「ことばあそび」で学びの基礎固め!小学校で活かせる「読み書き」力を育もう
この記事を書いた人
masa
- 特別支援教育士
- 公認心理師
- 小学校教諭
公立小学校で38年間勤務。
主に高学年や特別支援学級の担任及び教育相談担当として、保護者や児童の相談業務に携わりました。
退職後は児童福祉の事業所に心理アドバイザーとして勤務し、児童のアセスメント、就学や発達に関する保護者の相談、職員のコンサルテーション、保護者及び職員のメンタルヘルスケア等の業務を行っています。
専門は臨床心理学と教育心理学です。
「ひらがなもカタカナも分かるのに、本読み(音読)がうまくできない」
「もう2年生なのに、小さい『っ』や『ゃ・ゅ・ょ』の使い方を間違える」
こんな悩みをもたれている方はいらっしゃいませんか。
それ、もしかすると「音韻意識(おんいんいしき)」が関係しているかもしれません。
今回は、小学校の学習につまずかないために押さえてほしい、
読み書き力の基礎「音韻意識」についてや、「音韻意識」の発達を促す「ことばあそび」をご紹介します。
「来年小学校入学だけど、読み書きが心配」という方や、今までの読み書き練習では、うまくいかなかったという方も必見です!
目次
1.ひらがな学習・読み書きにつまずくポイントは?
小学校入学を控えたお子様がいるご家庭では、文字の読み書きは大きな関心事の1つですよね。
言うまでもなく文字の読み書きは、これから始まる学校での学習の根幹になる力ですから何かと気になるのも当然です。
しかし、「かな文字の読み書きができるようになってさえいれば、すぐに小学校での学習に使える」というわけではありません。
それはどういうことなのか、詳しくみていきましょう。
1-1.ひらがな(文字)学習の始まり
話しことば(音声言語)の力が爆発的に伸びてくる4~5歳頃、多くの子どもたちが文字に興味を示し始めます。
これまで音声言語の世界で成長してきた子どもたちにとって、文字を介したことば(文字言語)の世界が開かれていきます。
年長児については、秋ごろになると保育所や幼稚園で読み書きの練習が始まるところも多いかと思います。もしかすると「もう始めているよ」というご家庭も多いのではないでしょうか。
多くの場合、最初に学習するのはひらがなで、
- 【あ】という音を聞いて<あ>という文字を書く。
- <あ>という文字を見て【あ】と読む。
というように、文字ごとに音と字形の対応を学習していくと思われます。
注: 以下、音声は【 】、文字は< >で表します。
かな文字は基本的に文字と音が1対1で対応していますので、その対応を覚えていくことで読んだり書いたりできるようになります。
すべてのひらがなを読み書きできるようになれば「ひらがなは合格!」・・・と言いたいところですが、本当にそうでしょうか。
実はそこに、ことば学習の落とし穴ともいえる注意点があります。
1-2.ひらがな(文字)学習の落とし穴
「ひらがなの読み書きができれば、ひらがなで書かれたことばの読み書きもできるはず」と思っていませんか?
見過ごされがちですが、これこそが文字学習の落とし穴です。
それは、どういうことでしょう。イメージできないなぁと思われたでしょうか。
注意すべきなのは、「文字の読み書き」と「ことばの読み書き」は同じではないという点です。
❚ 「文字」/「ことば」2つの読み書きの違いは…?
「文字の読み書き」とは、1文字ずつ(単文字)の読み書きのことです。
<あ>という文字を見て【あ】と読んだり、【あ】と聞いて<あ>と書いたりすることをいいます。
「ことばの読み書き」とは、単語の読み書きのことです。
<あひる>という文字を見て【あひる】と読んだり、【あひる】と聞いて<あひる>と書いたりすることをいいます。
そのためひらがなの五十音全部を聞いて書ける子でも、【あひる】と聞いて<あひる>と書けるとは限りません。
文字は分かってもそれを「ことばの読み書き」に使いこなせないと、小学校の学習でつまずいてしまうかもしれません。
せっかく苦労して覚えたのに、それってもったいないですよね。
なぜそんなことが起きるのでしょう?その鍵となるのが「音韻意識(おんいんいしき)」です。
「音韻意識」は「文字の読み書き」と「ことばの読み書き」の橋渡しをする大事な概念です。
2.ひらがなの読み書きに大切な「音韻意識」とは?
それではここで、「音韻意識」とはどのようなものか詳しく見ていきましょう。
2-1.音韻意識の「音韻」って何?
「音韻」とは、話しことばのなかの音の粒のことで、日本語の場合は「拍」で考えるのが一般的です。
「拍」というのは俳句や短歌における音のとらえ方で、【あひる】であれば【あ・ひ・る】の3拍、【うぐいす】なら【う・ぐ・い・す】の4拍となります。
音韻は言語によって異なります。
初めて聞く外国のことばをうまくまねできないのは、発音の問題以前にこの音韻が異なることが関係しています。
それゆえに音韻意識が弱い場合、仮に日本語の学習では何とかなっても英語学習で困難を示すということも言われます。
2-2.音韻意識の役割 ~音声と文字をつなぐ~
「音韻意識」は、音の粒(拍)を聞き分けたり操作したりする力を意味します。
例えば、「あひる」という連続音を聞いた場合、
- 3つの音に分かれ、最初の音が【あ】、2番目が【ひ】、3番目が【る】である。
- 反対から言うと【るひあ】になる。
- 【ひ】を除いて言うと【ある】になる。
というようなことがわかる力のことです。
「でも、【あひる】が3つの音に分かれるなんて当たり前で、誰にだってわかるんじゃないの」と思われていませんか?
