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戦いごっこは禁止すべき?乱暴に見える遊びに隠された成長のカギ

この記事を書いた人

米澤駿 米澤駿

米澤駿

  • 公認心理師
  • 臨床心理士

公認心理師・臨床心理士として、子どもやご家族のこころや発達の支援に約10年間携わってきました。

学童や放課後等デイサービスの指導員、乳幼児健診の発達相談員、スクールカウンセラーなど幅広い現場で、発達段階に応じた対応や保護者支援を経験しています。

自分自身も一児の父として、毎日の子育てに奮闘中。

心理学の専門知識と現場経験、そして親の目線も大切にしながら、皆さまのお役に立てる情報を分かりやすく丁寧な言葉でお伝えできるよう心がけています。

「パンチ!」「キック!」など、子どもが戦いごっこ(ヒーローごっこ)に夢中になっている姿を見て、「乱暴な子に育たないか」「いつかお友達に怪我をさせてしまうのでは」と不安を感じていませんか?

目の前で繰り広げられる攻撃的な行動に、どこまで許容していいのか戸惑う親御さんは少なくありません。

この記事では、4歳〜7歳頃の子どもを持つ保護者に向けて、戦いごっこが持つ意外な「教育的価値」と、親としての適切な関わり方について解説します。

実は、戦いごっこは単なる乱暴な遊びではなく、将来役立つ「戦略的思考力」や「問題解決力」を育む絶好のチャンスでもあります。

禁止するのではなく、安全に見守りながら子どもの力を伸ばすコツを一緒に見ていきましょう。

目次

 

1.戦いごっこに夢中になるのはなぜ?(叩く・蹴るの本当の意味)

「どうしてこんなにも夢中で“戦う”の?」——子どもの戦いごっこを前に、疑問や不安を感じる親御さんは多いものです。

しかし、この遊びにこそ、今しか育めない大切な成長の芽が隠されています。

発達と心理的な観点から、子どもたちがなぜ戦いごっこに夢中になるのか、その理由を解説していきます。

 

1-1.発達の観点からみた「戦いごっこ」

5歳から7歳という時期は、運動能力が飛躍的に向上し、自分の身体を思うように動かせる喜びを感じる年代です。

戦いごっこに見られる激しい動きは、あふれ出るエネルギーの発散であると同時に、いまの自分の身体機能の限界バランス感覚を確認する作業でもあります。

また、この時期の子どもは「象徴機能」が発達し、目の前にないものをイメージする力が豊かになります。

ただ棒を振り回しているのではなく、彼らの頭の中では壮大なストーリーが展開され、自分は勇敢なヒーローになっているのです。

つまり、戦いごっこは高度な「イメージ遊び」の一種であり、知的な発達が順調に進んでいる証拠とも言えます。

 

1-2.心理的な観点からみた「戦いごっこ」

心理的な側面から見ると、ヒーローへの「同一化(憧れの対象になりきること)」が大きな役割を果たしています。

子どもは日常生活の中で、親や先生から注意されたり、思うようにいかない無力さを感じたりと、小さなストレスを抱えています。

そんな時、圧倒的に強いヒーローになりきることで、「自分は強いんだ」「何でもできるんだ」という万能感を獲得し、心のバランスを整えているのです。

また、架空の敵(悪者)を倒すプロセスを通じて、心の中にある不安や攻撃的な感情健全に吐き出し、カタルシス(浄化)を得ているとも考えられています。

 

2.「戦いごっこ」によって育まれる力とは?

「危ない!」「乱暴はダメ!」と制止したくなる戦いごっこですが、実は子どもの将来に役立つ多様な能力を育んでいるのです。

ここからは、戦いごっこを通して子どもたちが獲得していく力について詳しく見ていきましょう。

 

2-1.戦力的思考力

戦いごっこには台本がありません。

敵(相手役の親や友達)がどう動くか予測し、それに対して自分がどう動けば勝てるかを瞬時に判断する必要があります。

「正面から行くと捕まるから、後ろに回り込もう」「今は隠れて、相手が油断した隙に攻撃だ」といった駆け引きは、まさに戦略的思考の基礎です。

目的を達成するために、状況に合わせて柔軟に計画を立て直すプロセスは、将来社会に出たときに必要な力の原点となります。

 

