「小1プロブレム」の定義とは?元教師が簡単に小学校入学前・入学後の対策を解説
この記事を書いた人
榊原なつき
- 心理カウンセラー
- 中学校教諭
- 小学校教諭
- 保育士
小学校教諭として2年間勤め、現在は放課後等デイサービスに勤務
保育士・小学校教諭・中学校教諭・心理カウンセラーの資格をもち、大学では教育社会学を専攻。
ひとりひとりの個性に合った教育や療育を目指しています!
小学校への入学は、お子さまの成長の中でも特に大きな節目となりますね。
「毎日楽しく学校に通えるかな?」「お友達と仲良くできるかな?」「お勉強にはついていけるかな?」とお子さまとともにお父さん・お母さんも期待や不安を抱えていることと思います。
みなさんは「小1プロブレム」という言葉を聞いたことはありますか?
小学校入学直後の1年生が、学校での集団生活に馴染めずに集団行動がとれなかったり問題行動を起こしたりしてしまう現象のことで、近年社会問題となっています。
お子さまが入学後に「小1プロブレム」に悩まされず楽しく学校へ通うことができるように、小学校入学前にできる対策や入学後に意識するポイントをお伝えします!
目次
1.「小1プロブレム」の現状や定義は?問題になっている事例について
4.「小1プロブレム」を防ぐ学校での取り組み「スタートカリキュラム」とは?
1.「小1プロブレム」の現状や定義は?問題になっている事例について
そもそも「小1プロブレム」とはどんな状態のことなのでしょうか。
先ずは実際に小学校で問題になっている事例も交えてわかりやすく解説します。
1-1.「小1プロブレム」ってどんな状態?
小1プロブレムとは「小学校に入学したばかりの小学校1年生が集団行動が取れない、授業中に座っていられない、話を聞かないなどの状態が数ヶ月継続する状態」(東京都教育委員会「東京都教育ビジョン(平成16年4月策定)本文」より引用)のことを指します。
また集団行動が取れない状態が継続し、クラス全体の授業が成立しない状況に陥っている状態のことを言うこともあります。
1-2.実際に小学校で問題になっている事例
実際の小学校で問題視されている「小1プロブレム」の事例を紹介します。
・チャイムが鳴っても外遊びがやめられず、教室に戻ってこない。
・先生が話しているときに急に話し始める。
・授業中に席を立って教室を歩き回り、友達のところへ行ったりロッカーへ荷物を取りに行ったりする。
・嫌なことやうまくいかないことがあったときに、ものを投げたり破ったりする。
このようなことが続くと、授業についていけなくなったりお友達との関係もうまくいかなくなったりしてしまうことにつながってしまいます。
2.「小1プロブレム」の原因
小学校入学後に起こる「小1プロブレム」はなぜ生じてしまうのでしょうか?
