できない、やらないは「自己効力感」が低いから?スモールステップで効力感を育もう
この記事を書いた人
遠藤さおり
- 社会福祉士
大学在学中に社会福祉士・介護福祉士の資格を取得。
知的障害児のレスパイトサービスや高齢者介護施設での勤務を経て、現在は福祉系ライターとして活動中です。
自身も小学生の子の母として、子どもの可能性を伸ばすことを第一に考えながら子育て奮闘中!
福祉の視点を活かしながら、お悩みに寄り添った記事の執筆を目指してまいります。
お子さんが難しいことに直面したとき、「やっぱりできない!」と諦めてしまうことはありませんか?
「やってみないとわからないじゃない。やってみたらきっとできるのに… 」
そんなふうに思い、ヤキモキしている親御さんも多いのではないでしょうか?
これは性格の問題ではありません。子どもが自信をもって物事に取り組めない原因のひとつには、「自己効力感」の低さが関係しています。
今回は、そんな自己効力感を高めるために「スモールステップ」を活用するアイディアをご紹介します。
自己効力感は関わり方次第でいかようにも伸ばすことができます。今日から親子ではじめてみませんか?
1.「自己効力感」とは?
まずは自己効力感がどういったものか、言葉の意味と自己効力感が高まる条件について見てみましょう。
1-1.基本を確認! 「自己効力感」って何?
自己効力感(self-efficacy)は、カナダの心理学者、アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「自分自身がある目標を達成する能力や力を持っているという自信」を指します。
シンプルに言い換えると、自分の中にある「できる感覚」のことです。
物事に取り組む姿勢やモチベーションに大きな影響を与え、ポジティブな行動を加速させるものであるとされています。
1-2.自己効力感には3つの種類がある
自己効力感には「自分の行動に対して発揮するもの」「人間関係の中で発揮するもの」「学習などに取り組むときに発揮するもの」というように、大きく3つに分けて考えることができます。それぞれ見てみましょう。
●個人的な自己効力感(Personal self-efficacy)
個人的な自己効力感は、自分の行動を前向きにコントロールするときに役立ちます。
個人的な自己効力感が高ければ、自分の能力に自信を持ち、困難な状況にも立ち向かうことができます。
●社会的な自己効力感(Social self-efficacy)
社会的な自己効力感は、良好な人間関係を構築していくことに役立ちます。
社会的な自己効力感が高いとコミュニケーションに自信が持てるので、相手の気持ちを理解する余裕ができたり、集団の中での自分の価値を認めて影響力を持ったりすることができます。
●行動的な自己効力感(Behavioral self-efficacy)
行動的な自己効力感は、ある行動を実行する能力や意欲に影響します。
困難な状況に直面してもめげることなく、目標に向かって努力を続けることができるので、学習やスポーツなど様々な面で役立つスキルになります。
これらの自己効力感は、いずれも子どもが成長していく上で欠かせない要素です。子どもの強みを伸ばせるよう、親としてもサポートしていきたいですね。
では、子どもの自己効力感はどのように伸びていくのでしょうか?
1-3.子どもの自己効力感を伸ばすなら、「受け入れる」ことが大事!
心理学教授である柴田利男の論文『幼児の自己効力感と対人行動』で述べられている、「幼児の自己理解」についてみてみましょう。
柴田教授によると、幼児は、「他の子とあまり比較されることがなく、また比べる能力もそれほど発達していないため、自分にどの程度の能力があるのか的確に把握することができない。それゆえ、自分自身が満足していれば、『よくできる』すなわち有能である」と考える傾向にあるといいます。
また、「こうありたい」という理想の自己イメージと現実の自己イメージとの間の区別もあまり明確ではないそうで、「有能」かどうかより、「得意か否か」、「自分が受け入れられているか、否か」という点において自己を評価しているといいます。
つまり、子どもの自己効力感を高めるために親ができることは、子ども自身を丸ごと受け入れることです。
大好きな親御さんに存在を認めて貰えれば、子どもの自己評価が高まり、自己効力感も大きく伸びてゆくでしょう。
2.「自己効力感」が高い子の特徴3つをチェック!
では、自己効力感はどういった場面で役立つのでしょうか? ある研究によると、自己効力感が高い子どもは他者と積極的にコミュニケーションをとり、「おおらかで人好き」な傾向にあるそうです。
一方、自己効力感の低さは、単独行動の多さや攻撃行動と関連しているともいわれています。
「自分はできない」「自分はダメだ」といった自信のなさから、仲間に加われないことが影響しているのかもしれません。
このような自己効力感の低さによる「できない」への囚われは、子どもの成長する力を弱めて「やろうとしない」「できないことから逃げる」といった原因にもなりかねません。
子どもの意欲やチャレンジ精神を伸ばすためにも、自己効力感のメリットを今一度確認してみましょう。
2-1.特徴① チャレンジ精神旺盛
自己効力感が高い子どもは、何事も前向きにチャレンジできる強い心を持っています。
難しいことでも「やってみよう」と前向きに思えるので、その分成功体験も重ねるチャンスも増え、自己効力感をさらに高める良い循環を自ら作り出すことができます。
2-2.特徴② 失敗してもめげない
自己効力感の高い子どもは、失敗した時にこそ強さを発揮します。
失敗に落ち込むだけでなく、その後にどのように改善できるかや解決策を考えることができるので、次に向けた成功への道が開けやすくなります。
2-3.特徴③ 成長意欲が高い
自己効力感の高い子どもは、成長意欲が高いのも特徴です。「もっとできるようになりたい」という気持ちが強く、努力を惜しみません。
年齢が上がるにつれて難しい課題に直面する機会も増えますので、このようなモチベーションの高さは非常に重要です。
3.幼児期に成功体験を積んで自己効力感を高めよう!
