力加減ができない子どもにおすすめの遊びと声がけのコツを保育士が解説!
この記事を書いた人
なな
- 高等学校教諭
- 保育士
早稲田大学在学中に放課後等デイサービスでアルバイトとして勤務。
一般企業に就職後、子どもの人生に関わる仕事がしたいと思い、保育園で働きながら保育士資格を取得しました。
現在は保育士として勤務しています。
「子どもと一緒に楽しむ」ことを大切に、子どもと接しています!
「お友だちを強く叩いてしまう」
「モノの扱いが雑。優しくね、と言ってるのに伝わらない」
力加減がうまくできないお子さんに困っていませんか。
実は、このようなお子さんは、力の加減がうまく掴めていない可能性があります。「乱暴な子ども」とよく誤解されがちですが、力の使い方を学ぶことで少しずつ改善されていきますよ。
この記事では、現役保育士の筆者が、子どもに力加減を教える時のポイントや、力加減を身につけるための遊びをご紹介します。
力加減の調整が苦手なお子さんへの対応法を学ぶことで、お悩みの解決につなげてくださいね。
目次
1.力加減がうまくできない子どもの原因
力の加減を上手に調整するには、「固有受容覚」を働かせる必要があります。ここでは、固有受容覚の主な働きについて触れながら、力加減がうまくできない子どもの原因をご説明します。
1-1.固有受容覚とは何か?
私たちは、普段意識している五感以外にも、無意識に使っている感覚があります。
その1つが「固有受容覚」です。
固有受容覚とは、自分の身体の位置や動き、力加減を感じる感覚です。この感覚は、関節や筋肉で感じ取ります。固有受容覚が働くことによって、姿勢を安定させたり、体の動きや力加減をコントロールしたりできます。
例えば、肩の高さで両腕を伸ばし、両手の人差し指を立てます。目をつぶった状態で両腕をゆっくりと中心に移動させ、指と指を合わせてみてください。視覚(五感)を使わずに、指と指を合わせることができたのではないでしょうか?
固有受容覚は、身体を動かすときのアクセルとブレーキのような役割をしています。
中身が見えない荷物を持った時に重さを感じることができるのも、固有受容覚がうまく働いているからなのです。
私たちは赤ちゃんの頃から固有受容覚を使って、寝返りをしたり、転ばないようにバランスをとりながら歩いたりしています。その積み重ねによって、力加減も少しずつ学んでいきます。
1-2.固有受容覚がうまく働かないとどうなるの?
固有受容覚の感じ方は人それぞれです。お子さんによっては、固有受容覚がうまく働かない子どももいます。
その場合、日常生活で以下のような特徴が見られます。
固有受容覚がうまく働いていない子どもの特徴
・友だちに軽く触れたつもりでも、「叩いた」と誤解される
・おもちゃの扱いが乱暴で、よく壊してしまう
・小声や低いトーンで話すのが苦手
・ぶつかったり転んだりしやすい
・ダンスなど動きを真似するのが苦手
・姿勢が悪い
固有受容覚の働きには個人差があり、うまく働かない場合、乱暴な行動や不器用さにつながることがあります。
2.子どもの力加減を育むための2つの手順
遊びや活動を通して、子どもの力の加減を育むには、「順番」が大切です。
まずは、子どもが自分の「100%の力を知る経験」をさせましょう。
「思いっきり走る」「高くジャンプする」「重いものを引っ張る」「力いっぱいボールを投げる」などの活動を通して、自分の最大の力を学ぶことができます。
あらかじめ自分の全力を知った上で、次のステップとして「そっと動かす」など、慎重さが必要になる遊びを取り入れます。
子どもは全力の力を経験することで、細かい力の出し方がわかり、少しずつ力加減を習得していきます。
遊びの順番
①重たいダンボールを力いっぱい押して運ぶ
②うちわの上に風船を置いて、風船が落ちないようにしながらそっと運ぶ
全力疾走した後に、「半分の力で走ってみよう」と声をかけてみるのもおすすめです。
また、力が強くなってしまうときは、脳が固有受容覚の刺激を求めていることも多いです。外遊びなどでダイナミックに筋肉を使う遊びを取り入れることをおすすめします。
3.力加減を学べる遊び
「力加減を学ぶ」「固有受容覚を育てる」と言っても、特別な遊びや道具は必要ありません。固有受容覚は日々の遊びの中で育むことができます。
脳が育つのは楽しいときと言われているので、「練習しなくてはいけない」などと気負わず、お子さんの好きな遊びを見つけてくださいね。
3-1.楽器あそび
タンバリンや太鼓など、叩くと音が出る楽器は、楽しみながら力加減を学べる道具の一つです。
力の強弱が音の大きさにつながるため、力の調節をすることがどういうことなのか、わかりやすいです。
普通に叩くだけでなく、「大きく叩いてみよう」「今度は小さく」など、力の調節を意識できるような声掛けがおすすめです。
3-2.けんけんぱ
輪に合わせて、身体の動きを調節する練習ができます。最初はうまく輪の中でジャンプができない子もいますが、回数を重ねると上達していきます。
