心の知能指数「EQ」とは?幼児期からできるEQの伸ばし方を紹介
この記事を書いた人
かわもと
- 公認心理師
- 中学校教諭
- 高等学校教諭
中学校教諭、高等学校教諭、公認心理師の資格を所持しています。
大学卒業後、療育施設にて勤務していました。
現在は、0歳の子どもを育てながら、子育てに役立つ記事を執筆しています。
得意なことは、絵本の読み聞かせ、歌遊びです。
「EQ」という言葉を聞いたことはありますか?
「EQ」とは、知能指数を表す「IQ」と対比して、「心の知能指数」と呼ばれています。
EQは、社会で求められ、喜びをもって生きるために欠かせない非認知能力のひとつです。特に幼児期におけるEQの育成が大切と言われています。
この記事では、公認心理師の資格を保有する筆者が、EQの重要性や、子どものEQを伸ばすための親の関わりについて解説します。
目次
1.心の知能指数「EQ」とは?
EQとは、「Emotional Intelligence Quotient」の略語で、自分や他者の気持ちを理解する能力や、自分の感情をコントロールする能力のことを指します。アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンが、著書『Emotional Intellegence』の中で提唱した概念です。
IQ(Intelligence Quotient)は、計算ができる、文章が読めるなどの「知的な能力(認知能力)」であるのに対して、EQは、協調性、コミュニケーション能力など、IQでは測れない「内面的な能力(非認知能力)」です。
EQが高い子どもは、「友だちと協力して目標を達成する」など、他者と上手にコミュニケーションを取ることができます。「テストで失敗しても、次のテストに向けて対策を立てられる」など、前向きに気持ちを切り替え、行動できます。
一方で、EQが低い子どもは、他者の気持ちを察するのが難しく、人間関係のトラブルを起こしやすい傾向があります。失敗にぶつかると「もう自分にはできない」と諦め、ネガティブな感情になりやすいのも特徴です。
EQの高さは、コミュニケーションスキルだけでなく、勉強やスポーツなど目標に対して前向きに取り組む姿勢にも関係しています。
2.EQはなぜ大切なの?
ここからは、幼児期にEQを育むことの重要性や、EQの高さが役立つ場面について解説します。
2-1.EQと学習指導要領の「生きる力」との関係
EQなどの非認知能力は、今の日本の教育で注目されている能力のひとつです。
人工知能やインターネットの普及など、社会や生活が大きく変わる時代において、変化を前向きに受け止め、より豊かな人生を送るには、主体的に考える力が求められます。
文部科学省では、そのような力のことを「生きる力」と言っています。
2018年施行の幼稚園教育要領や、2020年から施行の新学習指導要領によると、非認知能力は、「生きる力」を育むための3つの柱のうち、「学びに向かう力・人間性」に位置づけられています。
「学びに向かう力・人間性」とは、主体的に学習に取り組んだり、感情をコントロールしたり、他人を尊重しながら協働したりする力のことです。
EQは、変化の激しい世の中で、自分や他人の気持ちを尊重しながら、人生をより豊かに生きていくための必要な能力と言えるでしょう。
2-2.幼児期にEQを育むことが大切な理由
なぜ幼児期にEQを育むことが大切なのでしょうか。
教育経済学の研究者ジェームズ・ヘックマンの研究では、「学力や知識の向上など幼児期に認知的な教育を高めるよりも、非認知的な能力を高める教育を受けた方が、大人になってからの幸せや、経済的な安定につながること」がわかっています。
乳児から幼児期は、アタッチメント(愛着)を形成する大切な時期です。
アタッチメントとは、子どもが特定の人を求め、一緒にいることで「人を信じてもいい、自分はここにいてもいい」という安心感をもつことです。
乳幼児期において、「安心感を得る経験」を繰り返すことは、非認知能力を発達させるだけでなく、人生の幸福度や、認知能力の発達にも影響すると言われています。
