「一人っ子はわがままに育つ」は本当? ~研究結果から見た「一人っ子」の事実~
この記事を書いた人
狩野淳
- 公認心理師
- 臨床心理士
大学、大学院にて発達心理学と臨床心理学を専攻していました。
臨床心理士と公認心理師の資格を保有しております。
子ども達とその保護者の方の支援を仕事にしており、子ども達へは主に応用行動分析を認知行動療法用いて、保護者の方にはブリーフセラピーを使ったアプローチを行っています。
もうすぐで1歳になる男の子がいて、毎日癒されています!
1人目の育児がだんだんと落ち着いてきたところで、周囲から「もうそろそろ2人目だね」「次は男の子/女の子がいいね」などと言われた経験はありませんか?
「まだまだ1人目にも手がかかるし、仕事復帰もしたい…」「子どもは1人でいいかな」などと思っているママ・パパにとっては、周囲からの「2人目」を求める声にうんざりしてしまうかもしれません。
また、「きょうだいがいないのはかわいそう」「一人っ子はわがままに育つよ」などと言われるのではないかと心配になってしまいますよね。
今回はそんなお悩みをお持ちの方へ、日本における一人っ子の現状と、国内外の研究結果をもとに「本当に一人っ子はわがままになるのか」について解説していきます。ぜひ参考にしてください。
目次
1.一人っ子の現状は?
まずは一人っ子の現状について、厚生労働省などの調査結果をもとに見ていきましょう。
1-1.一人っ子は増えている
現在、日本では少子化が進み、子どもの人数も減ってきています。
厚生労働省の調査によると、1990年には約122万人の赤ちゃんが生まれていましたが、2023年には77万人にまで減っています。
子どもの人数が減少しているということは、子どもを持たない家庭や一人っ子の家庭が増えているということでもあります。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると1992年は、子どもを持たない夫婦が3.1%、一人っ子の家族が9.3%だったのに対して、2021年は、子どもを持たない夫婦が7.7%、一人っ子の家族が19.7%と、どちらも倍以上に増加していることがわかります。
5家庭に1家庭は一人っ子ということになりますので、一人っ子の家庭はそう珍しいものではなくなりつつあります。
1-2.一人っ子は、かわいそうなの?
一人っ子を避けようとする理由として冒頭で、「きょうだいがいないとかわいそう」「一人っ子はわがままに育つ」という2つの例を挙げました。
確かに一人っは、きょうだいがいる子どもと比べて一人で過ごす時間が多く、大人からすれば「一人で過ごしていてさみしそう」と思う場面があるかもしれません。
しかし、一人で遊ぶことが好きな子どももいますし、一人っ子が特別なものではなくなっているため、「昔からの一人っ子のイメージ」も時代の変化とともに当てはまらなくなっています。
習い事の多様化やインターネット上でのやり取りが可能となった昨今では、必ずしも「一人っ子=一人で過ごさなければならない」とはならないため、一概に「一人っ子=さみしい」「一人っ子=かわいそう」とはならないでしょう。
1-3.一人っ子は、本当にわがままに育つ?
次に「一人っ子はわがままに育つ」について考えてみましょう。
そもそも、なぜそんなことが言われるようになったのでしょうか。
多くの家庭に2人以上の子どもがいた時代では、きょうだいがいることで我慢をさせられたり、きょうだい喧嘩をしたりすることは日常茶飯事で、そのなかで辛抱強さや同年代との関わりを学んでいました。
しかし一人っ子の場合は、家庭に子どもは自分一人のため自分の意見が通りやすく、きょうだいがいる家庭と比べると我慢する機会が少なくなる傾向があります。また、祖父母と生活している家庭も多かったため、甘やかされてわがままな子に育つと考えられていました。
しかし、本当に一人っ子はわがままなのでしょうか。
「一人っ子はきょうだいがいないため、親や祖父母の愛を独り占めできる」ことは間違いないですが、家族の特色や子育て観が同じ家庭なんて1つもないにも関わらず、「一人っ子=わがまま」という図式が成り立つとは言い難いのではないでしょうか。
2.研究から見る「一人っ子の真実」
ここまで一人っ子の現状について確認し、わがままに育つと言われている理由について見てきました。
しかし、わがままに育つ理由についてはあくまで「予想」であり、科学的な根拠があるわけではありません。
そこでここからは、一人っ子について行われた研究を紹介し、「一人っ子はわがままに育つ」ということについて科学的な側面から考えてみましょう。
2-1.日本の研究 〜「問題行動にきょうだいの有無は関係ない」〜
まずは、日本で行われた研究についてです。
東北大学で行われた研究では、以下の2つの調査を行いました。
①一人っ子ときょうだいがいる子を比較して、どちらが問題行動(他人と関わらない、自分のことを嫌うなど)が多く見られるか
②親の養育態度と子どもの問題行動に相関関係はあるのか
その結果、きょうだいの有無と問題行動の間には関係性がないことが分かりました。
しかし、親の養育態度については、子どもを甘やかす態度と問題行動には相関関係がなかったものの、子どもに過干渉な親の元で育った子どもは問題行動が多い、という結果が出ました。
つまり、子どもが問題のある行動をするかどうかに、きょうだいがいる/いないは関係なく、子どもがどのような親の態度の下で育ったのかが関係している、ということが明らかになりました。
2-2.ドイツの研究 〜「一人っ子≠自己中心的」〜
次に、ドイツで行われた500人規模の調査研究についてご紹介します。
この研究では、以下の2点について調査されました。
①一人っ子とそうでない子は、どちらが自己中心的だと思うか
②一人っ子とそうでない子は、どちらが自己中心的か
その結果、①では「一人っ子の方が、そうでない子よりも自己中心的だと思われている」ことが分かりましたが、②では「一人っ子だからと言って、自己中心的とは言えない」との結論が出ました。
日本以外の国でも「一人っ子はわがまま」という認識が広く持たれているものの、科学的にはそれは間違いだということが明らかにされています。
2-3.わがままの原因は育て方?