「ぱ」のときに、身体を止められるかがポイントです。道具も必要ありません。公園に行ったときに地面に丸を書くだけですぐに始められますよ。
3-3.トランポリン
トランポリンはお子さんに人気の遊びの一つで、楽しみながら固有受容覚を育てることができます。ジャンプすることで姿勢をキープする力が育ち、力のアクセルとブレーキの調節ができるようになっていくのです。
自由に跳ぶだけでなく、トランポリンの外にパパやママが立つと遊びの幅を広げることができます。お子さんと手をつないで高く跳ぶように支えたり、ママやパパの手にハイタッチしたりする遊びは親子で楽しめますよ。
3-4.新聞紙遊び
身近な素材遊びとして保育園でもよく使用するのが新聞紙です。パパやママに新聞紙を持ってもらい、勢いよく突進する遊びは、全力を知ることができる遊びの一つです。
一方で、新聞紙に穴をあけた電車ごっこなどや細長く裂いていく遊びは、破かずに丁寧に扱うことの練習になります。繊細で細かな動きの調整力を身に着けることができますよ。
4.力加減を生活の中で学ぶポイント
遊びだけではなく、日々の生活でも子どもたちは力加減を学んでいきます。ここでは、力加減の調整を学べるお手伝いや日常生活の作業をご紹介します。
4-1.料理のお手伝い
幼児期のお子さんには、野菜や果物の皮むきがおすすめです。同じ皮むきでも、玉ねぎとバナナでは身のかたさや皮の厚さが異なるため、皮むきを通して力の調整の練習をすることができます。
他にも、レタスをちぎる、お米を研ぐ、飲み物を注ぐ、具材を混ぜるなど、料理のなかには力加減を学べるポイントがたくさんあります。
慣れてきたら、卵を割るなどさらに繊細な動きにも挑戦してみてください。卵割りは緊張感をもって集中する練習にもなりますよ。
4-2.荷物を持つ
園バックを自分で持つことは毎日の習慣にしやすく、子どもの自立にもつながります。
手足に力を入れて物を運ぶ経験を通して、筋肉にどれくらい力が入っているかを感じやすくなります。
お買い物に行った後、買ったものを持ってもらうのもおすすめです。
筋力がなくてすぐに疲れてしまう場合は、「あそこの信号機まで」など距離を決めたり、荷物を減らしたりして調整してみてください。
4-3.掃除
荷物を移動させたり、棚を拭いたりする作業は、ぜひお子さんにも手伝ってもらいましょう。
雑巾がけの姿勢は、バランスを取りながら手のひらに体重をかけたり、足で踏ん張ったりするよい運動になります。
雑巾絞りは少し難しいですが、うまく力を加えるよい練習になりますよ。
5.子どもに力加減をうまく伝える声がけのポイント
お子さんが乱暴な行動にとるたびに、「もっと優しくだよ!」「お友達が痛いよ」と声がけしているのに、まったく改善が見られない…。
そんな経験をしたことはありませんか。
「優しく」「痛いよ」などの声がけは、言葉の意味が曖昧で、子どもにうまく伝わっていない可能性があります。
曖昧な言葉は、イメージを共有するのが難しいです。特に、言葉の理解が未熟な子どもにとっては、「親が伝えたい意図」を適切に受け止めることができません。
親に叱られても、「具体的にどうすればいいのか」が分からず、同じことを繰り返してしまう場合も多いでしょう。
子どもを注意するときは、曖昧な表現ではなく、具体的に伝えることが大切です。
例えば、お友達を強く叩いてしまった場合、「もっと優しくだよ」と親が伝えても、「優しい」の捉え方は人によって異なります。
親から見ると強く叩いていたり、乱暴に見えたりする場合でも、子ども本人は、優しくしているつもりなのかもしれません。
その場合は、「今の半分の力にしようね。お友達が痛くて、びっくりしちゃうからね」などと、具体的に話してみましょう。
乱暴に物を扱う子には、「音がしないように物を置こうね」と伝えたり、「ドンドンじゃなくて、トントンだよ」など、擬音語を使ったりすると、分かりやすいですよ。
6.子どもの力加減は遊びながら楽しく学んでいこう
パパやママから見て、動きが乱暴で声をかけてもなかなか改善も見られないと不安になりますよね。
しかし、固有受容覚が未発達だと、力加減の調整が難しいということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
力加減は、身近な遊びの中で伝えることができます。
遊びやお手伝いを通して、親子で楽しみながら、少しずつお子さんの力加減を身につけていきましょう。
参考文献
・木村順,『育てにくい子にはわけがある―感覚統合が教えてくれたもの』,大月書店,2006
・川上 康則,『学校・家庭で楽しくできる 発達の気になる子の感覚統合あそび』,ナツメ社,2015
・川上 康則,『発達の気になる子の体の動きしくみとトレーニング』,ナツメ社,2021
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