ペアレントトレーニングとは?臨床心理士が解説!~我が子にとって一番の理解者になるために~
この記事を書いた人
狩野淳
- 公認心理師
- 臨床心理士
大学、大学院にて発達心理学と臨床心理学を専攻していました。
臨床心理士と公認心理師の資格を保有しております。
子ども達とその保護者の方の支援を仕事にしており、子ども達へは主に応用行動分析を認知行動療法用いて、保護者の方にはブリーフセラピーを使ったアプローチを行っています。
もうすぐで1歳になる男の子がいて、毎日癒されています!
「検診で『障がいの疑いがある』と言われたが、今後どうすればいいかわからない」
「障がいを持っている我が子にどう接していいかわからない」
はじめて「障がい」と出会った親御さんが、このように思われるのは無理もないでしょう。
障がいを持ったお子さんは、言葉が通じにくかったり、突発的な行動に出やすかったりする傾向があります。
お子さんの行動に対して、理由やその背景にある事柄がわからず、茫然としたり、時には感情を抑えきれず、怒鳴ってしまうことも決して珍しいことではありません。
つい感情的になり、自己嫌悪に陥った親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな親御さんに知っていただきたいのが「ペアレントトレーニング」です。
この記事では、ペアレントトレーニングの内容や対象年齢、受けることができる場所についてご紹介していきます。ぜひ、お子さんへの関わり方の参考にしてください。
目次
1.療育とは?「治療」と「教育」の2つの側面
ペアレントトレーニングの解説の前に、「療育」についてお話します。
「療育」とは、障がいのある子どもや障がいの疑いのある子どもに対して、一人ひとりの障がいの特性や発達状況に合わせて、困りごとの解決や将来的な自立、社会参加などを目指して行う支援のことです。
主に18歳以下が対象です。「療育」という言葉には、「障がい特性によって生じた問題を解決し、より暮らしやすい方向へ導く」という治療的側面と、「子ども自身が、障がい特性や問題解決の方法を学ぶ」という教育的な側面があります。
1-1.療育の大切さ
定型発達児(障がいを持たず、一般的な流れで成長する子ども)は日々の生活の中で、様々なことを「なんとなく」「空気を読んで」学んでいきます。
しかし、障がいのある子どもは「なんとなく」や「空気を読む」ことが苦手な傾向にあり、私たちが自然と身につけてきた知識や経験則を獲得しないまま成長してしまいます。
例えば、普段の暮らしの中で相手が使っている物を自分も使いたいときには「貸して」と言いますよね。それは他の子が言っているの見て真似をしたり、周りの大人から「貸してって言おうね」と教えられたりすることで学習していきます。
しかし障がいのある子どもの場合、自分の欲求を満たすことを優先してしまうため、無理やり奪い取ってしまい、トラブルに発展してしまうことが少なくありません。
療育ではそうならないよう、さまざまな練習や訓練を行います。
まずは大人との1対1のやり取りの中で「貸して」と言う練習を行い、スムーズに借りることができる経験を積みます。そこからさらに、先生が見守る中で「貸して」と言ってみる、そして最後に、子どもだけの関係で成立させるという具合に、段階を経て「貸して」を学んでいきます。
このように「療育」では、取りこぼしてきた部分や普通に生活していては気づけなかった、わからなかった部分について、意識的に学習を促していきます。
1-2.「早期発見・早期介入」の重要性
専門的な支援が必要であるにも関わらず、見過ごされてきたお子さんと、2~3歳や未就学の段階で療育に繋がってきたお子さんとでは、「できることの幅」にかなりの差があるように感じます。
しかしこれは筆者の主観であり、「療育を全く受けていない子」と「数年にわたり療育を受け続けてきた子」を比較する研究データは存在しません。
とはいえ、専門的な療育を受けてきたお子さんは積み重ねてきた力があり、また、蓄積されたその子のデータ(どんなことが得意/苦手か、どのようなサポートが効果的か)があるので、たとえ障がいがあっても、保育園や幼稚園、小学校で落ち着いて暮らすことができているケースを多く見てきました。
このように、療育を通じていち早く子どもの苦手なところ、サポートすべきところを見つけ、支援していくことで、子どもの将来の選択肢や方向性はぐっと広がっていくのです。
2.ペアレントトレーニングとは?