以上のように、「一人っ子=わがまま」は必ずしも成り立たないことがわかっています。
では、何が子どもをわがままにするのでしょうか。
それは東北大学の研究でも触れられていたように、「親の育て方」によるものが大きいとされています。
子どもの行動をむやみに制限し自由を奪ってしまうと、成長するにつれて反発するようになる傾向があります。
自分の考えを押し通そうとしたり、友達に対しても自分がされたように行動を制限し、自分の思い通りにコントロールしようとする可能性があるのです。
そのため、「きょうだいがいるかどうか」よりも、自由にのびのびと育てていくことが、「友達が多い」「人に好かれやすい」など、より環境に適応しやすい子どもに育っていくと言えるでしょう。
3.一人っ子という選択のメリット
ここまでで、一人っ子であることがマイナスに働くわけではないということをお伝えしてきました。次に、一人っ子であることのメリットについて紹介していきます。
3-1.経済的な余裕がもてる
まず、一人の子に時間とお金を集中してかけることが出来るということが何よりのメリットでしょう。
きょうだいがいる場合には、どうしても時間的、金銭的に我慢をさせる場面が出てきてしまいますが、一人っ子の場合はその心配が要らないことが多いでしょう。
やりたい習い事や様々な体験、旅行も、きょうだいがいる家庭と比べると、一般的に低いコストでさせてあげやすくなります。
3-2.マイペースな育ちにつながる
きょうだいがいる家庭では「お兄ちゃんなんだからしっかりしなさい」「お姉ちゃんは我慢して」「お兄ちゃん/お姉ちゃんの時にはもっとできてたよ」と、きょうだい同士で比較するような言葉がけが行われることがしばしばあります。
きょうだいの中で優先順位や優劣がついてしまうことは仕方のないことかもしれません。
しかし一人っ子の場合は、比較対象がいないため、序列や「できる/できない」にとらわれることなく、「自分は自分」として育っていくことが出来るため、周囲に流されにくいマイペースな性格に育ちやすいでしょう。
3-3.心理的余裕も生まれやすい
幼稚園の入園や小中学校入学の準備、高校受験など子ども達の環境の節目には様々なイベントがあり、その都度保護者は準備をしたり、役員になったりと大変な思いをすることが少なくありません。
きょうだいが何人もいる場合には何度も対応しなければいけませんが、一人っ子の場合は一度で済みます。
このように、ほかのきょうだいのことを考える必要がないため、比較的ゆとりをもって生活できます。
親に余裕があれば子どもにも良い影響を与えるため、これも一人っ子のメリットと言えるでしょう。
4.「一人っ子=わがまま」ではない!利点に目を向けて子育てしよう
ここまで一人っ子について解説してきました。ポイントとして
①一人っ子は昔と比べ増えており、珍しいことではない
②「一人っ子だからわがままに育つ」という根拠はない
③子どもの性格は親の関わり方次第で変わってくる
という3点が挙げられるでしょう。
以上のことから、必ずしも「一人っ子」であることが「わがまま」「かわいそう」とはなりません。
「わがまま」を助長する要素のひとつは、親の過干渉です。一人っ子でも、きょうだいがいても、このことは変わりません。子どもと適度な距離感を保って健やかに育ててあげてくださいね。
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参考サイト/参考文献
・厚生労働省令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況 第2-1表 人口動態総覧の年次推移
・国立社会保障・人口問題研究所 2021 年社会保障・人口問題基本調査 <結婚と出産に関する全国調査> 第16回出生動向基本調査 結果の概要
・長濱裕佳・村田由紀子・守谷真美 (東北大学教育学部),きょうだい構成と青年期の問題行動
・Michael Dufneri、Franz F. Oehme、Mitja D. Back、Stefan C. Schmukle, The End of a Stereotype: Only Children Are Not More Narcissistic Than People With Siblings ,Sage journals,Volume 11, Issue 3, September 19, 2019