「定型発達」とは?「普通」にとらわれて苦しい…発達の個性と見守り方
この記事を書いた人
米澤駿
- 公認心理師
- 臨床心理士
公認心理師・臨床心理士として、子どもやご家族のこころや発達の支援に約10年間携わってきました。
学童や放課後等デイサービスの指導員、乳幼児健診の発達相談員、スクールカウンセラーなど幅広い現場で、発達段階に応じた対応や保護者支援を経験しています。
自分自身も一児の父として、毎日の子育てに奮闘中。
心理学の専門知識と現場経験、そして親の目線も大切にしながら、皆さまのお役に立てる情報を分かりやすく丁寧な言葉でお伝えできるよう心がけています。
SNSや育児書などで目にする「定型発達」という言葉。
「正確にはどういう意味なんだろう?」「うちの子は順調に育っているのかな?」と、気になって検索された方も多いのではないでしょうか。
特に集団生活が増える3歳から8歳頃は、周りの子と我が子の違いが目につきやすい時期です。
「みんなと同じように振る舞えないとダメなのでは」「落ち着きがないけれど大丈夫?」と、漠然とした不安を感じてしまうこともありますよね。
そこで今回は、そもそも「定型発達」とはどのような状態を指す言葉なのかを解説します。
言葉の定義だけでなく、成長の「平均」や「目安」にとらわれすぎず、目の前のお子さまの「その子らしさ」を安心して見守るための心の持ち方や、今日からできる具体的な関わり方もあわせてご紹介します。
「普通」という枠組みのプレッシャーを少し手放して、お子さまの個性をのびのびと育むためのヒントになれば幸いです。

目次
2.コラム:脳の研究でわかる2つの成長スタイル│異なる得意な視点
3.「〇歳でこれができない」と焦る必要なし!平均よりも大切な「その子なりの道筋」
1.「定型発達」=「正常」ではない!本当の意味と誤解

「定型発達」という言葉は、医学的な診断名ではなく、もともとは発達障害という概念が広まる中で、対義語として使われ始めた言葉です。
まずは、この言葉が持つ本来の意味と、私たちがつい抱いてしまいがちなイメージとの違いについて整理してみましょう。
1-1.定型とは「多数派」なだけ、右利き・左利きの違いと同じ
「定型発達」と聞くと、なんとなく「正常である」「問題がない」「正しい成長」といったニュアンスを感じるかもしれません。
しかし、正確には「多数派の脳のタイプ・発達の仕方」を指す言葉であり、人間としての優劣を表すものではありません。
例えば、「右利き」と「左利き」の違いをイメージしてみてください。
右利きの人が多い社会では、ハサミや自動改札機などは右利き用に作られていますが、だからといって右利きが「偉い」わけでも、左利きが「劣っている」わけでもありませんよね。
定型発達とは、あくまで「今の社会において多数派のスタイルで成長している」という状態にすぎません。まずは「定型=正解」という思い込みを外し、あくまで「タイプの一つ」であると捉えることが大切です。
1-2.発達は白か黒かじゃない!誰もが持つ「凸凹(でこぼこ)のグラデーション」
もう一つ大切な視点は、発達の特性は「白か黒か」ではっきり分けられるものではないということです。
私たち大人でも、「空気を読むのは得意だけれど、地図を読むのは極端に苦手」「集中力はあるけれど、片付けがどうしてもできない」といった凸凹(でこぼこ)を持っていますよね。
「定型発達」とされる人の中にも、じっとしているのが苦手な傾向がある人もいれば、こだわりが少し強い人もいます。
その特性が非常に強く、日常生活に著しい困難が生じる場合に「発達障害」という診断名がつくことがありますが、その境界線は実はとても曖昧な「グラデーション」なのです。
「うちの子は定型発達なの?それとも違うの?」と、枠組みに当てはめることよりも、「この子はこういうことが得意で、こういう場面が苦手なんだな」と、その子のグラデーションの状態をそのまま理解することの方が、子育てにおいては重要になります。
2.コラム:脳の研究でわかる2つの成長スタイル│異なる得意な視点

