
3.4.5歳「他人が怒られているのを怖がる子」〜理由と寄り添い方を解説
この記事を書いた人


中川さくら
- 保育士
- 児童指導員
学生時代に障害児福祉を学び、小学校の特別支援教育支援員や療育施設の保育士、学童保育、小学校などで、子どもたちやそのご家族と関わる仕事を約10年ほど経験しました。
今は、保育園に通う1歳の息子がいます。
昔バックパッカーだったので、いつか家族で世界を旅することが夢です。
誰かが怒られているのを見ることは、おそらく多くの人にとって、気持ちの良いものではないでしょう。
しかし、日常や社会の中で支障が出てしまうほど、このことをつらく感じる人もいます。
子どもの場合、教室で過ごすことが苦痛になり、登園しぶりや登校しぶりにつながることもあります。
幼いお子さんがその辛さの原因を理解して、周囲に伝えるのは難しいことです。
・理由がわからないけど、保育園に行きたがらない
・「せんせいがこわい」と言うけれど、そんな事なさそうに見える
と悩むママやパパから、CONOBASにも相談をお寄せいただいています。
その要因の1つに「人が怒られているのが怖い」という理由があるかもしれません。
・自分が怒られているわけではないのに、怒られている人を見ると辛くなる
・他の人が怒られているのを見ると、自分が怒られてるように感じてしまう
というお子さんの繊細な心に寄り添う方法を、一緒に考えていきましょう。
目次
1.他人が怒られているのを怖がる理由
人が怒られているのを見ると、自分が怒られているわけではないのに、なぜ辛い気持ちになってしまうのでしょうか。まずはその理由から解説します。
1-1.怒っている理由がわからなくて怖い
幼児期など幼いお子さんの場合は「怒っている理由がわからないから怖い」という理由が挙げられます。
保育園や幼稚園で、お友だちが先生に叱られている場面を見ると、「先生が怒っている」という事実しかわからないため、「怖い」と感じることがあります。
これは、「自分以外の、他の人にも気持ちがあること」がわかる発達段階にまだ達していないから、という理由が考えられます。つまり人の立場に立って物事を考えることがまだ難しいのです。
個人差はありますが、4歳後半から5歳頃に「相手の気持ちを想像する」ことができるようになると言われています。
年少〜年長のお子さんは、この発達過程を行きつ戻りつしながら、成長していく途中にいます。
そのため「先生にも怒る理由があるんだろうな」とまだ想像できず、他人が怒られているのを怖がる要因になることがあるのです。
1-2.ひといちばい敏感な気質がある
「感受性が極めて強く、感覚や人の気持ちに敏感で傷つきやすい」という性質を持った子どもたちは「HSC(Highly Sensitive Child)(ひといちばい敏感な子ども)」と呼ばれ、およそ5人に1人いると言われています。
この気質の子どもたちは幼いうちから、集団生活の中で生きづらさを感じることがあります。
HSCについてはこちらの記事をご覧ください。
育て方で変わる!ひといちばい敏感で繊細な子ども「HSC」の特徴といいところを伸ばす言葉がけをご紹介
このようなひといちばい敏感で繊細なお子さんにとっても、「周りの人が怒られている状況」は苦手でストレスです。その理由を、3つの特性から解説します。
①自分も怒られるのではないかと不安を感じる
HSCの気質がある子や、不安を感じやすい子の中には「予期不安」を抱きやすいケースがあります。
たとえば、自分が怒られたわけではないのに「自分も同じ失敗をしたら、怒られるかもしれない。」「過去に怒られた辛い思いを繰り返すかもしれない…」と、起きていない未来を想像して不安になってしまうことなどが当てはまります。
この「もしも〜だったらどうしよう」というのが予期不安です。
「不安」は誰もが感じるものであり、危険から身を守るために必要な感情でもあります。しかし、日常に支障が出てしまうほど強く持ちすぎてしまう人もいるのです。
②人が怒られているのを自分のことのように感じる
HSCの特性の1つには「共感力の高さ」も挙げられます。
たとえば、
- 誰かが怒られている姿を見ると、自分も怒られているような気持ちになる
- 友だちが先生に怒られているのが辛い
などが当てはまります。
大人でも、職場で誰かが上司に叱られている場面で、共感力が高いゆえに自分まで落ち込んでしまうなど、同じ辛さを抱えている人もいます。