幼児期にEQを育むことで、子どもは将来、より幸せで豊かな人生を送ることができるのです。
参考サイト
・遠藤 利彦 東京大学大学院教授「アタッチメントと非認知的な心の発達 ―親子・家族関係の再構築と養育環境改善への提言」(一般社団法人 平和政策研究所)
2-3.EQが高い子どもの特徴とEQが役に立つ場面
EQは子どもがより良い人生を歩むために大切な能力です。ここでは、EQが高い子どもの特徴と、EQの高さが役立つ場面について説明します。
EQが高い子どもの特徴1:人の気持ちに共感できる
役立つ場面:
- 友だちと良好な関係を維持できる
- 友だちの気持ちを考えて、適切な声かけができる
- 困っている人を自分から助けられる
- 自分が困難に直面したときに、周りの助けを得られやすい
EQが高い子どもの特徴2:自己肯定感が高い
役立つ場面:
- やりたいことに積極的に挑戦できる
- 自分を励ましながら最後までやり抜くことができる
- ありのままの自分を肯定できるため、他人にも寛容になれる
EQが高い子どもの特徴3:感情をコントロールできる
役立つ場面:
- 怒りや悲しみに支配されず、的確に行動できる
- 友だちと円滑な人間関係を築ける
- 失敗しても、すぐに気持ちを切り替えられる
- 目標に向かって前向きになれる
EQが高い子どもは、精神的に安定しており、円滑な人間関係を築くことができます。
3.子どものEQを伸ばすための親の接し方
EQは、子どもの気質や性格ではなく、「スキル」という捉え方ができます。EQは、親の接し方で伸ばせる能力なのです。ここでは、子どものEQを伸ばす接し方をまとめます。
3-1.子どもの遊びを大切にする
子どものEQを伸ばすには、子どもの主体性や自発性を大切にするのがポイントです。幼児期は遊びを通して、EQを伸ばしましょう。
夢中になって遊んでいるときは、子どもが満足するまで見守ります。自分で考えたり、想像したり、工夫をしたりする経験を通して、子どもの前向きさが育まれていきます。
子どもが好きなことを観察するのも大切です。絵本が好きな子には、いろんなジャンルの本を用意したり、絵本に登場するシーンを親子で再現したりするのもいいですね。
工作が好きな子には、ペットボトルや紙パックなど、様々な素材を活動スペースに用意しておくと子どもの興味が広がりますよ。
3-2.スキンシップや言葉で愛情を伝える
子どものEQを伸ばすには、「自分はここにいてもいいんだ」という安心感を与えることも大切です。日頃からスキンシップや言葉で、愛情をたくさん表現しましょう。
小さい子どもであれば、頬にキスをする、抱きしめる、頭を優しく撫でる。大きい子どもや、スキンシップが苦手な子どもの場合は、肩をポンと叩く、遊ぶ時にコショコショくすぐってみる、ハイタッチする、話をするとき手を握るなど、さりげない触れ合いを大切にします。
「○○のこと大好きだよ」「愛しているよ」「大切に思っているよ」「生まれてきてくれてありがとう」「○○がいてくれて本当に良かった」など、愛情を言葉にして伝えましょう。
お互いに照れ臭くなるかもしれませんが、子どもは、「自分は本当に愛されているのか」と確認したいこともあります。特に叱られた後や、親が忙しい時は、不安を感じやすいです。
「わざわざ言わなくても伝わっている」で済ませずに、日常でたくさん愛情を伝えるようにしましょう。子どもは内心ではとても嬉しいはずですよ。
3-3.絵本を読む
EQを伸ばすには、親子で一緒に絵本を読むことも効果的です。その理由は、
- 読み聞かせの時間が、子どもにとって親からの愛情表現だと認識する
- 様々な絵本を読むことで、子どもの「好き」を理解できる。子ども自身も自分の「好き」が分かる
- 登場人物の気持ちを通して、共感性を育む
- 登場人物たちのように、困難な場面でもチャレンジしようとポジティブになる
などが挙げられます。
絵本はEQだけでなく、IQを伸ばすのにも役立ちます。読み終わった後は、子どもに「よく聞いてくれたね」「嬉しかったよ」とほめます。