「定型発達」という言葉は、しばしば「基準」のように語られますが、研究からは「ある特定の学習ルートを得意とするタイプ」であることが見えてきます。
例えば、幼児期の言葉の研究によると、定型発達の子は「動作語」を80語ほど覚えると、それを土台に「時間」や「場所」といった抽象的な概念を一気に獲得する傾向があります 。また学童期の研究では、7〜8歳頃になると、断片的な情報から状況全体を察する「洞察的」な推論が得意になることがわかっています 。
つまり、定型発達とは、社会の共通ルールや文脈を効率よくインストールできる「社会適応特化型OS」を持った子どもたちと言えます。
一方で、そうでないタイプの子どもたちは、周囲の空気を読むことよりも、自分の「実体験」や強烈な「興味・関心」をフックにして世界を理解しようとします 。
定型タイプが「マニュアル通りに器用にこなす優等生」なら、彼らは「自分の感性で体当たりして真理を探究する研究者」です。
「定型」はあくまで多数派の成長ルートにすぎません。空気を読むのが得意な子も、独自の視点で世界を深掘りする子も、どちらもユニークな魅力を持った、異なる輝き方をする子どもたちなのです。
3.「〇歳でこれができない」と焦る必要なし!平均よりも大切な「その子なりの道筋」

「定型発達」の意味が分かっていても、SNSなどで「〇歳でこれができる!」といった情報を見ると、焦ってしまうのが親心です。
ここでは、平均や目安にとらわれすぎず、お子さんの成長を前向きに捉えるための視点をご紹介します。
3-1.育児書はあくまで統計「横との比較」より「縦の成長」を見よう
母子手帳や育児書にある「〇歳の成長の目安」は、あくまで統計的な「平均値」にすぎません。
しかし、私たちはついこれを「最低ライン」や「ノルマ」のように感じてしまいがちです。
例えば、言葉が出るのが、ゆっくりなお子さんがいたとします。周りと比べると「遅れている」と心配になりますが、その子の内面では、今は言葉を発するよりも「周りの音をじっくり聞く力」や「観察する力」を急速に育てている場合もあります。
大切なのは、横(ほかの子)との比較ではなく、縦(その子の過去と現在)の比較です。
「半年前は座っていられなかったけれど、今は5分座って絵本を見ている」「先月よりも着替えを頑張ろうとしている」といった、「その子なりの成長の道筋(プロセス)」に目を向けられるようになると、子どもの発達に対する不安は成長の楽しみへと自然に変わっていくでしょう。
3-2.苦手なことは「克服」させなくてOK「環境調整」という視点が大切
「定型発達の子のように、なんでも平均的にできなければ」と思うと、つい子どもの苦手なことをトレーニングして克服させたくなります。しかし、苦手なことを無理やり直そうとする関わりは、親も子も苦しくなってしまうことが多いものです。
そこでおすすめなのが「環境調整」という考え方です。本人の努力で克服させるのではなく、周りの環境を変えることで「できた!」を増やすアプローチです。
- 支度が遅い場合…
「早くしなさい」と叱るのではなく、やることを絵カードにして視覚的に分かりやすくする。 - じっとしているのが苦手な場合…
足がぶらぶらしないよう踏み台を置き、集中できる短い時間で区切って活動する。
これは眼鏡をかけて視力を補うのと同じことです。眼鏡をかけることは「甘え」ではありませんよね。その子が楽に行動できるように工夫することは、発達のタイプに関わらず、すべての子どもの生きやすさにつながります。
「どうやったらこの子がやりやすいかな?」と、実験するような気持ちで環境を整えてみてください。
4.コラム:診断名より大切?脳科学が証明した「子どもの脳を守る」唯一の共通点