しかし実際は、【あひる】という音が明確に3つに分かれているわけではありません。
以下、【あひる】と言った時の音声の波形を見てみましょう。
これを見てわかるように、物理的には【あひる】という音声は1つか2つ、あるいは4つ以上の音の粒と捉えられても不思議はないのです。
【あひる】という音声を文字にするには、【あ】【ひ】【る】という3つの音に切り分ける必要があります。
この「音声として聞いた単語を、文字に対応する音の粒に分ける」という重要な役割を果たすのが音韻意識です。
音韻意識は単語の読み書きや、読み書き全体を支えています。
3.小学校で必要な「読み書き力」とは? ~読み書きと音韻意識の関係~
次に「音韻意識」が「読み書き」とどう関わるのか見ていきましょう。
少しややこしい話ですが、音韻意識の大切さやその発達について知るために必要です。
なるべくわかりやすく解説していますので、ぜひ読んでくださいね。
3-1.読み書きの4つのルート
ことばには「音声言語」と「文字言語」があります。
その組み合わせによって、ことばを使った活動は大きく4つに分けて考えることができます。
[図2]4つの言語活動
①「復唱」:(音声→音声)
誰かが話したことば(音声言語)を聞いて、自分も話しことば(音声言語)で話す。
②「視写」:(文字→文字)
書かれた文字(文字言語)を見て、自分も文字(文字言語)で書く。
③「聴写」:(音声→文字)
誰かが話したことば(音声言語)を聞いて、自分は文字(文字言語)を書く。
④「音読」:(文字→音声)
書かれた文字(文字言語)を見て、自分は話しことば(音声言語)で話す。
このなかで音韻意識が大きく関係するのは③と④です。
③の聴写と④の音読の場合、情報を頭のなかで変換することが必要になりますが、この活動を「コーディング」と言います。
就学前の子どもたちは、文字ごとにコーディングしている段階です。
【あ】と聞いて<あ>と書く(音声→文字)・<あ>を見て【あ】と読む(文字→音声)。このような文字練習は、読み書きに欠かせないものです。
しかし、「文字ごとのコーディング」が「単語や文の読み書き」にそのまま移行できるわけではありません。
ここで、「音韻意識」の力が必要になります。
3-2.コーディングと音韻意識
ここでは、「聴写」と「音読」を取り上げて、音韻意識とコーディングがどのように関係しているのか見てみます。
また、音韻意識が十分ではないと学習にどのような問題が生じるのかについても、ハルキさんの例を見ながら考えてみましょう。
年長児(5歳)のハルキさん:
ひらがなの文字はすべて読み書きできますが、音韻意識はまだ十分に発達していません。
通っている幼稚園では就学準備のために読み書きの練習が行われています。
それではまずは、聴写(音を聞いて書く)について見てみましょう。
小学校では先生が話したことをノートに書き写すことがあります。そのため先生は、音を聞いて文字に書くための練習問題を出しました。
先生:「今から言う鳥の名前を書いてみてください。いきますよ。『あひる』」
このとき、【あひる】という単語を聞いて<あひる>と文字で書くためには、
【あひる】という連続音を【あ】【ひ】【る】という3つの音に分ける(音韻意識)作業と、
その3つの音を頭の中で、文字に変える(コーディング)作業が必要です。
ハルキさんは、音韻意識が十分に発達していなかったため、【あひる】という3つの音を正確に聞き分けられず、「あいるう」と書いてしまいました。
次に音読(文字を見て話す)について。
小学校の授業では、音読として教科書を読んでもらうことがあります。そのため先生は、文字を読む練習をすることにしました。
先生:「それじゃあ、今から先生がこのボードに鳥の名前を書きます。何の鳥か分かったら教えてください」
<あひる>という単語を読む場合、
文字はもともと3つに分かれていますから音韻意識が発達していなくても、【あ・ひ・る】と1文字ずつ読むこと(コーディング)はできると考えられます。「逐次読み(ちくじよみ)」と言われる状態です。
しかし自分が発音した【あ・ひ・る】という音声が「クワッ、クワッと鳴くあの鳥」だと理解するには、その3つの音を頭の中で【あひる】という単語にまとめる(音韻意識)が必要です。
ところが、ハルキさんは逐次読みはできても3つの音をまとめることができず、そのことばが何を表しているのか理解できませんでした。
事例から見たように、小学校の学習に必要な読み書き力には、「コーディング」と「音韻意識」の両方の発達が必要です。
4.「読み書き」の練習方法!音韻意識の発達を促す「ことばあそび」
では、音韻意識はどのように発達するのでしょうか。
通常、音韻意識は大人や年長の子どもとの話しことばのやりとりやことばあそびを通じて、自然発生的に発達すると考えられます。