このように、自己効力感の高さは “生きていくためのスキル” ともいえます。
上手に高めてあげたいものですが、そもそも自己効力感はどのようなときに高まるのでしょうか? そして、高まるチャンスはいつなのでしょうか?
3-1.自己効力感が高まるのはどんなとき?
まずは、どのような場面で自己効力感が高まるのか見てみましょう。
【自己効力感がUPするとき】
・成功体験をしたとき
・他の人が成功しているのを見たとき
・応援や激励をもらったとき
・成功をイメージしたとき
【自己効力感がDOWNするとき】
・失敗体験をしたとき
・他の人が失敗しているのを見たとき
・緊張や体調不良など条件が悪いとき
・失敗をイメージしたとき
例えば、「5段の跳び箱を飛ぶ」シチュエーションを想像してみてください。
今までに何度か5段を飛べた成功体験が多ければ、自己効力感は高くなります。一方、失敗体験が多いと「今回もできるはずがない」と自己効力感は低くなりす。
また、目の前で友だちが成功しているのを見れば「自分もできるかも!」と自己効力感が高くなります。しかし、失敗が続いていれば「自分も失敗するのでは… 」と自己効力感が低くなってしまいます。
応援や激励によって高まることもあれば、その反対に緊張や体調不良によって低くなることもあるなど、自己効力感の高さは様々な要素によって大きく左右されのが特徴です。
成長とともに自然と身についていくものではありませんので、関わる大人が積極的に「自己効力感を高める体験」に導いていきたいですね。
3-2.幼児期は自己効力感を高めるチャンス!
さて、そんな自己効力感を高めやすいタイミングは、実は幼児期にやってきます。とくに、3歳前後の「なんでも自分でやりたい!」という思いがつよくなる時期はチャンスです。
この時期に子どもの意欲をサポートすることで、自己効力感がグングン高まっていくでしょう。
しかし、やりたい気持ちが強い反面、失敗することも多い時期です。
「できない」体験が積み重なることで癇癪を起したり、「できないからやらない」とあきらめ癖につながったりすることもあります。
まずは、子どもの「できない」ことを「できない」まま受け止め、子ども自身を認める姿勢を見せましょう。
徐々に「できる」が増えることで、先生や友達など周りの人から褒められたり、受け入れられたりする経験も多くなります。
このような経験は幼児期から小学校、中学校とその後につながる自己効力感を高めることにもつながりますので、まずはこの時期に「できる」を増やすサポートをしていきましょう。
4.自己効力感を高める 「スモールステップ」とは?
では、子どもの自己効力感を高めるために、親は具体的にどのようにサポートしていったらよいのでしょうか。
今回は誰にでも取り入れやすく、かつ、自己効力感を高めるのにぴったりな手法「スモールステップ法」をご紹介します。
「スモールステップ法(Small Steps Method)」は、大きな目標や課題を達成するために小さなステップを設けて、段階的に達成を目指すアプローチ方法です。
一見達成するのが難しく思える大きな目標も、小さなタスクに分解してそれらを順番に達成していくことで「できた!」を実感できるので、モチベーションが落ちづらいメリットがあります。
実は、このスモールステップ法は様々な場面で効果を発揮します。例えば、ダイエットや掃除・片づけなどに、すでに無意識に取り入れているかもしれません。
とくに子育てにおいては、伸び盛りの子どもの力を最大限引き出すのにうってつけ。上手に取り入れて、子どもの「できる」を増やしましょう。
5.子どもの”できる”の作り方!「スモールステップ」の手順
ここからは、スモールステップ法の取り入れ方を手順ごとにご紹介します。
スモールステップ法は最初に計画をしっかり立てることが重要です。
ステップの途中で見直すこともできるので、まずは課題となっていることを思い浮かべながら、手順に沿って進めてみましょう。
5-1.手順① 最終目標を設定する
まずは、達成したい大きな目標をわかりやすい言葉で設定しましょう。
どのようなことができるようになっていたいのか、どのような姿になっていたいのか、子どもと一緒に決めるのがおすすめです。
5-2.手順② 目標を達成するための小さな目標をつくる
次は、取り組むべきことが明確になるよう目標を細かく分けていきます。必要な場合は、優先順位をつけましょう。
ただし、細かく分けすぎると達成感を得にくくなったり、進捗がわかりづらくなったりと、逆効果になる場合があります。
適切な個数については、目標の大きさや子どものタイプによっても変わるので一概にはいえませんが、子どもが取り組みやすい内容・数のステップを選ぶことで、効果的に進めることができます。
「楽にこなせるとき」と「少し努力しなければこなせないとき」の緩急をつけるのも有効なので、子どもに合わせて試してみてください。
5-3.手順③ ステップを1つずつこなす