周囲から見ると些細なことでも、怒っている人の声色や口調、怖い雰囲気、嫌な空気なども環境の刺激として受け取りやすく、受け流すことができないほど共感力が高いため、ストレスや疲労を溜めてしまいます。
③大きい声、騒音が苦手
他人が怒られている状況を怖がる理由として、感覚の中で特に聴覚に過敏さを持っているケースも挙げられます。
聴覚過敏があると、大きな声や怒鳴り声、大きな物音がとても苦手でストレスを感じます。
幼児期のお子さんは、まだ的確に自分の不快さを言葉にしきれないため、聴覚過敏によって感じる不快感を「怒ってて怖い」「怒るから嫌だ」と表現している可能性もあります。
普段から、大きな音や特定の音を異常に嫌がる様子がないか、観察してみてください。
感覚過敏についてはこちらの記事でご紹介しています。
感覚過敏とは?子どもが過ごしやすくなる対応法や現場での事例を紹介
2.他人が怒られているのを怖がる子が直面しやすい悩み
他人が怒られているのをひといちばい怖がることが原因で、日常生活の中でお子さんはさまざまな悩みに直面します。
すべてのお子さんが当てはまるわけではありませんが、直面しやすい悩みを3つ解説します。
2-1.登園しぶり、不登校の要因になることがある
お子さんが「他人が怒られているのを怖がる」からといって、必ず登園しぶりや登校拒否をするわけではありません。
ただ、集団生活では「他人が怒られている」状況に出会う頻度が高くなり、敏感なお子さんはストレスを感じやすいのです。
「たくさんの人がいる。その中の誰かが突然怒るかもしれない。」という場所へ毎日通うこと自体が、非常に労力を必要とし、それが登園しぶりや不登校のきっかけの1つになるケースがあります。
幼いお子さんは、抱えている辛さや蓄積する疲労の原因を自覚したり、伝えたりすることは難しく、もちろん自身でストレスの少ない環境を選ぶこともできません。
子育てカウンセラーで心療内科医でもあり「HSCの子育てハッピーアドバイス」の著者・明橋大二医師は、「原因がはっきりしない不登校の8〜9割はHSCではないかと思っています。」と述べており、既存の学校に通う以外の、多様な学びの場づくりの必要性を訴えています。
2-2.「臆病、わがまま」「育て方が原因」と誤解されやすい
敏感なお子さんたちは周囲から「臆病・わがまま」と誤解されたり、「大袈裟・気にしすぎ」と傷ついた気持ちを否定されたりしてしまうことがあります。
しかし、HSPの人は「不安や恐怖」の感情処理に関わる「扁桃体」が過剰に働きすぎると言われており、その影響で人一倍不安や恐怖を感じやすかったり、些細な刺激に強く反応したりします。
聴覚過敏も、原因ははっきり解明されていませんが、音に対する脳の情報処理がうまく機能していない可能性が考えられています。
少なくとも、「わがままや大袈裟」ではなく、本人もどうしようもなく困っているということです。
また、「甘やかしすぎ、過保護だからそうなったんだ」と、親の育て方が原因のように言われることもあるかもしれません。
ですが、HSCや感覚過敏をはじめ、お子さんの「気質」は生まれ持ったものであり、育て方や環境によるものではありません。同じ環境・同じ育て方をしても、きょうだい同士で全然違うのだから、1人1人がもともと持っている気質というわけです。
2-3.ストレスが心身に表れる
幼いお子さんたちは、自分のストレスを認知することが難しく、本人も周囲も気づかないため無理をしてしまう、させてしまうことがあります。
ストレスを抱え込むと自律神経やホルモンバランスが乱れ、心身の不調によってストレスを訴えることがあります。大人が察知してあげられるよう、原因のわからない心身の不調のサインを見逃さないようにしましょう。
①体の不調
保育園や学校に行こうとすると、頭やお腹が痛くなる、熱が出る、動機がするなど、体に不調が出ることがあります。
食欲のあきらかな増減や排便の不調、寝起きの悪さなど、不調の出方は人それぞれです。風邪でもないのにお子さんの体調が良くない、またその状態が続くときは、ストレスの可能性が考えられます。
②心の不調
イライラしやすい、落ち込みやすい、感情の波が激しい、という形で心の不調が出ることがあります。
感情のコントロールがうまくできないことは、中間反抗期や幼さゆえのものもあるため、心の不調は一見分かりにくく、周囲から察知してもらいにくいという難しさがあります。
大きな不調になる前に小さなストレスのサインをキャッチできるよう、普段からお子さんの様子を気にかけておきたいですね。
3.他人が怒られているのを怖がる子への対応
次に、お子さんが実際に「他人が怒られているのを怖がっている」ときの対応方法を4つご紹介します。