子どもを膝の上に乗せて読み聞かせをすることで、スキンシップにもなります。子どもとたくさん絵本に触れてみてくださいね。
3-4.コミュニケーションを楽しむ
EQを伸ばすために欠かせないのが、親子のコミュニケーションです。
コミュニケーションを通して、「自分の気持ちや感情に向き合える」、「言いたいことを言葉にして伝える」、「自分の話を聞いてもらっている」などの経験が、EQを伸ばすことにつながります。
一日の終わりなど時間を決めて、楽しかったことや悲しかったことなどを思い出してもらいましょう。子どもが話をしているときは、相槌を打ったり、うなずいたりするなど、親は「聴く姿勢」に徹します。最初はうまく伝えられなくても、徐々に表現が増えていきます。
その上で、「なぜそう思ったの?」「どうしてそのような行動をとったの?」と自分の感情や行動を振り返る質問をします。質問されることで、子どもの自己理解も深まります。
親子で日記をつけるのもおすすめです。会話をしながら文章にすることで、自分が話したことを視覚的に振り返ることができます。
3-5.叱り方やほめ方を工夫する
普段、どのように子どもを叱り、ほめていますか。言葉がけを少し工夫することで、子どもの気持ちや行動は変わります。
ここでは、EQを伸ばす叱り方とほめ方を説明します。
3-5-1.叱り方
子どもを叱るとき、つい声が大きくなったり、一方的に叱りつけてしまったりと、感情的になることはありませんか。
親が感情的に叱ってしまうと、子どもは「怒られた」という記憶だけが残り、「なぜ叱られたのか」が分からないこともあります。
一方的に叱られたことで、自信をなくしたり、「次もまた怒られるのではないか」とチャレンジをしなくなってしまったりすることがあります。
親が感情的になってしまいそうな時は、「深呼吸をする」、「場所を変える」など、できるだけ冷静な状態を心がけましょう。そのうえで、ママやパパの気持ちを話します。
気持ちを伝える際のポイントは、主語を子どもではなく、親にすることです。「ママは悲しかったよ」「パパは片づけて欲しいなって思ったよ」などです。
「子ども」を主語にすると、子どもを一方的に責めているように聞こえてしまいます。「親」を主語にすることで、子どもも素直に親の言葉を受け止めやすくなります。
また、子どもを叱るときは、「手を握る」、「頭をなでる」などのスキンシップをとるのもオススメです。スキンシップをとることで、「怒っているけれどあなたを否定していないよ、大好きだよ」と子どもに伝えられます。
3-5-2.ほめ方
EQを育むためにおすすめのほめ方は、「過程を具体的にほめること」です。
スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授の研究によると、「頭がいいね」「才能があるね」など、子どもの能力や才能を抽象的にほめる方法は、子どもに「能力や才能のある状態を維持しよう」と失敗を回避させ、新しいことや難しいことにチャレンジしなくなる可能性があるそうです。
一方で、「問題を最後まで読んでいたね」「色を分けて塗れたね」など、努力の「過程」を具体的にほめると、物事への興味や関心、モチベーションが上がり、主体性、チャレンジ精神、粘り強さを育むことができます。
最後までできなかった時や、途中で失敗をした時でも、できたところをほめることも大切です。
たとえば、「こことここは片づけることができたね」、「この線までハサミで切れたね」など具体的にほめることで、「次もがんばろう!」とお子さんのモチベーションを高めやすくなります。
4.EQを育む上で一番大切なのは、子どもへの愛情
ここまで、EQとは何か、なぜEQが大事なのか、子どものEQを伸ばすためのヒントを解説しました。
変化の激しい社会において、EQは子どもの「生きる力」の土台となり、生活をより豊かにします。
EQを育む上で大切なのは、子どもに愛情を伝えることです。スキンシップや言葉で積極的に子どもに愛情を表現するなど、できる範囲で取り入れてみてくださいね。
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