「自分が小学生の頃にはそんなことを聞いた記憶がない」「親の子育ての仕方が悪いのかも」と考えるお父さん・お母さんもいるかもしれません。
しかしこの問題は現代の社会状況や子どもたちを取り巻く環境の変化に大きく影響を受けていると考えられています。
2-1.集団での学びに馴染めていないから
保育園や幼稚園では、あそびがの中で先生がひとりひとりの子どもたちに声をかけてくれることが多いものです。
一方小学校では、45分の授業の間静かに先生の話を聞いて授業を受けなければいけません。
子どもたちは、先生がみんなに話をしているのを聞いて動く必要があります。
保育園や幼稚園で集団で行動することに慣れていない子どもにとっては、みんなで同じことを同じペースで行うことにとても難しさを感じてしまいます。
2-2.ストレスを対処する力が十分ではないから
最近は「叱らない子育て」や「個を尊重する教育」などが広まり、子どもの自由な発想を大切にする幼児教育が増えています。
一方で、そういった教育方針や、少子化、核家族化が進み、周りの行動に合わせたり友達と協力して活動したりする経験が減ってしまい、自分の思い通りにならないことに対してストレスを感じてしまう子もでてきます。
また、初めての環境には不安や戸惑いがあるものです。
保育園や幼稚園での生活が日常の当たり前になっていた子どもたちには、その環境の変化も大きなストレスとなってしまいます。
2-3.コミュニケーションの機会が減少しているから
現代では共働きの親御さんも多いですよね。
かつてはおじいちゃんやおばあちゃんが同居して子どもの面倒をみていたり、近所の家庭との関わりがあったりしました。
しかし今は、子どもたちが関わる人は家族以外に、保育園・幼稚園・習い事の先生などに限定されていることも多く、様々な人とのコミュニュケーションをとる機会が減っています。
様々な個性を持った同級生とコミュニケーションを上手く取れずに、学校になじめないお子さんも出てきてしまいます。
3.「小1プロブレム」を防ぐために家庭でできる対策
「小1プロブレム」の原因がわかると、それを防ぐために家庭でできる対策も明らかになってきます。
まずは小学校入学前に、日常生活の中で意識して取り組むべきことを3つ紹介します。
入学前にじっくりと対策を講じることで、お子さまは入学後もスムーズに小学校での生活に馴染めるようになります。
3-1.家庭を安心して過ごせる場にする
小学校に入学した子どもたちは、新しい環境や出来事に触れて緊張や不安を抱えながら過ごしています。
だからこそ家庭を子どもたちがリラックスして過ごせる場にすることで、翌日も学校に行って元気に過ごそうという気持ちになることができます。
子どもが安心して家庭で過ごせるようになるために、まずは親御さんがリラックスして子どもと接する時間があることが大切です。
日々お仕事や家事で忙しく、子どもにも「ご飯食べさせなきゃ」「お風呂にはいらせないと」などと思いながら声をかけてしまうこともあるかもしれません。
しかしそのような子どもと絶対に関わらなくてはいけない時間こそ、子どもと一緒に過ごす時間を楽しみ、子どもの声に耳を傾けてみましょう。
周りの人が笑顔でいると子どもは「ここは安心して過ごせる場所」だと思えるようになります。
3-2.子どもの自己肯定感を高める
この時期の子どもは自分で「やってみたい!」と思う気持ちがより一層高まっていきます。
一方で集団の生活の中では周りのペースに合わせることを求められて注意を受けることが増えたり、周りのペースに追いつけなくて悔しい気持ちを抱いたりすることも増えてきます。
そのようなことが増えすぎると「自分は何をしてもダメだ」「怒られるなら何もしないほうがいい」と感じてしまう子どももいます。
学校でひとりひとりのペースに合わせることが難しいからこそ、家庭ではお子さんのペースに合わせて様々なことに挑戦させてみましょう。
人にはそれぞれ得意不得意があります。挑戦して失敗することがあっても、絶対にどこかにそれぞれのお子さんのいいところが見つかるはずです。
「チャレンジできてすごい!」「自分からお手伝いしてくれてありがとう!」「ひとりでできたね!」などといいところを褒めていくことで、「次もやってみよう!」と感じ、次の高い目標に対しても挑戦する意欲につながっていきます。
3-3.基本的な生活習慣を身につける
保育園・幼稚園では大人が手伝っていたことも、小学校に入学すると先生の指示のみで一人でやらなければならないことが増えていきます。
自分の身の回りのことをひとりでできるようにしておくことで、小学校での生活もスムーズに送ることができます。
具体的には基本的な生活習慣を一人でできるようになるといいでしょう。
- 必要なものの用意や片付け
- 身の回りのものの整理整頓
- 時計を見て行動する
- 挨拶をする
- 相手を話を聞く
- ある程度の時間イスに座り、集中して活動する
- ある程度のものを好き嫌いをせずに食べる
特に時計を見て行動する習慣をつけることで、チャイムで行動するという学校の習慣にもつなげることができます。
時計を読むことが難しい子でも「長い針が6(30分)になったら片付けようね」などと声掛けをすることで、見通しをもって行動することができるようになります。
4.「小1プロブレム」を防ぐ学校での取り組み「スタートカリキュラム」とは?