3-1.「怒っている理由がある」ことを知る
先に説明した「怒っている理由がわからないから怖い」というお子さんには、わかりやすい言葉で説明してあげると効果的です。登園しぶりの原因になっている場合もあるので、参考にしてみてください。
保育園や幼稚園での出来事なら、先生に事情を聞いてから説明すると良いでしょう。
- 先生がそのとき怒った理由
- 危険なことや傷つけることをしない人になるために、大人は子どもを怒ることがある
- みんなが大好きだからこそ、ダメなことは教えたいと思っている
など、お子さんの理解度に合った言葉で説明しましょう。
理解力がついていくと、「あの人は怒っているけど、理由があるんだろうな」と想像できるようになり、むやみに怖がることが少なくなっていきます。
3-2.「気にしすぎ」など子どもの気持ちを否定しない
ここまででお伝えしてきたように、繊細なお子さんは周囲から誤解されやすいため、傷ついてしまうことがあります。
まずは「怒っている人を見ると怖い、辛い」という事実、つらかった気持ちをそのまま受け止めましょう。「そうだったんだね、嫌だったね」と言ってもらえると、お子さんはホッとすることと思います。
逆に、1番身近で大好きな人に否定されると、お子さんは本当の気持ちに蓋をしたり、自分のことを大切に思えなくなったりしてしまいます。
自分の気持ちを信じてもらえることで、いずれお子さんが成長したときに、自分自身のポジティブな感情もネガティブな感情も丸ごと自分なんだと、自己受容できるようになっていきます。
3-3.繊細な気質も素敵な魅力だと伝える
他人が怒られているのを怖がりやすいお子さんは、周囲の刺激に敏感になっていて物事を拒否してしまうこともあるため、「我慢が足りない」など叱られてしまい、自己肯定感が下がりやすいケースがあります。
集団生活は刺激が多く緊張しやすいだけでなく、他人と比べられやすい環境です。家庭ではできる限り安心感を感じられ、自己肯定感を育めるような環境を意識できると良いですね。
たとえば「人の気持ちがわかるから、怒っている人を見ると怖く感じちゃうんだよね、あなたが優しいからだね」と感受性の豊かさをプラスに捉えてもらえたり、敏感で繊細な自分もそのままでだいじょうぶだと、肯定してもらえる安心感があったりすると、その気質が良い方向へ発揮されやすくなるでしょう。
3-4.無理強いせず「できる範囲」を増やしていく
他人が怒られているのを怖がりやすいお子さんに、その状況にいるよう無理を強いると逆効果な場合があります。
たとえば、「先生やお友だちが怒るから、幼稚園に行きたくない」と登園しぶりをしている場合は、「それくらい我慢しなさい」と無理強いせず、3-1. 「怒っている理由がある」ことを知る」の方法を試してみてください。
「それくらいで?」と思うこともあるかもしれませんが、お子さんとママパパが、物事に対して同じように感じるわけではありません。最後まで話を聞き、お子さんの言葉を信じてあげてくださいね。
親も仕事があり、なんとか登園してくれないかと葛藤することと思います。
ですが、急かしたり無理を強いたりするとお子さんは「自分の気持ちをわかってくれない。こんなにつらいのに助けてくれないんだ。」とさらに不安や拒否が強くなることがあります。
周囲と比較せず、試行錯誤しながらお子さんの「できる範囲」を見つけていきましょう。
登園が難しければ「休んだ日もお散歩で幼稚園の前を通る」「玄関で挨拶をしたら帰る」など、先生の理解と協力も得て、安心できる場所にしていくことが近道になるかもしれません。
4.他人が怒られているのを怖がる子は、人を大切にできる子
「他人が怒られているのを怖がる子」の理由や対応方法をお伝えしました。
感受性が豊かで共感力の高いお子さんたちは、幼いながらに、日常生活を送るだけでひといちばい頑張っています。
これらの気質は、成長と共にうまく付き合っていく術を身につける場合もありますし、「人の感じ方はそれぞれ違う」と苦労して知っているから、相手の気持ちに寄り添えるというポジティブな側面もあります。
親としては、我が子が他の子と同じようにできないと不安ですし、周囲の言葉にも動揺してしまいますが、1人1人気質の違う子を育てているのです。
「うちの子に合った育て方でいい」と、お子さんの生きづらさを少しでも解消していくことに、気持ちを向けていけると良いですね。
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