ここまで、療育についてお話してきました。療育の重要性についておわかりいただけたかと思います。
しかし、療育にも限界があります。また、子どもの体力や集中力にも限界がありますので、療育を受けられたとしても1時間程度を週に数回となってしまいます。これではできること、学べることに限りがあります。
そこで、家庭で親御さんの関わりの質を向上させることで、より日常的に「学習の場」を提供することができるようなプログラムが考案されました。
それが、「ペアレントトレーニング」です。
2-1.ペアレントトレーニングの概要
ペアレントトレーニングは1960年代にアメリカで開発されたプログラムで、1990年代頃には日本版のペアレントトレーニングも開発されています。
ペアレントトレーニングは、単に知識を得るための講義ではありません。
保護者同士で「親役」と「子役」に分かれて、実際に子どもが困った行動をした際にどのように対応するかをシミュレーションするロールプレイ実習や、臨床心理士や公認心理師、言語聴覚士、作業療法士などの専門職による演習などを通じて、家庭でも子どもの行動を変える練習を行えるようになることを目指します。
2-2.ペアレントトレーニングのプログラム内容
地域や施設によってプログラムの内容に差はありますが、共通している部分もあります。
それが「ABC分析」です。
子どもの「行動」には必ず「理由」と「結果」があります。
例えば、同い年のお友達を叩いてしまったとしましょう。このときに「お友達を叩いちゃダメでしょ!」と「行動」のみに注目して𠮟りつけたとしても、あまり効果はありません。
叩いてしまった「理由」に焦点を当てていきます。
「理由」は様々で、「貸してと言えなくて手が出てしまった」「力のコントロールができず、強く叩いてたたいてしまった」等、お子さんの性格やその時の状況次第でいくらでも可能性があります。
普段の様子から「理由」を予測し、対策を立て、どうすれば叩くという「行動」をとらずに済むのか。
叱られたという「ネガティブな結果」ではなく、褒められた、上手くできたといった「ポジティブな結果」にしていくにはどうすればいいのかを考え、実行する術を体感的に学んでいきます。
このような手法が、「ABC分析」です。
2-3.ペアレントトレーニングの参加年齢目安
ペアレントトレーニングの対象年齢は、おおよそ3歳から9歳程度とされています。
ペアレントトレーニングでは声掛けによっても行動変容を目指していくため、言葉による指示をある程度理解する力が求められます。
しかし、それ以外の行動変容の術を学ぶことができ、また、親御さん自身が今後の子育てのヒントとなる知識を身につけることもに意味があるため、実施機関によっては0歳児の親御さんが参加可能な場合もあります。
3.ペアレントトレーニングの効果
ペアレントトレーニングについての概要とプログラム内容について解説してきましたが、ペアレントトレーニングを受けるとどんなメリットがあるのかについては、なかなか掴みにくいと思います。
そこで、ペアレントトレーニングの効果について、お子さんの変化と親御さんにとっての効果に分けて紹介していきます。
3-1.子どもの変化ー行動変容ー
子どもの変化としては、ペアレントトレーニングの狙いの通り、行動が変わってくることが挙げられます。
それまで大きな声を出したり、叩いたりして意思表示をしていた子が、絵カードやマカトンサインを使うことで適切にコミュニケーションを取ることができるようになる、などが例として挙げられます。
絵カードやマカトンサインについて興味のある方は、以下の書籍などをぜひ参考にしてください。
これは子どもに合った声掛けや環境設定を行うことで、問題行動が減り、より適応的な行動が増えることが要因として考えられます。
親御さんが技術や知識を学び、それを自分の子ども用にアレンジしていくことで、さらに子ども達の行動はより良い方向へと変わっていきます。
参考文献
・青木高光 , 杉浦徹 , 竹内奏子 (2021)「絵で見てわかる! 視覚支援のカード・教材100-自分で「できる! 」を楽しく増やす」 学研プラス
・松田祥子,磯部美也子(2008)「マカトン法への招待 21世紀のすべての人のコミュニケーションのために」 日本マカトン協会
3-2.親の変化ー抑うつ状態の改善ー