2-2.問題解決力

遊びの中では、予期せぬトラブルや困難が次々と起こります。

「武器が壊れてしまった」「相手が強すぎて勝てない」といった壁にぶつかった時、子どもたちはどうすればその状況を打開できるかを必死に考えます。

諦めて泣くのではなく、「新しい武器を作ろう」「仲間(兄弟や親)に助けを求めよう」と代替案を模索する経験は、困難に直面した際の問題解決能力を養います。

 

2-3.コミュニケーション力

お友達や兄弟といった子ども同士で戦いごっこをする場合、そこには高度なコミュニケーションが発生します。

「僕はレッドね、君はブルー役ね」といった役割分担の交渉や、「ビームが当たったら倒れてね」というルールの共有が必要です。

お互いのイメージをすり合わせながら共通の世界観を作り上げる作業は、協調性を養います。

自分の意見を主張しつつ相手の提案も受け入れるという、社会生活の基本が集約されているのです。

 

2-4.感情コントロール力

戦いごっこには痛みが伴うリスクや、勝敗による悔しさがつきものです。

興奮してつい手加減を間違え、相手を泣かせてしまった時、子どもは「やってしまった」という罪悪感とともに、力の加減を学びます。

また、負けた時の悔しさをぐっと堪えて「もう一回!」と立ち上がる経験や、逆に勝った時に相手を気遣う余裕を持つことなど、激しい遊びだからこそ、強い感情の波をコントロールする練習になります。

 

3.「戦いごっこ」に親はどう関わればいい?

子どもたちの戦いごっこが持つ教育的価値を理解したところで、次は実際にどのように関わっていけばよいのかを考えてみましょう。

「見守るべき」と分かっていても、つい「やめなさい!」と言ってしまいがちなこの遊び。

適切な距離感で子どもの成長をサポートするための具体的なヒントをご紹介します。

 

3-1.安全と安心のためのルール作り

遊び始める前に、親子で「これだけは守ろう」というルールを決めておきましょう。

重要なのは、禁止事項を羅列するのではなく、“安全に楽しむための約束”として伝えることです。

例えば、「顔とお腹は攻撃しない」「武器はスポンジや新聞紙などの柔らかいものだけ」「『参った』『ストップ』と言ったらすぐに止める」といったシンプルな3つ程度のルールがおすすめです。

これを守れない時は遊びを中断するというペナルティも含めて合意しておくことで、子ども自身に自制心が生まれます。

 

3-2.遊びを制止するタイミングと声かけ例

どんなに良いルールを作っても、子どもが興奮して度を超えてしまうことはあります。

そんなときは、適切なタイミングで介入することが大切です。

制止すべきタイミングの例としては以下のようなケースが挙げられます。

  • 本気で叩いたり蹴ったりして誰かが泣き出したとき
  • 遊びのなかで特定の子が一方的に攻撃対象になっているとき
  • 危険な場所(階段や道路近く)で戦いごっこが始まったとき
  • 周囲の人(特に小さな子ども)が怖がっているとき

 

このようなときの声かけは、否定的な言葉を避け、代替案を示すことが効果的です。

例えば「危ないからやめなさい!」ではなく、「ここは狭いから、広い場所でやってみようか?」と伝えることで、子どもの自主性を尊重しながら安全を確保できます。

まずは「ちょっとタイム!すごく熱い戦いだけど、一度お茶を飲んで作戦タイムにしよう」と、遊びの延長線上として休憩を提案してみてください。

もしルール違反があった場合は、「今のパンチは顔に近かったよ。約束を覚えている?」と冷静に事実を伝え、子ども自身に気づかせることが大切です。

 

3-3.子どもの成長に繋がる声かけ例

戦いごっこを“ただ暴れるだけの遊び”で終わらせないために、子どもの思考を引き出す声かけを意識してみましょう。

戦いが終わった後や休憩中に、「さっきのあの動き、どうやって思いついたの?」「強い敵を倒すために、どんな作戦を立てたの?」と問いかけてみてください。

子どもは自分の考えを得意げに話してくれるはずです。

言語化を促すことで、無意識に行っていた戦略的な思考が整理され、論理的に考える力がさらに定着します

また、「ママを守ってくれてありがとう」とヒーローとしての役割を肯定することで、自己肯定感も高まります。

 