一方、生活スタイルや遊びの変化によって、現代ではそのような大人と子ども、年長児と年少児の間でのことばのやりとりが減ったと言われます。音韻意識が自然発生的に発達する機会が少なくなったということです。
そこで、ここでは音韻意識の発達を促すような「ことばあそび」を紹介したいと思います。
ここまで記事を読まれて音韻意識の発達が心配な小学生のお子様だけでなく、就学前のお子様のいる家庭でもぜひ試してみてください。
4-1.音韻を意識することばあそび
はじめはことばの音の粒(拍)の数や並び方を意識するような遊びです。
❚ 音が▢個のことば集め
- お題(拍の数)を決めて、その数のことばを順番に言う。
✓ 2拍(例:【いぬ】)から、3拍(【きつね】)、4拍・・・と増やしていく。
✓ ことばを言うときに、拍に合わせてみんなで手を叩く。
✓ 慣れてきたら、さいころを振って目の数と同じ拍のことばを言う。
❚ 〇からはじまる(〇で終わる、〇が入った)ことば集め
- お題(初めの音)を決めて、そのことばを順番に言う。
「【あ】から始まることば」→【あめ】、【あさがお】・・・。
✓ ことばを言うときに、拍に合わせてみんなで手を叩く。
✓ 慣れてきたらスゴロクのサイコロ代わりにして、言ったことばの音の数だけ進む。
※音の意識に慣れてから、音韻を操作するあそびと段階を踏むのがおすすめです。
4-2.音韻を操作することばあそび
次にことばの音の粒(拍)を操作する遊びです。
❚ たぬきことば
- お題(【た】の入ったことば)から【た】を除いて答える。
【たい】→【い】、【こたつ】→【こつ】、【たけのこ】→【けのこ】
❚ さかさまことば
- お題のことばを逆順にして答える。
【たい】→【いた】、【こたつ】→【つたこ】、【たけのこ】→【このけた】
✓ 慣れてきたら、逆順にしたことばをお題にして、元のことばを答える。
【このけた】→【たけのこ】
❚ 音のパズル
- 数個の音を提示し、並び替えてことばをつくる。
【く】【え】【つ】→【つくえ】、【お】【さ】【あ】【が】→【あさがお】
※音韻操作には、ワーキングメモリー(情報を一時的に記憶して処理する認知的能力)が強く影響します。
ワーキングメモリーの弱さが感じられる場合は、無理をせずに短めのことばで楽しみましょう。
★押さえておいてほしい「ことばあそび」のポイント
- まずは「楽しく」。ことばの世界がふくらんでいくこの時期、「ことばって楽しいなあ。」と感じることが何よりも大事です。
- どの遊びも基本的に紙に書いたりはせずに、発話(音声)だけで行います。
- 原則は「易しいあそびからレベルアップ」してください。
まずは特殊音節の入っていないことばで遊びましょう。簡単な遊びを十分楽しんでから、難しいものに挑戦しましょう。
しりとりも音韻を意識するのによい遊びですが、ことばの初めの音(語頭音)と最後の音(語尾音)の理解が必要なためやや高度です。
「つく、え」など語尾音を強調したり、「え、のつく言葉って何だろう?例えば、もくもく煙が出てくる、えん、」など語頭音のヒントを出してあげると小さな子どもでも一緒に楽しめます。
5.「ひらがな・読み書き」の練習は「ことばあそび」で楽しく効果的に!
少し難しいお話になってしまいましたが、音韻意識の大切さをご理解いただけたでしょうか?
ここで、簡単におさらいしてみましょう。
- 「文字(一文字ずつ)の読み書き」と「ことば(単語)の読み書き」は同じではない
- 「音韻意識」は「文字の読み書き」と「ことばの読み書き」をつなぐ大切な概念
- 聞いたことを書いたり、書かれたことを読み上げたりするときに、頭の中で情報を変換する(音声→文字/文字→音声)活動を「コーディング」という
- 「音韻意識」が乏しいと、うまく「コーディング」できない。また、「コーディング」はできても「音韻意識」が乏しいとことばの意味が分からないことがある
小学校になると教科書を使って文字を読んで考える力や、話を聞いてそれを文にしてまとめる力が必要になります。
その読み書き力の土台となる力、それこそが「音韻意識」です。
ご紹介した「ことばあそび」は、帰り道やお出かけの際に気軽に取り組めます。
親子でコミュニケーションを取りながら、楽しく学びの土台をつくっていきましょう。
主な参考文献
・書籍:小池 敏英・雲井 未歓 ・ 窪島 務(編著),LD児のためのひらがな・漢字支援―個別支援に生かす書字教材,あいり出版,2003
・加藤醇子・安藤壽子・原恵子・縄手雅彦,読み書き困難児のための音読・音韻処理能力簡易スクリーニング検査ELC,Easy Literacy Check,2016
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