小さな目標ができたら、優先順位の高いものから取り組んでいきます。
ステップの途中はそのステップを完了させることに集中し、次のステップに移る前に確実に達成しましょう。
1つのステップは1度で成功しなくても大丈夫です。何度も失敗するようであれば目標設定が高すぎた可能性もありますが、すぐにできなかったとしても焦らないようにしましょう。
5-4.手順④ できたら褒める
小さな目標を達成したら、その都度子どもを褒めましょう。シールを貼るなどして「できた!」の積み重ねを可視化するのも効果的です。
また、この段階で最終目標までのステップを見直し、必要に応じて追加や変更などの調整を行いましょう。とくに何度も失敗してしまったときは挫折につながる可能性もあるので、さらに目標を細分化する必要があるかもしれません。
そして、全てのスモールステップを重ねて最終目標に到達・達成したときは、盛大に褒めましょう。成果はもちろんのこと、ここまで取り組んできた過程を褒めるのも重要です。
子どもが「ひとつずつ頑張ると、最後に “できた!” を味わえる」と知ることができたら、スモールステップ法は大成功です。
6.実践 「スモールステップ」活用例!子どもの ”できる” を増やそう!
スモールステップ法は、学習面でも日常面でも様々な場面で役立ちます。
ここからは、2つの目標達成に向けたスモールステップ法の取り入れ方を具体的に見てみましょう。
【学習編:数字・ひらがなが書けるようになる】
● 最終目標:「ひらがなが書けるようになる」
<スモールステップ>
1. 「┃(縦)」や「━(横)」を5本ずつ書ける。
2. 「し」や「つ」といった簡単な文字を書ける。
3. 自分の名前を1文字ずつ書ける。
4. それ以外の文字も書ける。(文字ごとに細分化する)
5. 「あいうえお・かきくけこ」と自分で書ける。
【日常編:着替え・歯磨きができるようになる】
● 最終目標:「ひとりで着替えができるようになる」
<スモールステップ>
1. 親が頭や足を入れるところを教え、手を添えて誘導して着る。
2. 親が声掛けして、子どもが自分でズボンをはく。
3. 親が声掛けして、子どもが自分でTシャツを着る。
4. 子どもが自分でボタンを留める。
5. 朝起きたら自分で服を着替える。
7.こんなときどうする?「スモールステップ」成功のコツ
スモールステップ法を進めていく中で、時にはつまずいてしまうこともあるでしょう。
しかし、焦らなくても大丈夫です。その時に親がどのように対応するかによって、子どもの自己効力感はしっかりと育まれていきます。
最後は、そんな成功のコツ3つをお伝えします。「自己効力感が高まるとき」を思い出しながら、チェックしてみてくださいね。
7-1.「他の人の成功体験」を伝える
子どもがステップにつまずいてしまったときは、自身の体験を伝えましょう。
「これ、ちょっと難しいよね。でも大丈夫だよ。お母さんも最初は失敗しちゃったけれど、何度か挑戦したらできるようになったからね」というように、子どもの気持ちに寄り添う姿勢で、自身の成功体験をもとにした前向きな声掛けを行うことが重要です。
時には「〇〇ちゃんも今頑張っているんだって」というように、同じ立場の子どもが頑張っていることをさり気なく伝えるのも効果的です。
7-2.応援の声掛けをする
ステップをモチベーション高くこなしていくには、ポジティブな声掛けも重要です。
「今日も頑張ってるね」「あなたならきっとできるよ!」と親に応援してもらえることで、子どもは見守ってくれている安心感や、失敗しても支えてもらえる心強さを感じることができます。
時には祖父母なども巻き込みながら、子どもの自己効力感を高める応援をしましょう。
7-3.コンディションを整える
設定したステップを順調にこなしていくためには、身体や心のコンディションが良好であることも重要です。
とくに睡眠や食事などが大きく影響するので、生活リズムを整えて体調を万全にしましょう。
ステップに取り組むときは、調子のよい時間帯に配慮することも大切です。
8.スモールステップで子どもの自己効力感を育もう!
子どもの「できる」を増やす自己効力感は、伸び盛りのまさに今、子どもにしっかり身につけさせてあげたいですよね。
これから先、勉強でも仕事でもたくさんの壁につまずくときがくるかと思います。そんなときに役立つこれらのスキルは、まさに “生きる力” となるでしょう。
スモールステップ法はその時々の課題に応用することができるので、ぜひ生活に取り入れてみてください。
子どもと一緒に成功体験を積むことは親御さんの自信にもつながります。
親子で「もっとチャレンジしてみよう!」から「できた!」につながる良いサイクルをつくっていきましょう。
主な参考文献
・幼児の自己効力感と対人行動,柴田利男,北星論集(社)第42号,2005
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