消されることが多いです。
「終業のチャイムがなるまでは、立ち歩かずに話を聞く」という小学校のルールを親子で改めて確認するとよいでしょう。
2-2.学習内容に興味が持てない・つまらない
授業の内容に興味が持てないために立ち歩いてしまうということもあります。「おもしろくない」という単純な理由です。
大人は「自分が興味を持てないことでも座って聞くべき」という判断ができるかもしれませんが、子どもにとってそれはまだ難しいでしょう。
例えば、すでにひらがなを書ける子にとっては文字を書く練習を繰り返し行うのはつまらないと感じるかもしれませんね。
2-3.学習内容が難しくてついていけない
前項とは反対に、授業の内容が難しくて立ち歩いてしまうということも考えられます。
先生の話を聞いてもよく理解できず、何をすればよいのかも分からなくなってしまい、結果的に立ち歩いてしまうこともあるかもしれません。
他の子がどうしているのか見ようとした、先生に聞きに行こうと思ったなどのパターンも考えられます。
2-4.教室内や外の様子が気になる
小学校には教室の内外にたくさんの刺激があります。
教室内の掲示物や友達の話し声、教室の外では他の学年が体育をしている声や音楽のリコーダーの音…。何をしているのかなと興味が惹かれることであふれています。
「気になる」気持ちが強く、つい立ち歩いてしまう子もいるのではないでしょうか。
幼稚園や保育園では「気になるね」などと好奇心が強いと許されていた部分も、小学校の授業になると問題行動と捉えられることもあるのです。
また、多くの人の声や物音が常に聞こえる状況を不快に感じ、それを避けるために立ち歩くということも考えられます。
いずれの場合も、その子が落ち着いて過ごせるような環境調整が重要になります。
3.授業中立ち歩く子どもに親ができること ①家庭でできること
子どもが授業中立ち歩いてしまうのには、さまざまな理由があることが分かりました。それぞれの子の状況、理由によって適切な対応も変わってくるので、その見極めが重要ですね。
授業中立ち歩く子どもに対して、親はどのようなことができるのでしょうか。
まずは家庭でできることから、具体的な対応をみていきましょう。
3-1.学校のルールを説明する
はじめに、「授業中は立ち歩かない」というルールを言葉にして伝えましょう。
単に叱責するのではなく、立ち歩きたい気持ちに「歩きたくなったんだね」と共感したうえで、先生の話を聞く時間は座っておくことを確認します。
「うろうろ歩いていると、先生の話を聞いたり黒板を見たりしている子の邪魔になるよ」などと、なぜ立ち歩いてはいけないかも合わせて説明しましょう。
その際、「授業中は座って聞く時間」「休み時間は自由に動いていい時間」などと立ち歩いても良い時間も合わせて伝えるといいでしょう。
チャイムを合図にしているなど、時間の約束についても改めて伝えると、見通しを持ちやすくなるかもしれません。
3-2.座って一つのことに取り組む練習をする
2-1のように単純に長時間座ることに慣れていない場合、座って何かに取り組む練習をするのが有効なこともあります。
まずは、机に座り身体を動かさず行う遊びに取り組んでみるのがよいですね。トランプやカードゲームなどシンプルなルールで楽しめるものや、塗り絵、パズルなど気軽に取り組めるものから始めでみるとよいでしょう。
ゲームなどの遊びを継続して座ってできるようになったら、小学校の授業を想定して45分と目標を決めて取り組むこともおすすめです。
時計の針を見ながら「ここまでは座って一緒にトランプしよう」、タイマーをセットして「ピピピが鳴るまでは、本を読んだり塗り絵をしたりしようね」などと時間の経過を意識して行えるとよいでしょう。
4.授業中立ち歩く子どもに親ができること ②学校と連携をとる
授業中に立ち歩くことがあったとしても、親は実際にその様子を見るのは難しいことが多いですよね。
そのため、学校の先生と子どもの様子を共有し密に連携をとることが重要です。
では、どのように学校、担任の先生と相談していけばよいのかみていきましょう。
4-1.学習内容について
2-2、2-3のように学習内容が原因で立ち歩きが生じていると考えられる場合、子どもの授業の理解度について担任の先生と確認します。