「定型発達」と「ADHD」。両者の違いばかりが注目されがちですが、ある脳科学の研究で興味深い事実が示されました。
それは、診断名の有無に関わらず、周囲のサポートが不足すると脳の特定の部位(脳弓・分界条)が変化し、ネガティブな感情が増えやすくなるという共通点です。
逆に言えば、どんなタイプの子どもであっても、「困った時に助けてもらえる」という安心感や適切なサポート環境があれば、脳と心の安定につながるということです。
「普通かどうか」という枠組みよりも、その子が「安心して過ごせているか」という環境の視点を持つことが、成長を支える一番の近道なのかもしれません。
5.公認心理師のお悩み相談室:「じっとしていられない」は問題行動?親ができる2つのアプローチ

ここでは、実際によく寄せられるお悩みをもとに、心理師の視点から子育てのヒントをご紹介します。
年長の息子がいますが、とにかくじっとしているのが苦手です。園の行事でも一人でキョロキョロしていますし、スーパーでもすぐに走ってどこかへ行こうとします。
周りの子はちゃんと親の横で待てているのに、どうしてうちの子だけ……と情けなくなります。
「定型発達の子なら、もう落ち着いているはずなのに」と、普通じゃないのではないかと不安でたまりません。
【お悩みについての回答】
周りのお子さんができている姿を見ると、「どうしてうちの子だけ」と焦りや不安を感じてしまうのは、親としてとても自然なことです。
毎日追いかけるだけでも大変な中、本当によく頑張っていらっしゃると思います。
このお悩みに対して、「捉え方(視点)」と「具体的な対応」の2つの面からアドバイスをさせていただきます。
◆ 捉え方・視点:「困った行動」の背景には理由がある
まず、「じっとしていない」という行動を少し違う角度から見てみましょう(これを専門的に「リフレーミング」と言います)。
お子さんがキョロキョロしたり動き回ったりするのは、実は「好奇心が旺盛」で「エネルギーに溢れている」証拠でもあります。
「落ち着きがない」と捉えると短所に見えますが、「興味の幅が広い」「行動力がある」と肯定的に捉えると、発達の特性を“欠点”ではなく“個性”として見つめやすくなるでしょう。
また、お子さんがキョロキョロしたり動き回ったりするのは、脳が新しい刺激を求めて、情報をたくさん吸収しようとしている状態とも言えます。
「スーパーは気になるものがいっぱいあるから、キョロキョロしちゃうのも無理はないか」と子どもの行動を「脳の構造上、仕方ない」と受け入れることで、親御さんの気持ちが少し楽になるかもしれません。
◆ 対応:「できていないこと」より「できたこと」に注目する加点法アプローチ
つい「走らないで!」「じっとして!」と注意したくなりますが、心理学的には「否定命令(〜しない)」よりも「肯定的な行動を褒める」方が、望ましい行動は定着しやすいと言われています。
具体的には、「当たり前にできている瞬間」を見逃さずに褒めることがポイントです。
例えば、スーパーで10秒でも手をつないで歩けた時には、「手をつないでくれてありがとう、助かるわ」と伝え、レジで待てている瞬間に「かっこよく待てているね」と声をかけます。
このように、「走り回った時に叱る」のではなく、「静かにしている時に注目する」ことが大切です。親御さんの注目(肯定的な言葉)は、子どもにとって何よりのご褒美です。
お子さんが「こうすると自分のことをちゃんと見てくれる!」と学習することで、少しずつ落ち着いた行動が増えていくことでしょう。
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主な参考文献
・小山 正,定型発達の子どもの初期の時間、位置、場所を表示する語の広がりと動作語の獲得――家庭での認知・遊びの発達との関連
・田中 里実,橋本 創一,堂山 亞希,野元 明日香,田口 禎子,山口 遼,町田 唯香,堀越 麻帆,推論能力を用いた状況理解に関する発達心理学的検討:定型発達児と知的・発達障害児の比較から
・鈴木茜音,成育環境が ADHD 児および定型発達児の情動表出に及ぼす影響とその神経基盤
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