小学校の先生も子どもたちが楽しく小学校生活をスタートできるように様々な工夫を凝らしています。
特に全国の学校で「小1プロブレム」を防ぐために、「スタートカリキュラム」という取り組みが小学校1年生の授業で行われています。
4-1.スタートカリキュラムとは?
スタートカリキュラムとは、幼稚園や保育園で親しんだ活動を取り入れたり学びやすい環境を取り入れたりすることで、安心して小学校での生活をスタートさせるための取り組みです。
先生や友達と関わる活動を多く行うことで、人と関わる喜びや学校の楽しさを感じられるようになります。具体的には次のような取り組みが行われています。
- 自己紹介あそび
- 学校探検
- いきものさがし
- ことばあそび
- リズムあそび
- お兄さんお姉さんとの交流
入学してすぐは学校生活に慣れることを目標とした学習と、「イスに座って教科書とノートを開いて勉強する」という学習を織り交ぜながら、少しづつ教科の学習への移行していきます。
家庭での対策も大切ですが、入学後には学校での取り組みを知り学校との連携をしっかりとることで、未然に子どもの問題行動を防ぐことができます。
5.「小1プロブレム」を防ぐために小学校入学後に意識すること
このような小学校での取り組みがあることを知ったうえで、実際に小学校にお子さまが入学してから気をつけるポイントを紹介します。
5-1.子どもと学校の話をする時間を作る
学校では、先生はなかなか子どもの話をじっくり聞いてくれる時間をとれないのが現状です。 学校で頑張ったことを十分に認められないこともあります。
その分家庭でその日学校であったことをお父さんやお母さんに話して認めてもらうことで、より学校生活を充実したものにしようと思えるようになります。
5-2.子どもの宿題や連絡帳、学級通信などに目を通す
子どもの宿題や連絡帳、学級通信などは、先生から保護者への思いが込められています。
その日学校であったことや特に子どもたちに身に付けてほしいと思っていることがたくさん詰まっています。
子ども本人から話を聞いたうえでそのメッセージを読めば、実際に学校でどのようにお子さまが過ごしているかを知る手掛かりとなり、さらにお子さまとの話題を深めるきっかけにもなります。
5-3.子ども自身が選択して行動する習慣をつける
小学校に入学すると先生指示に従ったり周りと同じように行動したりする場面が増えます。
保育園や幼稚園で自主性を大切にされてきた子どもたちにとってはストレスがかかっていることになります。
一方で学年が上がるにつれて自分で考えて行動することが強く求められていきます。
そのため家庭では積極的に子ども自身が考えて行動できる場面を多くもてるとよいでしょう。
例えばスケジュールを立てる際には「宿題は算数からやる?国語からやる?」「長い針がいくつになったらお風呂に入る?」「お出かけの前には何をするんだっけ?」などと聞き、子どもが答えることで、自分で決断して行動する習慣がついていきます。
最初は2つの選択肢から選ぶ経験をして、次第に答えがいくつもある質問をしていくといいでしょう。
6.【小学校】入学前と入学後はできることから少しずつ取り組もう!
「小1プロブレム」の原因を知り日常生活で少しずつ意識して対策を講じることで、小学校入学後の問題行動を防ぐことができます。
また問題行動を起こしてしまう子どもはその子自身に問題があるのではなく、子ども自身もまわりにうまく適応できず困っていることを行動で示しているのです。
お子さまが安心して楽しく小学校生活を送れるように、一番身近な家庭で少しずつできることから始めていきましょう!
参考文献
・斎藤義雄(2017)生活課のスタートカリキュラムに関する研究―小1プロブレムに視点を当てた大学の授業の実践―東京家政学院大学紀要 第57号 21-36
・東京都教育委員会 東京都教育ビジョン(平成16年4月策定)本文
・善野八千子(2019)教育行政における幼小接続期の政策形成についての考察奈良学園大学紀要 11 99―112
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