家庭での宿題の取り組みやテストなどをもとに、子どもとも話をしてみましょう。
授業についていけない子どもには、取り組みやすくなる工夫が必要です。翌日の学習内容の予習する、教科書を前もって読んでおくなど、担任の先生と授業の進度を共有して対策しましょう。
また、個別に視覚的に指示を出すことが有効なこともあります。 授業に興味を持てない子どもには、本人が興味を持ちやすいことを行ってもよいことにするなどの対応も考えられます。
例えば、計算が好きであれば計算プリントを余分に用意しておく、塗り絵をしてもよいことにするなど、立ち歩かないで済む方法を検討するのもよいでしょう。
ただし、いずれの場合も他の子どもが「どうしてあの子だけ?」という気持ちになることも考えられます。学級の状況を把握している担任の先生と、綿密に相談することが大切ですね。
4-2.学習環境について
2-4のように周囲の環境に注意がそれて立ち歩く場合は、学習環境の整備が必要です。
その子にとって立ち歩くきっかけとなるものを担任の先生と親で検証し、それらをなるべく減らす・なくすなどの対応ができないか相談してみましょう。
教室内での環境整備は例えば、他の子どもの様子が見えにくい一番前の席にする、授業中目に入る範囲の掲示物を減らすなどが考えられます。
廊下側や窓側の席を避けるなど、教室外からの刺激を遮断するのが有効なこともあります。物音や人の声で注意がそれてしまうときには、イヤーマフを利用する子もいます。
5.授業中立ち歩く子どもに親ができること ③発達障がいの可能性
小学校入学からある程度時間が経過しても状況が改善されない。
家庭で練習したり学校と連携を取り対応したりしても、やはり立ち歩いてしまう。
衝動的に身体が動いているように見える。
このような場合は、発達障がいの可能性も念頭においてもよいかもしれません。
5-1.支援クラスも視野に関連機関と相談する
ADHD(注意欠陥多動性障害)の特性のひとつである衝動性や感情・行動のコントロールの困難さなどの影響で、行動を制御できず授業中に立ち歩くこともあります。
環境調整を行うことである程度適応できる部分もありますが、中には難しい子どももいます。
その場合はより個別に対応が必要になり、通常学級での対応が難しいこともあるかもしれません。
その子にとってどのような環境が学習に向いているのか、学校ではどのように対応するのがよいか、支援クラスの利用なども視野に入れて検討するのもよいでしょう。
かかりつけの小児科や市の子ども支援課などで相談してみると、より適切な対応のヒントが得られるでしょう。
5-2.就学前相談を活用する
幼稚園や保育園での様子から授業中に立ち歩いてしまうことが予想されるときには、就学前相談も積極的に利用しましょう。
事前に、幼児期の様子を共有しておくと、入学してからの生活がスムーズに行えるかもしれません。
「先生の横に座ると、急に動いたりすることはなかった」「一緒に時間を確認すると、落ち着いて座っていられる」など、今までの生活で子どもが落ち着いて過ごすことができた関わりを伝え、学校での対応を相談できると安心ですね。
6.子どもが立ち歩く理由に応じた対応を
子どもが授業中立ち歩いてしまうのは、その子によってさまざまな理由があります。背景には、環境変化によるストレスなどがあることも分かりました。
状況だけで判断して叱っても、解決にはつながりません。その理由を見極めて、子どもが授業中座って過ごしやすくなるような対応を心がけましょう。
「どのようにしたら、子どもが学習しやすくなるのか」という視点で、学校と連携を取りながらその子に合った対応を考えていきたいですね。
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参考文献
・文部科学省 「幼児期の教育と小学校教育の接続について」
・独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センター「授業中や座っているべきときに席を離れてしまう子」(研修講義動画)
・高知市教育委員会「ほんの少し変えるだけでうまくいく〜学校あるあるヒント集」監修 鹿嶋真弓,是永かな子