ペアレントトレーニングを通じて、親御さんにも変化が起こります。
ペアレントトレーニングに参加することで、子どもの行動の変化を実感し、子どもに対して前向きに考えることができるようになります。
岩手大学の研究によると、ペアレントトレーニングに参加することで、親御さんの抑うつ状態が改善したことが報告されています。
これは子どもの行動変容以外にも、ペアレントトレーニングで出会ったほかの親御さんとつながりができ、互いに相談したり、情報交換をしたりすることで、1人で抱え込んで子育てをすることがなくなったことが大きく影響すると考察されています。
4.ペアレントトレーニングを実施している場所
ペアレントトレーニングにはお子さんだけではなく、親御さんにもメリットがあることをお伝えしました。
もちろん、効果に個人差はあり、セラピストとの相性もありますが、困りごとを解決するための手がかりは得ることができるでしょう。
最後に、ペアレントトレーニングを行っている機関について簡単に紹介していきます。
4-1.幼稚園や保育園
障がいを持ったお子さんを積極的に受け入れていたり、障がいを持ったお子さんへの専門的な教育としてモンテッソーリ教育を取り入れている幼稚園や保育園があります。
専門的な知識があるスタッフが多い幼稚園や保育園では、ペアレントトレーニングを行ってる場合があります。
障がいについて知識と経験が豊富ですから、家でどんな関わりをすればよいか熟知していますので、的確なアドバイスがもらえるでしょう。
人員配置や時間の関係で簡易的なペアレントトレーニングにならざるを得ないケースもありますが、幼稚園や保育園を探す際の1つの指標になるかもしれませんね。
4-2.行政主催のパパママ教室
子育て支援センターや子育て支援課などが主催となって親子教室を行う自治体は多くあります。
その一環として、ペアレントトレーニングが行われている場合があります。
地域によっては担当スタッフが専門職であることもありますので、より具体的な話を聞くことができます。
詳しくは、お住まいの自治体ホームページなどを確認してみてください。
4-3.児童発達支援センターなど
最後に、児童発達支援を行う通所支援事業所についてです。
ここ最近で数が増え、皆さんの地域にもいくつか事業所があるのではないでしょうか。
未就学のお子さんを対象に専門的な療育を行う児童発達支援で、ペアレントトレーニングを扱っている事業所は決して珍しくありません。
保育園や幼稚園、行政主催のパパママ教室とは異なり、児童発達支援事業所に通うためには、「通所受給者証」が必要になりますが、継続的にじっくりとお子さんを見てもらえるため、オススメです。
通所支援事業所とは
障害のある児童や発達に心配がある児童に、療育を提供する場所のこと。未就学児の場合は「児童発達支援」、小学生~高校生が「放課後等デイサービス」となっています。臨床心理士や公認心理師、言語聴覚士といった専門的なスタッフが在籍していることが多く、日常的かつ継続的に専門的な療育を受けることができます。
5.ペアレントトレーニングを通じて、親子で一緒に学ぼう
子育て、特に障がいを持った子どもを育てる際には、子ども自身も成長していくのはもちろんのこと、親御さん自身も知識や技法を身につけていくことが、その後の育ちの鍵を握るといえるでしょう。
独学で学ぼうとしても、必ずしも自分の子どもに合っている情報にたどり着けるとは限りません。
専門的な知識を持った支援者と一緒にお子さんに伝わりやすい方法を考え、実行していく方が、より早く適切に行動変容を促せる可能性が高まるでしょう。
今回の記事を通して、少しでもペアレントトレーニングに興味を持っていただき、お子さんが生きやすい方法をより早く見つけていただけますと幸いです。
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参考文献
・一般社団法人 日本発達障害ネットワーク JDDnet 事業委員会作成,日本ペアレント・トレーニング研究会協力「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」
・佐藤 正恵,植田 映美,小川 香織(2010)「ADHD児の保護者に対するペアレント・トレーニングの有用性について」