4.戦いごっこのトラブル…ママ同士はどう対処する?│心理師のお悩み箱

園で戦いごっこをしているようですが、たまにエスカレートして、押されたり強く叩かれたりしてケガをしてくることがあります。

ケガは擦り傷程度ですが、正直、ケガをして帰ってくると「あの子は乱暴なんだな」と子どものお友だちに不快感を抱いてしまいます。

うちの子もお友だちを強く叩しまうこともあるでしょうし、お互い様かな…と思うところはあるのですが、その子のママに対しても「ちゃんと教えているの?」と不安を感じたりします。

こんな気持ちでモヤモヤしていて、ダメと分かっていながらも「危ないから戦いごっこなんてやめなさい!」と怒ってしまうことがあります…。

こんなとき、どうすればいいのでしょうか?

 

このようなお悩みは、4〜7歳のお子さんをお持ちの保護者の方からよく寄せられます。

子ども同士の戦いごっこは教育的価値がある一方で、ケガや対人関係のトラブルを引き起こすこともあるため、親としては複雑な気持ちになるのは当然です。

では具体的にどう対応すればよいのでしょうか。

 

>>子どもがケガをして帰ってきたとき

まずは傷の手当てをしながら、子どもの気持ちを受け止めましょう。

「痛かったね」「悔しかったね」と共感します。

その上で、状況を冷静に聞きますが、「誰にやられたの?!」と犯人探しをするのはNGです。

「どんな遊びをしていたの?」「どうして痛いことになっちゃったのかな?」と、プロセスに目を向けさせましょう。

大切なのは、「嫌なことは『やめて』と自分で言う」練習の機会にすることです。

「痛いときは『痛い!』って大きな声で言おうね」「『タイム』って言って逃げていいんだよ」と、自分の身を守るための交渉術を教えてあげてください。

子どもが「遊びの延長で起きた事故」だと納得しているなら、親があまり過敏になりすぎず、「次は当たらないように避ける練習だ!」とポジティブに変換してあげるのも一つの手です。

 

>>子どもがお友達にケガをさせてしまったとき

お互い様とはいえ、我が子が加害者になる可能性も十分にあります。

もしケガをさせてしまったと分かったら、まずは相手の子と保護者に誠実に謝ることが大前提です。

相手の親御さんも「うちこそ、乱暴にしてないか心配していたんです!」と同じ悩みを抱えている場合も少なくありません。

「お互い様」の意識を共有し、「もし何かあったら、遠慮なく言ってくださいね」「お互いケガさせちゃったらごめんなさい」と一言伝え合える関係を作っておけば、小さなトラブルが起きても不信感を持たずに済みます。

親同士がオープンに話せる関係であれば、子どもたちも安心して全力で遊ぶことができます。

また、自分の子どもに対しては、頭ごなしに叱るのではなく、「なぜ手加減できなかったのか」を一緒に振り返ります。

「夢中になりすぎた?」「武器が硬かった?」と原因を探り、「次はどうすれば楽しく遊べるか」を考えさせましょう。

そして、謝る時は「ごめんなさい」だけでなく、「強く叩いてごめんなさい。大丈夫?」と、具体的な行動を謝罪し、相手を気遣う言葉を添えるよう教えることが、社会性を育む上で非常に重要です。

 

5.戦いごっこは子どもの未来を育む大切な遊び

戦いごっこは、一見すると乱暴で無秩序に見えるかもしれませんが、子どもたちにとっては自分と他者の境界線を学び、感情をコントロールする術を身につけるための重要な取り組みです。

「叩く・蹴る」という行為そのものに目を向けるのではなく、その奥にある「強くなりたい」「工夫して勝ちたい」という意欲に寄り添ってあげることで、戦いごっこは最高の知育遊びに変わります。

親御さんが安全なルールという環境を用意し、その中で子どもを自由に遊ばせ、そして時折、「今の作戦すごかったね!」と実況解説のように関わることで、子どもは楽しみながらぐんぐんと伸びていくはずです。

ぜひ今日から、お子さまの小さなヒーロー活動を、温かい目で見守ってあげてください。

 

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